374話 ケイル王国7
ケイル王国では紫鬼が中心となった兵士達の訓練が続けられていた。
当初一万だった兵士の数も今は一万二千にまで増えていた。
数を増やした要因は軍部が出した触れ込みである。
『君も一緒に秘密の特訓で強くなろう。ケイル王国軍、人員募集中。』
と書かれたチラシが国中にばら撒かれたのだ。
秘密の特訓とは紫鬼へとただだた向かっていくゾンビアタックのことである。
緑鳥を派遣する事が難しい為、代わりに聖都から聖者、聖女を5名体制で借り受けている。
紫鬼のパンチによって吹き飛ばされ、内臓破裂の重傷を負っても聖術により強制的に治癒され、再び紫鬼へと向かっていく。
強者に立ち向かう勇気を育むと共に恐怖心を和らげる効果があった。
今までは1人1人が紫鬼に殺到するような特訓方法であったが、今回からはより実戦を考えて4人一組の迎撃態勢を想定しての訓練に変更された。
若き兵士、ビオデルテも4人一組のパーティーを作って特訓に励んでいた。
ビオデルテは茶色い髪を所謂坊ちゃん刈りにした青年で、ケイル王国軍には16歳から加入し、7年目を迎える兵士である。パーティーの立ち位置としてはリーダーを任されており、アタッカーとして長剣を扱う。
そのパーティーの1人、マジガラントは2m超えの身長に筋骨隆々の肉体を持った金髪の短髪ヤローである。見た目通り脳筋な奴で、すぐに紫鬼相手でも突っ込んで行こうとする。パーティーでは大盾に片手のバトルアックスを持ったタンク役である。
3人目のパーティーの兵士、ベールデールは唯一の女性であり、赤毛を短髪に刈り込み、男勝りな印象を持つ槍使いである。
最後にガルドビジオ。肩まで伸ばした長髪を首の後ろで結んだ爽やかイケメンであり、ベールデール同様に槍使いである。
4人は軍部に入った時期が同じの所謂同期であった。
7年も一緒にいればお互いのことは良く知っている。
ビオデルテはよく言えば実直、悪く言えば頭が固いタイプで余り、臨機応変に物事を考えるのは苦手だった。
そんなビオデルテをフォローするのがベールデール。ビオデルテも彼女の言うことは素直に聞いた。
マジガラントは脳筋、ガルドビジオは理想を語るタイプだった。
全く性格の異なる4人だが、同期の中にあっても仲が良い方で4人一組のパーティーを作る際にもすぐに4人が集まった。
訓練の合間に4人は集まって作戦会議を行う。
「ふぅ。この訓練が始まって暫く経つけどまだ一撃も入れられてねぇ。紫鬼の旦那はバケモンだぜ。」
マジガラントがぼやく。
「確かにあの人はおれ達とは鍛え方が違うな。あの王鎧ってやつも強固で一撃入れてもビクともしないって話だよ。」
ガルドビジオも続ける。
「でもそんな紫鬼さんを相手にキチンと戦えるようになれば甲蟲人が襲ってきても戦えるようになるって話じゃん。私達も頑張らないと。」
ベールデールが2人を勇気づける。
「そうだよ。ベールデールの言う通りだ。今の僕達じゃ甲蟲人がケイル王国に攻め入ってきた時に盾役にも慣れないってことだろ。もっと4人の連携を駆使して攻撃を防ぎつつ、一撃与えられるようにならないと。だからまず、マジガラントは1人で突っ走るのは止めてくれよ。」
ビオデルテはマジガラントに注意する。
「俺、1人で突っ込んでるか?皆後ろについてきてると思ってたけど?」
「まぁ突っ込みがちだね。2人目として続くビオデルテに1m以上距離が空いてる事もざらにあるしね。」
首を傾げるマジガラントにガルドビジオも言う。
「アンタは図体がでかいんだから後ろを気にしながら接敵するくらいでちょうどいいんだよ。足の長さも違うんだ。アンタが走ったら誰も追いつけないじゃん。」
ベールデールがさらに追い打ちをかける。
「そうか。分かった。んじゃ次は後ろ見ながら突っ込むわ。」
「突っ込まなくていいんだよ。慎重に近付こう。紫鬼さんのパンチをマジガラントが大盾で受ける。そのタイミングで後ろからベールデールとガルドビジオが槍で突いて僕が斬りかかる。それが1番だと思うんだ。」
マジガラントにビオデルテが言い含めるようにゆっくりと説明する。
「なるほどな。俺はタンク役だもんな。敵の攻撃を受け止めるのが仕事か。」
「そうだよ。今頃気付いたのかい?全くアンタは昔から突っ込みがちなんだよ。もっと連携を大切にするべきじゃん。」
ベールデールもマジガラントに言う。
3人は他の人の言うことはあまり聞かないが、ベールデールの言うことは素直に聞くのである。
「ベールデールは左利きだからマジガラントの左側から、おれは右側から攻めるでいいんだよね?」
「えぇ。それで構わないわ。ビオデルテは左から接敵するんでしょ?」
ガルドビジオの質問に答えながらベールデールがビオデルテに確認する。
「あぁ。僕は左側から回り込むよ。ベールデールは槍で突いたらすぐに槍を引いてくれると助かる。」
「分かったよ。アンタの進路の邪魔にならないようにするよ。」
「なぁ。俺は攻撃を大盾で止めてからは攻撃に移っていいんだろ?」
「紫鬼さんの追撃の状況次第だな。追撃されたら大盾で受ける事を優先してくれ。」
「分かった。」
そんな作戦会議を終えてビオデルテ達が紫鬼の前に立つ順番が来た。
紫鬼は王鎧を纏って臨戦態勢だ。
「じゃ、作戦通りに。行くぞ!」
4人は紫鬼に向けて走り出した。




