373話 旧王国首都ワンズ10
毎月の甲蟲人侵攻予定日の10日前には各自持ち場について甲蟲人の侵攻に備える事にした。
今のところ30日間隔で侵攻されているがいつ相手側の気分が変わって早めに来るかわかったもんじゃないからな。一応の備えである。
そんな訳で俺はいつも通りワンズの街の外れ、北西の森の中にあるツリーハウスへと戻ってきていた。
今回は前回までの続きで影を操作して攻撃する手段を確立させる為の修行を行う予定にしていた。
一応ながら影の操作は出来るようになっている。
ただ腕の長さの影を腕を動かさずに動かせる程度で、まだ影を伸ばしたりは出来ていない。
影を伸ばしたり広げたりの2次元的な動きを完璧に出来るようになってから3次元的な立体の動きをさせるようにするのがいいだろう。
って事で早速俺は王化する。
「王化!夜王!!」
左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏い、その後煙が体の中に吸い込まれるように消えていくと猫を思わせる真っ黒な兜に、同じく真っ黒な全身鎧を身に着けた夜王の姿となる。
影縫いにしてもそうだが、まだ王化市内と影を操作する事は出来ない。
そのうち王化せずとも影縫いくらいは出来るようになりたいものだ。影収納が使えるんだから不可能ではないはずだ。
さて、それはそれとしてまずは影を動かす反復練習から始める。
直立した状態で、まずは両腕を広げた状態の影にする。
1つの塊だった影からグッグッグッと音がしそうなほどぎこちなく腕に当たる影が横に広がっていく。
まだスムーズには動かせない。
まずはそこからだな。俺は広げた腕の影をまた戻し、再度広げる動作を繰り返す。
数百を数える頃にはだいぶスムーズに影だけ両腕を広げた状態にする事が出来るようになった。
腹が減ったので昼食を挟み、再度修行に励む。
次は腕を上に上げる動作までを行う。
ジッと影に集中して腕を上げるイメージを膨らませる。
この辺りは実際に腕を動かすイメージが出来ているので修得は早かった。
再び数百繰り返す事で腕を広げた範囲で腕の長さの影を自在に操れるようにはなった。
だが、ここからが大変だ。実際に腕が伸びる事はないが、影上の腕だけを伸ばすイメージを作っていく。
想像してのは日の位置によって伸び型を変える影だ。
日が低いところでは影は伸び、高い位置に来ると影は縮む。
そんな事をイメージしながら腕の長さが変わるようにイメージを膨らませていく。
実際に測ってはいないが、体感では1時間が経過し、2時間が経過し、3時間を過ぎる頃になってようやく腕の影の一部が伸びた。
あっと思った時には伸びた影が元に戻ってしまった。集中力が足りなかったようだ。
もっと集中しないと。いきなり両腕を伸ばそうとしたのが悪かった。
まずは右腕だけを伸ばすイメージを強く持つ。
影を見つめ続ける事、約1時間。
こちらもグッグッグッと音がしそうではあるが、1m程度は影を伸ばすことに成功した。
あとは反復練習である。伸ばした影を縮めたり、再度伸ばしたりと繰り返すうちに右腕の影は2mまで伸びるようになった。
だがまだ先細りしている。太さも変えずに伸ばすことに想像する。
あとは影を動かし、伸ばし、縮め、動かしを繰り返す。
そうこうするうちに左腕の影も自在に操れるようになった。
だがまだ腕の部分だけ、先細りした状態である。
ヨルの影による攻撃は影全体を伸ばして敵に向かわせていた。
ってことで次は腕だけでなく、体の部分も動かし伸ばしのイメージを膨らませる。
これも1時間程度で2m程までは自在に伸ばす事が出来るようになった。これはやはり日の傾きによって変わっていく影の動きを想像したからイメージが掴みやすかった。
だがまだ先細りした状態は改善出来ない。
今の俺は実際に動かずとも影を動かし、腕、頭と胴体を2m程伸ばせる状態になった。
日も陰ってきて影がはっきり見えなくなってきたので、この日はこれにて終了、ツリーハウスに戻り夕食を摂ってから寝た。
翌日も反復練習に費やした。
伸びる影は3m程にまで達して、昨日よりもスムーズに伸ばしたり、縮めたりが出来るようになった。
段々と伸びる影の太さも維持出来るようになってきて、さらに伸ばすことが出来るようになったのだ。
ここで1つ気付いたのだが、実際の俺の影より小さくするのは難しかった。伸ばすことに集中してたので実際の影より小さくする事には慣れていないせいだろう。
まぁ、実際には影は伸ばせればいいだろう。小さくするのは二の次だ。
って事でこの日も2次元的な動きを反復練習して1日を終えた。
明けて翌日、今日からは立体的な3次元の動きについてもイメージを膨らませる事にした。
もちろん伸びる影の長さをさらに伸ばすイメージも忘れない。
だがここに来てスランプに陥った。
伸びる影も3mが限界であり、それ以上伸ばす事が出来ない。
もちろん3次元的な動きなどもっと難しく、イメージとしては影から針が飛び出るような事を想起しているのだが、ピクリとも動かない。
まだイメージが固まっていないのか?ここからは想像力の問題だろう。
俺は1日中影を睨み、伸ばして縮めて、動かしてを繰り返す。
次の甲蟲人侵攻までになんとか技を確立させたい。
焦る気持ちとは裏腹に影は3m以上伸びず、立体的な動きもしない。
さて、ここからが正念場である。
俺は翌日も影を動かす修行に励むのだった。




