372話 聖都セレスティア33
神殿へと戻った俺達は残っていたメンバーに迷宮遺物の鑑定結果を伝えた。
「なるほど。宙を歩ける靴言うんはなかなかに惹かれるものがあるなぁ。」
翠鷹が言う。
「せやけど、ウチの足のサイズは23.5cmやから入らへんわ。残念やけど。」
「ワタシも足は23cmだ。」
紺馬も足のサイズが合わないらしい。
「わたしは22cmですから入らない事はないですが、ちょっと大きいですね。それに白狐様が履かれた方が有用でしょうし。」
って事で『ペガサスの靴』は白狐の物となった。
「次は『力のグローブ』だけど、グローブはめてるのは茶牛と紺馬だな。どうする?」
俺は2人に問いかける。
「儂は辞退するだぁ。力加減が変わっちまうと義肢弄るのに感覚が変わっちまうからなぁ。握力は今でもリンゴ潰せるくらいはあるで、充分だぁ。」
両腕を曲げて力こぶを見せながら茶牛が言った。
「んじゃ紺馬だな。握力が上がったからって弓引くのに差は無いだろ?」
「む?うん。ないな。でも握力を上げる必要もないぞ。」
「そうか?握力上がればもしもの時のパンチ力が上がるだろ?」
「ワタシはパンチなどしない。」
頑なに紺馬が言う。
「いらないか?んじゃミラの所に持っていって売ってくるか。」
「紺馬よ。もしもの場合の備えだ。大人しく受け取っておいたらどうだ?」
蒼龍が口を挟む。すると
「えっ。そ、そうか。龍王が言うなら貰っておこう。」
だってさ。なんで蒼龍が言うならなんだろうな。俺が言っても現実味がなかったか?
まぁいいや。最後は『砂防の瓢箪』だ。
「聞く限り自動防御と言うのはなかなか良い性能であるな。」
「だが自動防御ってのがどんなもんかね?」
金獅子と銀狼が言う。確かに1度性能確認はしておくべきだな。
「んじゃ銀狼、俺が瓢箪持ってるから斬りかかってきてくれよ。」
「なに?自ら実験台になるのか?」
「まぁミラの事はそれなりに信用してるからな。でも腕とか足とか切り飛ばされたら元に戻らない場所は避けてくれよ。腹で頼む。もしもの場合は緑鳥、回復頼むな。」
「はい。お任せ下さい。」
「じゃあ、斬るぞ。」
銀狼が双剣を抜いて俺の腹に斬りかかる。
するとどうだろう。瓢箪の中から砂が溢れ出し、サークルシールド程度の砂の盾を形成、銀狼の剣を防いだじゃないか。
剣を防いだ砂はその場に落ちて形を失う。
「今のはゆっくり過ぎたかな。もうちょっと早く斬りかかるぞ。」
銀狼が言うと再度斬りかかる。今度は確実に腹を割くつもりの一撃だ。
すると先程同様に瓢箪から砂が溢れ出して剣を防ぐ盾を作り出した。
銀狼の剣は見事に砂の盾によって止められたのであった。
「むぅ。今の剣速に反応するって事は自動防御ってのも信用出来そうだな。」
「ウチも試していいかしら?最速はウチの突きやと自負しとるんよ。」
碧鰐が『砂防の瓢箪』の性能を認めるような事を言ったが、翠鷹はまだ試したいらしい。
「いいぞ。どんどん来い。」
「ほな、行きます!」
細剣を構えた翠鷹が高速の突きを放つ。
俺の腹部に刺さるかと思われた剣先だが、紙一重で砂の盾が腹と剣先の間に入っていた。
「まだまだ!」
翠鷹の連続刺突が繰り出される。
その度に瓢箪から砂が溢れ出して砂の盾を形成する。
「しっ!」
最高速度と思われる翠鷹の突きが迫る。
切っ先が腹に触れるか触れないかという辺りで砂に止められていた。砂の盾を貫通している翠鷹の突きを褒めるべきか、そんな突きをも止めた瓢箪の性能を褒めるべきか悩みどころだな。
「うむ。もういいだろう。瓢箪の性能はかなり高性能だって事がわかったしのぅ。問題は誰が持つかじゃ。」
紫鬼が翠鷹を止めながら言う。
「順当にいけば緑鳥だろう?他のメンツなら緑鳥が癒してくれるし。」
当たり前のように銀狼が言う。
「わたしですか?わたしにはシールドの聖術もありますし、ここは藍鷲様が持たれるべきではないでしょうか?」
「「「藍鷲?」」」
「わたしですか?なぜ??」
金獅子に銀狼、碧鰐が首を捻っていると本人も首を捻りながら緑鳥に聞く。
「甲蟲人との戦いで1番の肝となるのは藍鷲様のゲートの魔法だと思いまして。わたしが一緒にいればもちろん聖術で癒して差し上げられますが万が一、わたしがお側にいない時に狙われたら1番困るのは藍鷲様だと思うのです。」
「確かに藍鷲がいなければ各地に散った状態で甲蟲人に備えるなんて事も出来んわな。」
紫鬼が頷きながら言う。
「そうですね。1番重要な役割をしてるのは藍鷲さんですね。」
「だな。魔王は1番護られるべきだな。」
白狐と紺馬も頷く。
「んじゃ『砂防の瓢箪』は藍鷲が持つって事でいいな?」
「「「おー。」」」
「「「賛成。」」」
「「うむ。」」
と言う事で各種迷宮遺物の持ち主が決まった。
「にしても、『砂防の瓢箪』言いましたか?凄い性能やなぁ。魔道具作る身としてはその性能に興味深々やで。」
大人しかった朱鮫が言う。
「なんや?朱鮫はんは迷宮遺物にも興味あるん?」
「もちろんやで。魔道具なんてのは迷宮遺物からインスピレーションを受けて作られとるのがほとんどや。様々な迷宮遺物を見るのは新しい魔道具作りには欠かせないんよ。」
翠鷹の質問に熱く答える朱鮫。
「せやったらちょうど来月、ララ法国の首都で迷宮遺物のオークションがあるわよ。」
「オークション?」
俺は聞き慣れない言葉に思わず聞き返した。
「オークションと言うのは競売のことですよ。」
こっそり白狐が教えてくれた。
「ウチの国、ララ法国の数十年前の王様が迷宮遺物のコレクターでしてなぁ。いつの間にかララ法国で迷宮遺物のオークションが開催されるのがお決まりになったんですわ。」
「へぇ。コレクターねぇ。色んな迷宮遺物が出品されるのか?」
気になったので俺は尋ねた。
「せやね。毎年だいたい数十点は出品されるわなぁ。」
「へぇ。数十か。」
「なんや?黒猫はんも迷宮遺物に興味あるん?」
「まぁ、色々と有用そうなのが多いからな。他にどんなのがあるのか興味はあるな。」
「せやったら来月、ララ法国に来たら宜しいわ。朱鮫はんも一緒に来たら楽しいやろし。」
「お?オークションかぁ。久しく行っとらんかったなぁ。久々に行くか。」
「クロさんが行くなら私も行きますよ。」
乗り気になった朱鮫に白狐も話に入ってきた。
「ほんなら決まりやね。次の甲蟲人、サッサと倒してララ法国に皆で行こうや。」
翠鷹が意気揚々と言う。
と言う事で来月はララ法国に迷宮遺物のオークションを見に行く事になった。
オークションは初めてだからな。少しワクワクする。
だが、その前に今月の甲蟲人侵攻がある。
気を引き締めて行こう。




