366話 聖都セレスティア31
その頃、聖都では碧鰐と紺馬、翠鷹が3時間弱に到達しようとしていた。
遅れて合流した朱鮫に、ゲートの目印設置を優先した藍鷲はまだ2時間半で苦戦している。
みんなで揃って昼食を取っている時にふと碧鰐が藍鷲に言った。
「そう言えば藍鷲は緑鳥とはどうなったのだ?」
「な?!なんですか急に。どうなったってなんですか?」
突然話を振られて口の中の食べ物を吹き出す藍鷲。
「いや。主神祭の際にプレゼントを用意していただろう。あれは渡せたのか?」
「え?えぇ。渡しましたよ。」
「そうか。それで緑鳥は?」
「え?あーまぁ喜んで頂けましたよ。」
「なんや、藍鷲殿と緑鳥殿はそういう関係やったん?水くさいな。言うてくれればいいのに。」
朱鮫も話に加わる。
「ですから違いますって。」
「でもプレゼント上げたんやろ?」
「あれは主神祭に来れなかった緑鳥さんにお土産として手に入れただけで他意はありませんよ。」
「そうなん?緑鳥はんは綺麗や思うけどな。藍鷲はんは興味ないん?」
翠鷹まで話に入ってきた。
「いえ。もちろん綺麗だとは思いましたよ。初めて会った時から綺麗な人だなと。でもそれとこれとは別です。」
断固として認めない藍鷲。
「そうか。魔王は聖王の事が好きなのか。」
紺馬まで言い始めた。
「ですから違いますって。あれです。憧れですよ。好きとかじゃなくて憧れなんです。あぁもうこの話は終わりにしましょう。」
拒否し続ける藍鷲。この話は終わりとばかりに宣言する。
「憧れ言うのは好きっちゅうてるのと同義やで。えぇやん。愛は素晴らしいで。互いを信頼して護り合う。通じ合う心。素敵やん。」
それでも続ける朱鮫が両手を組んで何処か遠くを見つめながら言う。
「なんや朱鮫はんが言うと胡散臭く感じるわなぁ。」
ツッコミを入れる翠鷹。
「なんやて。失礼な。ワイかて恋愛の1つや2つ経験済みやっちゅうねん。今は珍しく相手がおらんだけで。」
「朱鮫はんも今はフリーなんやね。」
ワイワイ言い始めた朱鮫と翠鷹を放っておいて碧鰐がなおも聞き出す。
「で、実際のところどうなんだ?藍鷲。」
「ですから違いますって。」
「いや別にオラォ攻めてる訳ではないぞ。むしろ逆だ。こんな戦闘の最中にあってはいつ命を落とすとも限らん。伝えたい想いがあるなら早めに伝えた方がいいぞ。」
真剣な顔で碧鰐が言う。
「オラォ残してきた妻子があるからな。死ぬ気で生き残ってみせるが、愛する者がいれば皆同じ気持ちだろう。しかもそれが同じ戦場に出る者なら尚更だ。」
「う。いや、想いを伝えるって言うか、本当に憧れてるだけで。私が緑鳥さんとなんて恐れ多いですよ。」
「何言うてんねや。立場なんて関係あらへん。好きなら好きでええやん。ぶつかったりぃな。」
「そうやよ。いつ何があってもおかしくないんやから。言いたい事は早めに伝えとき。」
朱鮫も翠鷹も後押しする。
「ですから…。」
好きだとは決して口にしない藍鷲である。
「いつ何があるかわからない…か。」
紺馬は1人遠くを見ていた。
「そういう話なら紺馬はんの方はどないなってんの?」
翠鷹がいきなり話を紺馬に振った。
「なんや。紺馬殿も恋する乙女なんかい?」
朱鮫が興味深そうに言う。
「な、なんの話だ?」
突然話を振られて慌てる紺馬に尚も翠鷹が続ける。
「ほら、前に話しましたやん。同じ長命種同士、蒼龍はんなんてどないやろって。」
「ほう。紺馬は蒼龍狙いか。」
碧鰐も話に乗る。
「な、なにを。ワタシが龍王とだなんて。」
「何言うとるん?お似合いやんか。」
「せやな。蒼龍殿も龍人族で長命種やし、エルフ族の紺馬殿とはお似合いやな。」
翠鷹と朱鮫が畳みかける。
「な、なにを?!ワタシにはまだ恋愛は早い。まだ82歳だし。」
「何言うとんねん。恋愛に年齢なんぞ関係あらへん。好きっちゅう気持は止められないんやで。」
妙に力説する朱鮫。
「紺馬さんと蒼龍さんですか。確かにお似合いの美男美女ですね。」
今まで自分が責められる側だったのにくるっと回ってそんな事を言い出す藍鷲。
「そうだぞ。紺馬。さっきも言ったがお互いに何があるからわからんのだ。気持を伝えるなら早い方がいい。」
碧鰐も言いつのる。
「なっ?!なぜ皆でワタシに龍王を薦めるのだ?ワタシは一言もそんな話はしていないぞ?!」
「この前話した時にまんざらでもなかったやんか。紺馬はんも実は蒼龍はんの事、気になっとるんやろ?」
翠鷹が追撃する。
「気になっとるんやったら尚更や。どんと行ったれ!いつお互いに戦線を離れるか分かったもんやないで。今がチャンスやで。」
朱鮫も翠鷹に続く。
「い、今がチャンス?チャンスなのか?!」
「私もお似合いだと思いますよ。チャンスは掴まないと。」
自分が言われる立場では無くなった事を良いことに藍鷲まで言い始める。
「まぁ本人同士の話だからな。これ以上オラォ達が言っても仕方ない。だが、覚えておけよ。今は戦時中。何があるか本当にわからないんだ。後悔だけはしないようにな。」
碧鰐が話を締めて昼食が終わった。
なんだかんだ平和な聖都であった。




