365話 砂の迷宮18
その後も一進一退の攻防は続き、砂嵐に巻き込まれては砂に王鎧を削られ、前脚に攻撃を加えると砂が舞う。
攻撃を繰り返しているうちに気付いたのだが、どうやら腰辺りを狙った攻撃は砂壁を出して防ぐ傾向にあった。
逆に鍛え抜かれた前脚に対する攻撃は平然と受けるスフィンクス。
狙い目は腰だ。
「腰辺りの攻撃を嫌がるようだ。蒼龍は水弾を放ち続けて、金獅子は頭を狙って攻撃してくれ。他のメンツで腰を狙う。」
俺は指示を出して早速腰辺りに向かう。
「サンドアロー。」
そんな俺に砂の矢が迫る。黒刃・右月を振るってこれを撃ち落とす。
「サンドアロー。」
それでも次々と砂の矢が迫り来る。
仕方なく足をとめてこれを迎え撃つ。
銀狼にも白狐にも砂の矢が迫っている。
ショット系よりも数は少ないが速度が速いため貫通力のあるアロー系である。受ければ王鎧すら突破するかもしれないとあって撃ち落とすのに必至だ。
1人空いた紫鬼が腰辺りに移動して、大きく跳躍すると、スフィンクスの腰に向けてかかと落としを繰り出した。
仰け反るように腰が曲がる。
「ギギッ。」
効いたようで初めてスフィンクスが呻いた。
「サンドストーム。」
しかし、紫鬼は血に降り立つ前に砂嵐に巻き込まれて壁の方向に運ばれる。
生身で受けたら砂に肉を削がれるほどの威力のある砂嵐である。
王鎧に守られているとはいえ、その威力に翻弄されれば酔ってくる。
「うっぷ。気持ち悪いぞ。」
壁に叩き付けられてフラつきながら起ち上がった紫鬼。
もう何度目になるか分からない砂嵐の応酬に気分が悪くなったようだ。
船酔いすらしなかった紫鬼であるが、上下左右の感覚も無く渦巻く嵐の中に放り込まれたら酔ってしまったようだ。
俺達は紫鬼が砂嵐に巻き込まれている間にもスフィンクスに肉迫して攻撃を仕掛ける。
それまでは座っていた位置から起ち上がっただけで身動き1つしなかったスフィンクスだったが、腰辺りに攻撃を当て始めると後ろ脚を動かして腰へと攻撃を避けるようになった。
やはり腰辺りに弱点がありそうだ。
金獅子と蒼龍には正面からの攻撃に専念して貰いながら白狐と銀狼、俺は横から腰辺りへと攻撃を集中させる。
「サンドウォール。」
何度も砂壁に攻撃を邪魔されるが、負けじと何度も挑む。
「サンドストーム。」
白狐と銀狼が砂嵐に巻き込まれて宙を舞う。
紫鬼が跳躍からの後ろ回し蹴りを腰に喰らわせる。
腰に意識が集中したところで、金獅子の断頭斬がスフィンクスの頭部に炸裂する。
「サンドウォール。」
地面からせり上がってきた砂壁に蒼龍が水弾を当て泥にして崩したところで、俺は跳び上がって腰目掛けて黒刃・右月と黒刃・左月を振り抜く。
スフィンクスの腰辺りから大量の砂が舞う。
血液代わりだとしたら大量出血だろう。
だが、スフィンクスは止まらない。
「サンドバースト。」
突然目の前で砂球が現れたかと思えばその砂球が爆発したように飛び散る。
俺は腹部に重い衝撃を受けて吹っ飛ばされた。
「サンドストーム。」
白狐の元に砂嵐が迫る。
白狐は大きく迂回してスフィンクスの腰部に移動し、抜刀術による斬撃を加える。
白狐が迂回した砂嵐が紫鬼へと迫る。
速度特化の斬鬼形態の紫鬼だ。ただ向かってくるだけの砂嵐には巻き込まれたりしない。
こちらも大きく迂回してスフィンクスの顔面付近に移動すると跳躍して回し蹴りをその横っ面にブチかます。
「鬼蹴!」
と、そこへ金獅子も大きく跳躍して大剣を振るう。
「断頭斬!」
スフィンクスの頭頂部にヒットした大剣はスフィンクスを下に向かせる。
「水撃・龍翔閃!」
蒼龍が突き出した三叉の槍の先端から高圧の水撃が放たれ、スフィンクスの顔に向かう。
バチンッ
と大きな音が響いてスフィンクスが仰け反る。
その首元に銀狼も双剣を叩き付ける。
「双狼刃!」
首元からも大量の砂が舞う。
俺も腹部に受けたダメージを押して起ち上がるとスフィンクスの腰部に向かった。
「サンドウォール。」
白狐の斬撃がまた砂壁に阻まれる。
その脇をすり抜けて俺は腹部に到着。黒刃・右月を突き刺した。
そのまま腹部を通って反対側へと跳躍する。
腹部から溢れ出す砂が地面に砂山を作る。
するとスフィンクスが語り出した。
「ふふふっ。余をここまで追い詰めるとは。挑戦者よ。そなたらは余が全力を出すに相応しい。認めてやろう。そして恐怖せよ。ここからが本当の勝負だ。」
言い終わるなりスフィンクスの体が圧縮されるように縮んでいく。
これは知っているぞ。ベヒーモスもそうだった。きっと人型に変身するつもりなのだ。
見る見るうちに30mはあった体が2m程度にまで縮んでいく。
四足歩行だったその体は足を曲げて四つん這いになる女性の体へと変わっていく。
顔は元々の形状を維持したままサイズだけ変わったようだ。
変身が終わり起ち上がったスフィンクスは布を体に巻き付けたような服装に、何処から取り出したのかコブラが直立したかのような杖を握っていた。
サイズは小さくなったものの、威圧感は増したように感じる。
「余がこの姿になったのも数千年ぶりか。楽しませておくれよ。」
笑いながらスフィンクスが言うと
「サンドストーム。サンドストーム。サンドストーム。」
三重詠唱?!
3つの砂嵐が吹き荒れる。さきほどまでよりも規模も大きい。
俺達は逃げ場も無く砂嵐に飲み込まれた。
上下左右の感覚もわからなくなるくらいもみくちゃにされる。
王鎧を削り取ろうと砂が体を撫でる。
気が付けば全員壁元まで吹き飛ばされていた。
ここからが第二ラウンドだ。
静かに微笑むスフィンクスに向けて俺達は走りだした。




