351話 砂の迷宮4
砂の迷宮に潜って2日目。
魔物のスタンピードを乗り越えた俺達は地下38階層にまで降りてきていた。
ここまで出てくる魔物は変わり映えなく、倒し方も判明している物ばかりであった為、大した苦戦はなく進んでいた。
地下38階層は階段を降りると真っ直ぐ伸びた廊下があり、広めの部屋に繋がっていた。
部屋は松明の数も少なく薄暗い。
その部屋はすり鉢状に中心が凹んでおりなかなか歩くのに難儀しそうだった。
そこでその部屋に一歩踏み出した紫鬼が突然声を上げた。
「な、なんじゃ?!足が砂に埋まっていくぞ?!」
見れば部屋はすり鉢状に凹んでおり、中心部に向かって砂が流れるように落ちている。
そんな砂の波に足を取られた紫鬼。
足を出そうにも埋まってしまった味はびくともせず、段々と中心部に向かって滑っていく。
「紫鬼!掴まれ!」
金獅子が手を伸ばす。
しかし砂に足を取られた紫鬼は振り返る事も出来ずに砂に飲まれるばかり。
「なんだ?トラップなのか?」
銀狼が言うとすり鉢状になった中心部に1体の魔物の姿が見えた。
「あ!知ってるぞ!これは蟻地獄だ!」
俺は思い出して言う。
「アリジゴク?」
「あぁ。あの中心部にいる奴が砂を操っているんだ。獲物を砂に埋めて捕獲する嫌らしい奴だ。」
俺は金獅子の疑問に答える。
「なら話は早い。あの魔物を倒せばいいのだろう?とう!」
金獅子が跳躍して砂の中に入っていく。
紫鬼はすでに膝まで砂に埋まり、身動きが取れそうにない。
「よし、オレも!」
銀狼も跳躍して紫鬼が埋まった位置にまで移動する。
「砂に埋まる前に足を出せばどうにか歩けるな。」
金獅子が無理矢理足を動かして先に進む。
しかし、気が付けば砂に足を取られてこちらも身動きが取れなくなる。
「むぅ。なかなかに難しいな。」
「おい!どんどんすり鉢の中心部に引き込まれるぞい!」
金獅子がぼやくが紫鬼の叫び声に掻き消される。
「気を付けろ!昆虫のアリジゴクは毒を持ってる。そいつもサイズが違うだけでアリジゴクなんだろうから毒に注意してくれ!」
俺は森の中にいた昆虫、アリジゴクについての知識で3人に警告する。
どんどん近付く中心部。
そこには一般的なアリジゴクと見た目は同じながらも体のサイズが見えている範囲でも1mを超える魔物の姿があった。
銀狼もすでに砂に足を取られて膝まで埋まっている。
紫鬼なんかはもう、腰に近い位置まで埋まってきていた。
「マズイ。腰が埋まってきたぞ。」
「身動きが取れない相手を毒で仕留めて喰うって事か。嫌らしい戦い方だな!」
「うむ。叩き潰してやる!」
まだ腰から上が動く金獅子と銀狼が近付いた巨大アリジゴクに大剣と双剣を振るう。
ガギンッ
と硬質な音が響く。
「む?こいつ。硬いな。」
「硬かろうが攻撃し続けるまでさ。」
大剣を弾かれた金獅子。銀狼は双剣を振るって何度も巨大なアリジゴクを叩くように斬る。
「むぅ。踏ん張りが効かんから攻撃がしにくいな。」
「だな。腰を入れて斬り込むしかないな。」
すでに腰まで埋まった紫鬼はやれる事無くどんどん砂に埋もれていく。
「まだか?まだ倒せんのか?」
焦った声を上げている。
「紫鬼の埋まる速度が早い!早くそいつを倒してやってくれ!」
俺が急かすが不安定な足場故に攻撃に力が乗らないようで、何度も何度も大剣と双剣を叩き付ける金獅子と銀狼。
「毒は顎の辺りから出るはずだ!噛まれるなよ!」
俺は昆虫の知識で3人に警告を飛ばす。
気が付けば紫鬼が胸辺りまで砂に埋もれてきていた。やべぇ。
「胸まで砂の中じゃ。もう全く動けん!」
「むむむ。硬いぞ。」
「兄貴。その頭の節に大剣突っ込んで抉れないか?」
「む?やってみよう。」
金獅子がアリジゴクの頭部と胴体の間の節に大剣を突き入れる。
「入ったぞ!」
「よし。あとはてこの原理で頭を抉ってくれ。オレも空いた空間に双剣を突っ込むから。」
「よしきた!うりゃぁぁぁぁあ!」
アリジゴクの頭部が胴体から離れていく。
だがやはり砂に埋もれているせいでいつもの力が出ないらしい。
「よし!今ならいけそうだ。」
銀狼もアリジゴクの頭部と胴体の間に双剣を突き入れて頭部を引っこ抜くように広げていく。
「おりゃぁぁぁあ!」
「うおぉぉぉぉお!」
グシャァァァア
アリジゴクの頭部が胴体からえぐり取られた。
その瞬間に流れる砂も止まった。
紫鬼が肩まで砂に埋もれていた状態でようやく砂の動きが止まったのだ。
そこからがまた大変だった。
砂に埋もれた金獅子、銀狼を砂から救出して、その後砂を掘って紫鬼を救い出した。
なんなら戦闘時間よりも砂を掘る時間の方がかかったくらいだ。
まぁ、なんにせよ誰も怪我なく倒せて良かった。
「それにしても迷宮内にこんな巣を作ってる魔物がいるとはびっくりですね。」
「うむ。これでは他の魔物も巣に飲み込まれてアリジゴクの餌になっていたのだろうな。」
白狐が言うと蒼龍も納得の表情だ。
「でも良く黒猫様はアリジゴクについてご存知でしたね?」
緑鳥に話を振られたので答える。
「住んでた森には色々な虫が住んででな。蟻地獄ってのも結構あったりして。親父に色々と教わったんだ。」
「お父様から。何事も知識は重要ですね。」
「だな。差し詰めさっきの奴はジャイアントアリジゴクってとこか?あまり聞かない魔物だったな。」
「死の砂漠も広いですからね。探せばいるんでしょうが、さすがにあれだけ凹んでたら避けて通りますしね。」
「確かにな。いきなり足が埋まって驚いたぞ。」
白狐が言うと紫鬼も振り返って言う。
「もう凹んだ砂地には気を付ける事にする。」
そういって砂から抜け出した紫鬼は体中に入り込んだ砂を落とすのであった。




