350話 砂の迷宮3
砂の迷宮に潜って2日目の朝。
俺達は21階層に降りてきた。
それで目にしたのは溢れんばかりの魔物の大群。
通路の至る所に魔物が溢れてやがる。
「これは…普通の状態なのか?」
「あまりにも数が多かろう。」
銀狼と紫鬼が呟く。
「これは…もしかしたら伝え聞く限りスタンピード現象かもしれません。」
緑鳥が言うので聞いてみた。
「なんだ?そのスタンピード現象ってのは?」
「はい。数十年に1度、迷宮内では魔物が大量発生してダンジョンシーカー達に殺到するという事があるそうで、それをスタンピード現象と呼ぶそうなんでございます。」
「スタンピード現象…。もしかして迷宮の外に魔物が溢れてきてるのもそれが原因か?」
「あり得る話よな。邪神復活で迷宮自体の封印が弱まっている中で迷宮内に魔物が大量発生して迷宮の外にまで溢れ出したと考えれば辻褄が合う。」
金獅子も頷きながら言った。
「皆さん、考察は後です。まずは目の前の大群の処理をしましょう。」
「うむ。さすがに数が多い。王化し手挑もう。」
白狐が全員に活を入れ、蒼龍もそれに答える。
「王化!龍王!」
蒼龍が言うと胸に下げたネックレスにはまる蒼色の王玉から蒼色の煙が吐き出される。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、残ったのは龍をモチーフにしたような兜に蒼色の全身鎧を纏った蒼龍の姿となる。
「王化!破王!!」
続けて白狐が言うと右耳にしたピアスにはまった真っ白い石から、白い煙が立ち上り白狐の姿を覆い隠す。
次の瞬間、煙は白狐の体に吸い込まれるように消えていき、残ったのはどことなく狐を思わせる真っ白いフルフェイスの兜と、同じく真っ白い全身鎧に身を包んだ白狐の姿となった。
「そうだな。王化!獣王!」
金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏う。
次の瞬間、その煙が吸い込まれるように体の中に消えていき、煙が晴れると獅子を想起させるフルフェイスの兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王の姿となる。
「んじゃオレも。王化!牙王!」
銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると狼を象ったフルフェイスの兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王の姿となる。
「ワシも続くか。王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が王化し、右腕にしたバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙刃体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象った赤紫色のフルフェイスの兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王の姿となる。
「王化!夜王!!」
俺も叫ぶように言うと左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が体の中に吸い込まれるように消えていくと猫を思わせる真っ黒な兜に、同じく真っ黒な全身鎧を身に着けた夜王の姿となる。
俺は影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出した。
「王化。聖王!」
最後に緑鳥が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると緑色の鳥をイメージさせるフルフェイスの兜に緑色の王鎧を身に着けた聖王の姿となる。
迫り来る魔物はジャイアントマウス、ジャイアントアント、ジャイアントスコーピオン、サンドスライム、デザートコモドドラゴン、デザートリザードランナーにサンドゴーレムと多彩だ。
だがもう全て倒し方も分かっている。
数が多かろうと王化した俺達の敵ではない。
白狐が高速の抜刀術でジャイアントマウスを切り刻む。
金獅子が大剣を振り下ろしてジャイアントアントの頭を潰す。
銀狼が双剣でジャイアントスコーピオンの尻尾を斬り飛ばし頭を刎ねる。
蒼龍も高速の突きでサンドスライムを無数に突き刺して核を穿つ。
紫鬼がその剛拳でデザートコモドドラゴンの頭を叩き潰す。
俺も負けじと黒刃・右月と黒刃・左月を振るってデザートリザードランナーの首を掻き切る。
その間にもサンドゴーレムが迫ってくるので体を二分しつつ、核のある場所を特定して核を砕いていく。
気が付けば辺りは魔物の死骸と砂の山だらけとなっていた。
「ふぅ。ひとまずは目に付く範囲の魔物は殲滅出来ましたね。」
白狐が王化を解きながら言う。
「うむ。数は多かったがそれだけじゃったな。」
「まぁ普通のダンジョンシーカー達じゃ飲まれてしまってただろうな。」
王化を解きながら紫鬼と銀狼が続ける。
「確かに相当な数であったな。」
「むぅ。今後もこの程度の数がひしめく可能性があるという事か。」
金獅子の言葉に蒼龍が不吉なことを言う。
「そのスタンピード現象ってのは大体どのくらいの魔物の集団なんだろうな?」
「さぁ。わたしも話に伝え聞いただけですので詳細までは。ただ波のように迫ってくるとは聞いた事はありますので、今のが第1波だとしたら次は暫く先になるかと思います。」
俺の疑問に緑鳥が答えてくれた。
「モンスターハウスならぬ、モンスターフロアってやつですね。」
「今が21階層だから次は40階層くらいか?」
白狐が言い銀狼が続ける。
敵の強さはそこまでではないが数が多いのは辟易する。
蟲系が多いから余計参っちまう。
次の波が暫くないといいな、と思いながら俺達は21階層の探索を続けるのであった。




