348話 砂の迷宮1
砂の迷宮の入口はなんと砂で形成された門で覆われていた。
この砂は常に流動しており、一箇所に留まることはない。
門の周りに立てられた柱もまた流動する砂で形成されていた。
唯一金属なのが扉を開けるために用意されたハンドルのみであり、砂の扉に手をやればズブズブと腕が砂に埋もれるように入っていく。
そのまま潜り抜ける事も可能なように思えるが扉の幅も不明なため、砂にどれだけの間潜ることになるのかがわからない。
俺達は安全策として設けられたハンドルを握って砂の扉を開き中へと侵入した。
扉を潜った俺達は地下へと続く階段を降りる。
降り立った場所が地下1階にあたるのだろう。
迷宮の中も異様な光景だった。
床はもちろん、壁も天井も砂で形成されている。
柱などは見える場所にはなく、いつ天井が崩れてこないかとヒヤヒヤするものだった。
「砂の迷宮はその構成は全て砂で出来ていると言うが過去にも崩落したという話は聞かない。恐らくは何かしら魔法的な力が働いて地中に空間を設けているのだろうな。」
金獅子が言うように魔法の力でも無い限りすぐに天井の砂が落ちてきて飲まれてしまいそうだ。
「これ天井が落ちてくるトラップとかないよな?そんなのあったら生き埋めになっちまうぞ?」
「多分なかろうよ。砂で埋めるくらいなら最初から迷宮などと、呼ばれていないだろうからな。」
俺の疑問に銀狼が答える。
「でも一応トラップには気を付けて参りましょう。今回もわたしが地図を描いて行きますので。」
緑鳥がまた地図を描いてくれる事になった。
地中に降りる階段を降りきった所は、それなりの幅のある一本道になっている。
取り敢えず前に進むしかないので俺達は前進する。
そんな俺達の前に現れたのはFランクの魔物、ジャイアントマウスだった。
鼠にしては体が大きく1m程。鋭く尖った前歯が特徴的だ。
だが、所詮はFランク。俺達の敵ではない。
すぐさま抜刀術の構えで近付いた白狐がその首を刎ねた。
が、そこからうじゃうじゃと湧き出すジャイアントマウス達。総数は50体を超えるか?
第1階層から熱烈な歓迎振りである。
俺達は皆武器を持ちジャイアントマウスの掃討を始めた。
一撃の元に斬り伏せられるジャイアントマウス達。
その死骸は砂の地面に吸い込まれていき、全部を倒したと言うのに辺りにはジャイアントマウスの死骸は1つもないという異様さがあった。
この砂の迷宮は死者を取り込むらしい。
「死んだら迷宮に飲まれるのか。」
「ですね。ここでだけは死にたくないですね。」
蒼龍の呟きに白狐が応じる。
その後も直進する通路を通って俺達は前へと進む。
この階は迷路状にはなっていないようだ。ただただ真っ直ぐな直線だけが伸びており、道の両サイドに焚かれた松明の炎により100m程先しか見通せない。
松明はどう言う仕組みかほ分からないが俺達の行く辺りにだけ灯り、後ろを振り返ればもう階段も見えない闇が広がっていた。
この閉塞感も心理的には来るものがある。
その後もちらほら現れるジャイアントマウスを蹴散らしながら先へと進み、俺達は地下2階へと降りる階段に辿り着いた。
本当に真っ直ぐな道だけしかない第1階層だったな。
俺達は早速地下2階へと降りていった。
地下2階層も床、壁、天井が砂で覆われている。
もうこの時点で生き埋めになったら助からないだろう深さに到達している。
愚者の迷宮にはなかった緊張感が湧き上がる。
先が見通せないのも心理的には警戒心が高まり、精神力が削られる。
地下2階に現れたのはEランクのジャイアントアントと呼ばれる巨大な蟻だった。
体長は1m程度で群れで襲ってきた時の脅威度はCランク相当とまで言われている魔物であるのだが、地下2階層では1、2体で襲ってくる為、大した脅威にはならなかった。
巨大化したことで外骨格も強度を増してはいるが、俺達の敵ではない。
一撃で首を刎ねられ、頭を潰されて沈んでいく巨大な蟻達。
地面に飲まれていく様子は、まるで蟻地獄に落ちたかのようだった。
そんなジャイアントアントとの戦いも地下3階、4階、5階と続くにつれて1度に出てくる数が増えた。
1番多かったのは地下6階に作られたモンスターハウス。
そこまで広くない空間にひしめくように巨大な蟻たちが蠢いていた。
その絵面はちょっと気持ち悪かった。
そんなモンスターハウスすらも楽々と制した俺達は地下7階へと足を踏み入れていた。
そこで遭遇したのは同じくEランクのジャイアントスライムだった。
しかもただのジャイアントスライムではなく、ジャイアントサンドスライムだ。
体内に砂を持ち、取り込んだ相手を砂で削って消化するというスライムだ。
体に取り憑かれると次第に砂に体を犯される為、取り憑かれる前に倒す。
言うてもスライムだ。体内の核さえ壊せばその身を維持できなくなり溶けていく。
流石に砂漠地帯に近いだけあって、砂漠地方特有の魔物が数多く生息しているようだった。
だが、前回よりもこちらも戦力は増強している。
3人多くなっただけでも1人1人が一騎当千の強者である。
危なげなく先に進み、俺達は地下10階層にまで到達した。




