336話 獣王国5
今日も金獅子は承認印の必要な書類のチェックに時間を多く使っていた。
そんな中で憲兵の報告書の中に数台のサンドゴーレムが獣王国付近に現れて対処したとの報告書を発見した。
「なぁ。灰犀よ。この辺りでサンドゴーレムが出るなんて今までもあったか?」
手元の書類を見やりながら、金獅子は隣に立つ犀の獣人にして獣王国の宰相である灰犀に声をかける。
「いえ、このところたまに見られるようですが、今までは砂漠地帯から蟲が湧くことはあってもサンドゴーレムが出てくるなんて事はありませんでしたね。」
「いつくらいから出てくるようになったんとだ?」
「先日獣王様がミノタウロスを討伐されてからでしょうか。サンドゴーレムと言えば砂の迷宮に湧くことで有名です。これは砂の迷宮から魔物が溢れ出している可能性が高まりましたな。」
「うむ。次の甲蟲人侵攻が終わったら他の王たちとも一緒に砂の迷宮に行って調査してくる予定だ。それまではなんとしてでもサンドゴーレムの侵攻は留めておいて欲しい。」
「はっ。憲兵隊にもその旨伝えておきます。」
ゴーレムと言えば言わずと知れた無機質な岩で構成されたロックゴーレムが有名だ。
ロックゴーレムだと魔物のランクはCランク相当。そこに各種属性を持つゴーレム、砂属性のサンドゴーレムや泥属性のマッドゴーレム、溶岩属性のラバゴーレムなどになるとBランクに跳ね上がる。
なかにはミスリルなどの硬質な鉱石で構成された物もいるが、そうなるとさらに魔物ランクも上がってくる。
そんな獣王の執務室に駆け込んでくる兵士が1人。
「失礼しますっ!報告させて頂きますっ!獣王国の西部にサンドゴーレム30体ほど出現したとの事ですっ!」
「なに?30体だと?ちょっと多いですな。」
「うむ。俺様も出よう。書類仕事ばかりでは体が鈍る。」
「そんな獣王様がわざわざ出向かなくとも。」
座席の後ろに備え付けられた台座に置かれた大剣を片手に出撃準備をする金獅子。
「ちょっとした運動だ。大して時間もかからんだろう。ずっと机に向かっていたら体が鈍るしな。」
と言うことで獣王国の西側へと向かった金獅子であった。
金獅子と共に獣王戦士団の面々も出撃している。
金獅子の隣にはいつぞや謁見の間に待機していた象の獣人の姿もある。
「赤象か。珍しいな。右将軍のお前まで出るとは。」
「獣王様が出られるとお聞きしましたので。わたくしも1つ暴れてみようかと。」
「ふん。お前も久々に出番が欲しかったか。」
「ははは。そんなところです。」
和やかに会話しているが金獅子達の前には30体ものサンドゴーレムが迫ってきている。
サンドゴーレムは全身が砂で構成された体長3m程の巨体で、核を壊さない限り地面の砂を補給して回復してしまう厄介な魔物だ。
「来るぞ!」
「「「うおぉぉぉお!」」」
金獅子の掛け声で戦士達が一斉に走り出す。
金獅子も大剣を肩に担いで走る。
その隣には赤象もバトルアックスを担いで走る。
1番最初に接敵したのは金獅子だった。
「おりゃぁぁぁあ!」
大剣を一閃。サンドゴーレムの体を上下に切り裂く。
しかし核の破壊には至らなかったようで、すぐさま斬られた箇所がくっついてしまう。
このサンドゴーレムの面倒な所は体内の核の場所が常に流動しており、どこを狙えば良いかがぱっと見ではわからないところだ。
切り刻んで核の在処を確認する他ない。
「てりゃぁぁぁあ!」
金獅子が縦横無尽に大剣を振るい、サンドゴーレムの体を削り始める。
だがサンドゴーレムもやられっぱなしではない。
大きな両腕を振りかぶってパンチを繰り出してくる。
大剣で受けた金獅子。それでも僅かながらも後退させられる程の威力だった。
「むう。斬っても斬ってもすぐにくっついてしまうな。面倒な。」
金獅子の隣では赤象がバトルアックスでサンドゴーレムを左右に切断していた。
それでも砂が流れるように傷口を閉じていき、次の瞬間には元通りである。
「おらぁぁぁあ!」
金獅子の放った斬撃がサンドゴーレムの頭部にクリーンヒットする。
その剣先には30cm程の丸い物体が刃を半ばまで入れられてくっついていた。
それが核である。
核を失ったサンドゴーレムは形を保てなくなり、砂山と化した。
「おう?!1体倒したぞ!次はどいつだ?」
金獅子はさらにサンドゴーレムが蠢く奥へと進む。
赤象もたまたま斬りつけた足元に核があり、1体分の砂山を作る。
「わたくしもまだまだ現役ですぞ!」
「おう!やるではないか赤象!その勢いでどんどん行くぞ!」
金獅子と赤象の進撃は止まらない。
時折繰りだされるパンチを避けきれず、もろに喰らって後退する場面もあったが、順調にサンドゴーレムの数は減っていく。
戦闘開始から1時間余りでサンドゴーレムは全滅した。
やはり斬っても斬っても、すぐさま回復されてしまう辺りに疲弊が見られる獣王戦士団の面々。
だが金獅子と赤象だけは元気だった。
「うむ。この倍は来ても問題なさそうだな。」
「はい。お任せ下さい。サンドゴーレム如きに音を上げる戦士はうちの戦士団にはおりませんよ。なぁ皆!」
「「「「おー!」」」」
疲弊していようとも将軍に言われれば答えはYesしかないのである。
こうしてサンドゴーレムの集団は撃破されたものの、やはり迷宮から魔物が溢れている可能性が高く、その理由解明が急がれる今日この頃なのであった。




