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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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334話 マジックヘブン5

 甲蟲人の侵攻は今までの2回は正確に30日後に攻めてきているが、これからも時間に正確かはわからないとの意見が多かった為、今回も想定の10日前には各自持ち場に散って甲蟲人の侵攻に備える事にした。


 そんな中、朱鮫はと言えばまだ王化継続時間が2時間程度であり、まだまだ王化継続時間を延ばす特訓が必要以上であった。

 さらに前回のワイバーン襲来の際には火炎魔術の魔石しか刻んでおらず、火炎耐性のある敵にほ魔石魔術が通じないという経験もあった為、今度は朝から暴風魔術を刻んだ魔石の増産に勤しんでいた。

 そんな朱鮫の元に、午前中から訪問者が現れた。


「朱鮫ー?いるんだろー?」

「なんやねん。誰や?こんな朝っぱらから訪問してくるっちゅーのは?」

 魔石に術式を刻む手を止めて訪問者を迎え入れる朱鮫。

 朱鮫の住居はタワーの上層階であり、それなりに地位が高い。生半可な立場の人間はそう易々と面会出来ないような立場の人間であり、そんな朱鮫を訪ねる人となればそれなりの立場の人間である事が伺える。

「朱鮫ー!久しぶりやなー!」

 そこに立っていたのは2人の男女。女の方は歳の離れた兄の妻であり、朱鮫にとって義理の姉となるセプレーニだった。

「朱鮫。元気にしてたか?」

 もう片方の男の方は朱鮫と学院時代の同期であったプラセスだった。

「なんや。魔術師連隊コンジュラーレジメントの小隊長殿2名が朝から何の用や?」

 入口の壁にもたれて2人を迎える朱鮫。中に入れる気はないらしい。

 朱鮫の言う通りセプレーニもプラセスも魔術大国マジックヘブンの軍事機関、魔術師連隊所属の小隊長であった。

「なんや。アタシがいつまでも小隊長止まりや言うてバカにしとんのか?小隊長で悪かったなぁ。」

「バカになんかしてへんよ。小隊長、凄いやんか。ワイはあくまで技術支援部隊の一員に過ぎへんからな。」

「はんっ!一技術支援部隊の隊員が住む場所ちゃうで。このタワーは。アンタの技術が高評価されとる言う事の証明やで。」

「そんな住み心地よくもないで?ただ高いばっかや。いちいち下に降りるんもエレベーター待ちが酷いしな。」

「ったく朱鮫は変わらないな。セプレーニ。せっかく来たんだ。口喧嘩は取り敢えず後にして、まずは要件から話せよ。」

 プラセスがセプレーニに話を振る。

「そやな。朱鮫、アンタ技術支援部隊の一員やのうて神徒とか言う奴の一員らしいやんか?」

「ん?なんや。今更やな。そやで。ワイは法神の加護を受けた王やで。」

「今更で悪かったな。俺ら小隊長にはつい最近、その情報が回ってきたんだよ。」

「やっぱアンタ、アタシの事バカにしとるやろ?」

「してへんて。んでそのワイが神徒や言うのがなんかあったんか?」

「あぁ。今までは俺達の方が前線に出る立場だったのにいきなり逆転してしまったからな。」

「せやで。アタシもアンタになんかあったら天国の黄鮫(きこう)に申し訳が立たへんやんか。」

 セプレーニの言うように朱鮫の兄、黄鮫は数年前に魔物討伐の任務で命を落としていた。中隊長として作戦に従事し、殉職したのである。

「そこでや。これ覚えとるか?」

 セプレーニは手のひらに一つのリングを乗せて朱鮫に見せてきた。

「これは、ショックリングか?懐かしいやんけ。ワイが小隊長就任記念で渡したやつやろ?」

「せや。アンタが初めて作った魔道具や。それをアタシにくれた日の事、よう覚えとんで。まだあの頃はアンタも可愛かったわ。」

「なんやねん。今でもワイはぷりちーやっ言うねん。それでそのショックリングがどないしたん?」


 ショックリングとは、大気中の魔素を集めて魔力変換したのちに属性付与せずにそのまま魔力として放出するだけの魔道具である。その為、そこまで大きな威力は見込めないものの、基本遠距離攻撃を常とする魔術師における数少ない近距離攻撃手段として重宝されている。

「このショックリングは天才魔道具師のアンタが作った特別品やろ?そこらのショックリングとはわけが違う。そんな品なら今はアタシじゃなくてアンタが持ってた方がいいやろ?だからコレ渡しに来たんよ。」

「俺は付き添いな。久々に同期の顔でも見ようかと思って付いて来た。」

 朱鮫はまじまじと2人の顔を見て答える。

「お前ら。ワイの事心配して来てくれたんか。」

「そりゃ後方部隊の奴がいきなり前線で戦う神徒になってたら、驚くし心配もするさ。」

「せやで。アンタはアタシの弟なんやし。なんでそんな大切な事、アタシにも言わんとったん?」

「あー。あれや。魔石魔術の研究で忙しいしてたところで、いきなり法神様からのご指名やったからな。言う暇がなかったんよ。」

 気まずそうに頭を掻く朱鮫。実際のところは心配させまいと敢えて伝えていなかったのだ。

「ったくアンタは。いつもそうやって忙しい言うてなかなか会おうともせぇへんで。義父(おとう)さんも義母(おかあ)さんも心配しとったで。」

「おとんとおかんか。確かに暫く()うてなかったな。義姉(ねえ)ちゃんからよろしく言うておいてや。」

「まったく。いつ何があるかわからんのやろ?会うて来なさいな。」

「そうだぞ。俺も早く結婚しろだなんだといつも言われている。お前も味わってこい。」

 プラセスにも後を押される。

「…わーったわーった。今作っとる魔石が完成したら顔出してくるわ。それとそのショックリングはやっぱり義姉ちゃんが持ったってや。聞いとるかもしれんが甲蟲人はいつこのマジックヘブンに現れるかもしれん。そうなった時のお守り替わりや。ワイの分は自分で作れるから。なんならプラセスの分も作ったろか?」

「お?まじ?んじゃ頼もうかな。」

「ほんなら今日明日中に作って魔術師連隊の事務所に届けるわ。」

「あぁ。哨戒中かもしれないからその時は預けて言ってくれ。俺は第25小隊だ。」

「25やな。わかった。ほなワイも朝から忙しいねん。また後でな。」

 2人を押し返すように朱鮫は話を終わらせる。

「必ず義父さん達に会うてくるんやで!」

「わーったって。必ず近々行くから。」

「んじゃまたな。朱鮫。」

 プラセスが引っ張るようにセプレーニを連れて帰ろうとする。

「アンタ、死ぬんじゃないよ!絶対やからな!」

「あぁ。2人も気を付けや。甲蟲人は半端ないからな。」


 2人が帰って静けさを取り戻した自室にて、朱鮫は1人呟いた。

「ショックリングか。確かに近接攻撃用の魔道具もあった方がええな。」

 こうして思わぬところからヒントを得た朱鮫は、それから数日のうちに兵士2000名分のショックリングを作り上げるのであった。


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