322話 愚者の迷宮14
フェンリルが大きく口を開き風の塊を放出してくる。
「アオォォォォン!」
その遠吠えは現実的な質量を持って俺達に迫る。
前1面に風の塊があるのがわかったが
避けきれない。
俺と白狐はおもっきりその塊にぶつかられた。
大きく吹き飛ばされる俺達。
効くぅ。頭がクラクラするぜ。
1人風の塊から身を避けた蒼龍がフェンリルに迫る。
「炎撃・龍翔閃!」
いつもの水擊とは事なり高圧に圧縮された火球が紅色の槍の先端から発射される。
火球はフェンリルの前脚に当たり大爆発を起こし被毛を燃え上がらせる。
「キャイィィィン!」
思わず後ろに下がろうとするフェンリル。だが後ろは壁だ。もう下がる事は出来ない。
かと思えばフェンリルは跳躍して俺達の後ろに回り込む。
巨体通りの身体能力だ。凄まじい脚力をしている。
そこから再度後ろ脚立ちになり、残った前脚を薙ぐと風の刃が俺達を襲う。
だが俺も白狐も風の壁を受けたダメージは回復している。
俺は両手のナイフで、白狐は抜き身の白刃・白百合を振るい風の刃を受け止める。
すかさず俺は影収納から投擲用ナイフで3本取り出す。
白狐がフェンリルに迫る。今だ。
「影縫い!」
流石に学習したのか、影を縫い止められないように跳躍しようとしたフェンリルだったが、俺の方がちと早かった。
跳躍しようとする姿のまま、腹を見せるフェンリル。その腹部に深々と白刃・白百合を突き入れる白狐。
影縫いが解けて跳躍するフェンリルだったが、その腹部からは臓物が溢れ出す。
そして跳んだ先には蒼龍がいる。
「喰らえ!龍覇連突!」
紅色の槍による高速の刺突の連撃を繰りだす蒼龍。槍の先端からは紅蓮の炎が上がる。
刺突は見事にフェンリルの鼻先にヒット。連撃によりフェンリルの鼻が再び燃え上がる。
「キャイィィィン!」
これには堪らずフェンリルも後方へと逃げる。
そこはまだ白狐の射程圏内だ。
1度鞘に収めた白刃・白百合を抜き放つ白狐。
「抜刀術・飛光一閃!」
高速で振り抜かれた刀により放たれた一閃はフェンリルの尻尾を二分する。
「抜刀術・閃光二閃!」
抜き身の白刃・白百合を目にもとまらぬ速度で振り上げるとフェンリルの尻を3つに切り裂く。
「抜刀術・発光三閃!」
その剣閃が通った先ではフェンリルの後ろ脚を4つに切り裂いた。
「ギャフッ!」
体の後部に大きなダメージを負ったフェンリルだが、すぐさま振り向き、白狐へと爪擊を放つ。
白刃・白百合で受ける白狐。
暫く爪擊を受ける攻防が続く。俺は2本目の投擲用ナイフを投げるタイミングを見計らう。
フェンリルご後ろを向いた事で蒼龍がその背後まで迫った。
「龍覇連突!」
紅色の槍による高速の刺突の連撃を繰りだす蒼龍。紅蓮の炎が槍の先端から上がりフェンリルの尻に向けて放たれた。
突き刺さる紅色の槍、燃え上がるフェンリルの尻。
「キャイィィィン!」
また跳び上がり逃げようとするフェンリル。ここだ。
「影縫い!」
切り飛ばされた後ろ脚を気にする事も無く、後ろ脚に体重をかけていざ跳び上がろうとする瞬間を縫い止めた。
再び白狐の前に露わになる腹部。
「てりゃぁぁぁぁあ!」
抜き身の白刃・白百合を縦横無尽に振り抜く白狐。
零れる臓物が倍になる。
「ギャフッ!」
影縫いの効果が解けて跳躍するフェンリルだったが、先程までの力強さはなく、白狐の背後に回ったのみ。
それでも爪擊を繰りだす姿にはなんとしても敵を倒そうという気概が感じられた。
爪擊繰りだす中に蒼龍もエントリーする。
爪を弾き返し、その腕を切り裂く。爪を受け流し、その腕を穿つ。
「アオォォォォン!」
何度目かになる質量を伴う遠吠えを受けて白狐と蒼龍が弾かれたように後方に下がる。
暫しの睨み合い。だが後が無いのはフェンリルの方である。前脚も後ろ脚も片足となり、尻は燃え、腹部からは臓物が溢れ出す。
満身創痍である。
しかし、その目はまだ闘志に漲っていた。
「アオォォォォン!」
風の塊が俺達を襲う。
「アオォォォォン!」
「アオォォォォン!!」
「アオォォォォン!!!」
風の塊が怒濤の勢いで押し寄せてくる。
これには思わずガードしていた両手が上がってしまう。
「ジャッ!」
そこに残った前脚での爪擊が来る。
蒼龍、白狐が腹部をバッサリと斬られて吹き飛ぶ。
俺にも派生した風の刃が降り注ぐ。
なんとかその場で堪えた俺。前脚を今にも地に着けようという体勢のフェンリルに向けてナイフを投擲する。
「影縫い!」
すぐさま俺はフェンリルの首元へと跳躍する。
すでに首の下部は白狐が切り裂いている。上部は俺が切り裂いた。
下部の傷跡に這わせるように黒刃・右月と黒刃・左月を差し込むと、思いっきり引き裂いた。
ドスンと大きな音がしてフェンリルの体が地に落ちた。その目からは生気が失われていた。
やっと戦闘終了だ。
フラつきながらもやって来た蒼龍が落ちた頭から三叉の槍を回収する。
「ふぅ。Sランク相手でもある程度は余裕で勝てるようになりましたね。」
鞘に白刃白百合を収めながら白狐が言う。
「聖術あってこそ、だな。危うく両腕が義手になるところだった。」
「間に合って良かったです。」
「まだ来るぞ!次はケルベロスだ!」
そこからまたケルベロスとの死闘が始まった。
その後も出来る限り戦闘は避ける方向で進み、結局8日目は地下99階まで移動してきた。
残り日数も1日、残る階層は地下100階のみ。
この日は代わり番こにカレーを食べて鋭気を養ったのだった。




