315話 愚者の迷宮7
地上に降り立った鵺。片方の前脚を切断されている為、若干前屈みだ。
俺と白狐に切り裂かれた顔面からは大量の血が流れている。改めて見ると凄い形相である。
猿の顔は怒り極まりしと言った鬼の形相である。
「ヒョウヒョウ!」
相変わらず奇妙な声を上げてこちらに向かってくる。
風を纏っているせいなのか動きが素早い。
あっという間に白狐の前に進むと片腕となった左前脚で爪擊をはなってくる。
ガキンッ
白刃・白百合でこれを受けた白狐であったが、あまりの威力に後退する。
そこにさらに鵺が襲い掛かる。
ガキンッ
2度目の爪擊。白刃・白百合で受けた白狐は大きく後ろへと跳んだ。
そこに入り込んだのは蒼龍。三叉の槍で鵺を突く。
鵺も咄嗟に後方へと下がりこれを避ける。
「ヒョウヒョウ!」
そこに雷撃である。
咄嗟に横に転がって雷を避けた蒼龍。
だが、そのせいで鵺との距離が空いてしまった。
俺も鵺に向けて駆け出す。
鵺が繰り出してくる爪擊を黒刃・右月で弾き返し、黒刃・左月を振るう。
黒刃・左月は猿顔の左目を切り裂いた。
「ヒョウヒョウ!」
そこに雷撃が落ちてきた。俺は避けることが出来ずもろに喰らってしまった。
一瞬視界が真っ白になる。耳も良く聞こえない。聞こえるのは体から発せられるプスプスと言う肉が焦げた音だけ。
一瞬の急激な筋緊張からの筋弛緩により、体に力が入らない。
「親愛なる聖神様、その比護により目の前の傷つきし者に癒やしの奇跡を起こし給え。ヒーリング!」
緑鳥の聖術により急速に電撃を受けた際の火傷が治る。さすが聖術。
その後も白狐と蒼龍が果敢に攻め込むが片足を失っているとは思えないような機敏さで鵺は攻撃を避け、さらに爪擊を放ってくる。
蒼龍が三叉の槍で爪擊を受けたがあまりの威力に槍を持って行かれる。
そこにさらに追撃が襲う。
右肩をざっくりと斬られる蒼龍。王鎧に3本線がくっきりと浮かぶ。
そんな鵺に白狐が斬り込む。
失った右前脚の方へと回り込み、鵺の胴体に一閃。その体を切り裂く。
しかし鵺もただ斬られただけでなく、雷を落としてきた。
白狐目掛けて雷が落ちる。
プシューップスプスッ
白狐の体から白い煙が上がる。
肉体を雷によって焼かれたようだ。動けないようで鵺の爪擊をもろに喰らって吹き飛ぶ。
「親愛なる聖神様、その比護により目の前の傷つきし者に癒やしの奇跡を起こし給え。ヒーリング!」
癒やしの光が白狐を包み込む。
その間にも蒼龍と俺は鵺へと斬りかかる。
蒼龍が槍を突き出し、後退した鵺を追って俺が追撃を入れる。
さきほど斬った左目にさらに黒刃・左月を突き刺すことに成功。
片目の視力を奪ってやった。
だが、そこに爪擊が迫る。俺は右手に持った黒刃・右月で爪擊を受け止めて後退する。
入れ替わりに鵺へと迫ったのは蒼龍。
三叉の槍を突き出して鵺の胴体を穿つ。
「ヒョウヒョウ!」
雷が蒼龍へと落ちる。
さらに爪擊。もろに胸部に爪擊を受けた蒼龍が吹き飛ばされる。
「親愛なる聖神様、その比護により目の前の傷つきし者に癒やしの奇跡を起こし給え。ヒーリング!」
緑鳥がいて良かった。いなかったら結構ヤバかったな。
復帰した白狐が果敢に攻め込む。
「抜刀術・飛光一閃!」
高速で振り抜かれた刀により放たれた一閃は鵺の体を切り裂き、鮮血が舞う。
白刃・白百合による斬撃を受けた鵺の体が一瞬グラつく。効いているようだ。
俺も追撃を繰り出し鵺の体の左側を大きく切り裂く。
「ビョウビョウ!」
鵺は咄嗟に左前脚を振りあげて俺に爪擊を放ってくる。
防御が間に合わない。
俺は右肩を前に出し振り下ろされる爪擊を肩で受けた。
痛ぇ!
そうけは王鎧をも切り裂き俺の肩から出血する。だが、腕を動かせないほどのダメージではない。
俺は黒刃・左月を振るい猿顔をさらに切り裂く。
鮮血を散らしながら鵺は後退し、雷を放ってくる。
「ヒョウヒョウ!」
今度はギリギリで避けられた。
雷も来ると分かっていれば避けることは出来そうだな。
と、ここで鵺が新たな攻撃を仕掛けてきた。
離れた位置から左前脚の爪で引っ掻く動作をすると、風の刃が飛んできた。
ガキンッ
俺は咄嗟に黒刃・右月を前に出し風の刃を受けた。
爪擊ほどは威力は無さそうだが雷に続いて風の刃という遠距離攻撃手段を見せてきた。
これに正面から立ち向かったのは白狐。
「飛剣・鎌鼬!」
空に浮いていた時は纏っていた風により届かなかった真空の刃だったが、今度は届いた。
猿顔の顔面がさらに切り裂かれる。
「ビョウビョウ!」
鵺も負けじと爪擊を放ち風の刃を放ってくる。
白狐の鎌鼬による真空の刃と鵺の風の刃の飛ばし合いが暫く続く。
たど鵺の方は片足になっている為、次第に白狐の鎌鼬の方が手数が多くなっていく。
段々と鵺の体から鮮血が散る。
鵺は風の刃を振りまくのを諦めて、再び後方へと大きく跳躍した。
「ヒョウヒョウ!」
戦法を雷に移行した。
あちらこちらに雷が落ちる。
今度は狙いをつけたものではなく、手当たり次第に雷を落としてくる。
俺も白狐も、蒼龍も雷を避けるので手一杯になる。
第3ラウンドの開始である。




