309話 愚者の迷宮1
久しぶりに13人の王が聖都に集結した。
この頃には黒猫、白狐、蒼龍の3人は王化継続時間を3時間にまで延ばしていた。
紫鬼、金獅子、銀狼も2時間半を超えておりもう少しで3時間の壁に到達しそうな勢いである。
そんな中、久々に皆で集まったからと黒猫の作ったカレーを皆で食べている中、銀狼が語り出した。
「そう言えばオレがドワーフ王国に義手の修理で行ってた時に迷宮からミノタウロスが出てくるって事件があったんだけど、今回は何もなかったか?」
「迷宮から?いや、今回オラァ達がドワーフ王国に行ってる間には特に何も聞いてないけどなぁ。」
「それは儂も気になってただよぉ。鉱山掘ってて迷宮に横穴空けちまったから、そっから逃げ出したんだと思うんだぁ。だからその穴を埋めちまえばもう大丈夫なはずなんだぁ。」
碧鰐と茶牛が答える。
そこで思い出したように金獅子が言う。
「そう言えば甲蟲人が攻めてくるちょっと前に獣王国の西にある砂の迷宮からもミノタウロスが出てきたな。」
「なに?獣王国にもミノタウロスが出たのか?」
「あぁ。砂の迷宮と言えば砂漠地帯の地下に広がっているはずだからな。どこかに穴が空くって事もないはずなんだがな。」
金獅子が首を捻りながら言う。
この世界には迷宮と呼ばれる迷路のような階層が4つ確認されている。
旧王国領に存在する嘆きの迷宮、ドワーフ王国の東に存在する愚者の迷宮、獣王国の西に存在する砂の迷宮、クロムウェル帝国の東に存在する覇者の迷宮の4つだ。
この迷宮は古くは2000年前の書物にまでその存在が記載されており、太古の昔から存在していると考えられた。
曰く、神々が地上界に存在しては他の生物に悪影響を与える魔物を閉じ込める為に作られたものである。
曰く、地上界に存在しては物事の摂理を狂わせる神器を封印する為に作られたものである。
曰く、神々が人族を成長させる為の訓練場として作られたものである。
未だ学者達の間ではその存在理由が討論されている。
ただ、入り口には神の封印がされており、迷宮内の魔物は迷宮の外には出てこられないようになっていた。
それに迷宮に潜る専門のハンター、ダンジョンシーカー達により持ち帰られた品々は現代技術では複製出来ないような魔剣や魔道具が多数確認されている。
その為、一攫千金を夢見て迷宮に潜るダンジョンシーカーなる職業まであるのであった。
神の封印により下層階級には近付けず強者は下層階級に引きこもる。代わりに下層階級には弱い魔物が湧くのである。
そう、湧くのである。今までそこにいなかったはずのゴブリンなどが急に姿を現す。これは生態系として異常な事である。
それを実現させる程に下層階級に封じられた魔物の魔力は高く、そんな存在がいる迷宮内には濃い魔素が循環している為に、魔物が湧くのであると言われている。
「迷宮から魔物が溢れ出すとなると神の封印が解けかかっているって事か?」
黒猫が誰にともなく問う。
「邪神復活の影響もあるのかもしれませんね。」
白狐が冷静に答える。
「邪神の影響か。あり得なくはないか。」
銀狼も呟くように言う。
「気になるのか?」
蒼龍が尋ねる。
「まぁな。オレと茶牛で倒したミノタウロスは強かった。間違いなくAランク、いやもしかしたらSランクに匹敵したかもしれない。そんな奴が甲蟲人と戦ってる間に出てきたらそれこそパニックだろうぜ。」
「確かにな。俺様も近々調べる必要があるとは思っていた。黒猫達は王化継続時間が3時間を超えたのだろう?どうだ。この際だから迷宮探査に行ってこないか?」
「迷宮探査?俺が?」
「もちろん1人でとは言わんよ。ともに3時間を超えた白狐と蒼龍、それに緑鳥も一緒にどうだ?」
金獅子が黒猫達を見て言う。
「わたしは各国への書状は書き終えましたので行くことは可能ですが。」
緑鳥が言う。
「私も賛成ですね。王化継続時間が目標を超えた時点で次は戦闘訓練だと思ってましたからちょうどいいと思います。」
白狐も賛成のようだ。
「うむ。我も義手、義足での戦闘訓練が必須だと思っていた。迷宮なら戦闘には事欠かないだろう。」
蒼龍も行く気である。
「分かった。んじゃまずはドワーフ王国の東の愚者の迷宮だな。穴が空いてる事は確実だし、穴が塞がっているか確認も必要だろう。」
黒猫が賛成したことで4人による迷宮探査が決まったのである。
ドワーフ王国までは藍鷲のゲートの魔法で移動し、そこからは徒歩で愚者の迷宮へと向かう。
場所的にはドワーフ王国の東側、1時間程度の距離にあった。
いざその場所に着いてみると巨岩としか言いようのない岩の山がそびえ立っていた。
その岩壁にある迷宮の入り口は巨人族でも入れそうなほどの大きな扉で閉ざされていた。
誰がそんな大きな扉を開くことが出来るのかと思っていると、人族用の扉が片方の扉の中にある事がわかった。
今日もダンジョンシーカー達がその扉を潜って迷宮へと向かっていく。
「ここが愚者の迷宮かぁ。初めて来たな。」
黒猫が言うと
「うむ。我も迷宮は初めてだな。」
「わたしも話には聞いておりましたが、実際に入るのは初めてです。」
「私も中に入るのは初めてですね。何があるかわからないですからね。気を引き締めて行きましょう。」
白狐が先陣をきって中へと入っていく。
白狐、蒼龍、緑鳥、黒猫の順で扉を潜る4人による迷宮探索が始まった。




