308話 ドワーフ王国16
蒼龍の義足が出来上がった日のこと。
蒼龍はすっかり初めて義手を装着した日のことを忘れていた。
そう。傷口を再度切り開いて魔石をぶっ刺すのだ。これは神経系統を魔石に繋げる事になるため、かなり痛い。
武芸者として相当な年数を生きてきた蒼龍でも思わず声が出るほどに痛いのだ。
それが今度は左膝下である。すねの一部である。1番痛い所である。
そりゃあもう声が出るってもんじゃなかった。
「ぐぎぎぎぎっ!」
「ぐはっ!」
「ぐおぉぉぉぉお!」
「ぎゃあっ!」
「ぬおぉぉぉぉぉお!」
「んがはっ!」
「むぬぬぬぬぬぬっ!」
ひとしきり呻いて唸って喚いた。
だがその甲斐あって無事に左足の膝下に義足が装着出来た。
初めての義足だったが、足首の動きも滑らかですぐに立ち上がる事が出来た。
歩くには少し時間がかかりそうで、少しの間はリハビリがてら歩き、遠出するには車椅子での移動となった。
そんな蒼龍の様子を間近で見てしまった翠鷹は震えた。あの蒼龍ですらあれだけ呻いていたのだ。自分がその痛みに耐えられるか不安になった。しかも自分は両足である。
失神したらどうしよう。翠鷹は日々そんな事を心配していた。
蒼龍の義足が出来上がってから5日目にして翠鷹の為の両足の義足が出来上がった。
片足ずつになると思っていたのだが、バランスを見るのに両足分を一気に作って1度に両足の装着をする事になったのだ。
翠鷹の怪我は太腿の中間辺りである。
膝関節も義足に含まれる為、蒼龍の物よりも精密な魔力操作が必要になるとのことで、着ける魔石もそれなりにデカかった。
まずは塞がった傷口を切り開く。
これは熱したナイフを使って神経系統が見えるまで抉ることになる。
最初の悲鳴はこのタイミングだった。
「きゃぁぁぁぁぁあ!」
「んんんんんんんんん!」
「んあぁぁぁぁぁあ!」
「くっぐっぬぁっぐっ!」
「あぁぁぁぁぁぁあ!」
次に魔石を傷口に突っ込む。この際には魔石が神経系統に接するように差し込む為、2度目の悲鳴はこのタイミングとなった。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁあ!」
「ぐっぬっぬっあっがはっ!」
「むぅぅぅぅう!あっ!はっ!」
それを左右それぞれで行う。
4回目の悲鳴はすでに喉を消耗して声もガラガラで声にならない声となった。
2箇所の魔石挿入だけで満身創痍な翠鷹であったが、ひとまず義足の装着までは済ませた。
立ち上がる気力はなかった為、その辺りは翌日に繰り越された。
翌日も『鋼の四肢』に赴いた4人。
今日は翠鷹の歩行練習だ。
蒼龍と違って両足が義足となった為、歩行練習にも器具が必要だった。
しかも膝関節もある為、その歩行の苦労は蒼龍よりも何倍も厳しく、つかまり立ちで歩けるようになるまでに5時間を要した。
一通り歩けるようになった為、後は松葉杖を用いた歩行訓練と長距離移動の際には車椅子を使う事にした。
さらに2日が経過し、すっかり蒼龍は普段通りに歩けるようになった。
そして義手も完成して、装着する事になったのだ。
蒼龍の義手は左前腕なので肘は自前である。その為、動かすのは手首と各指だけである。
こちらに関してはすでに経験済みである為、スムーズに手首も各種指も動かせた。
試しに直ってきた三叉の槍を使っての演舞を行ってみたが、なにも問題はなさそうである。
まだ翠鷹は松葉杖をついての歩行訓練中であったが、これ以上ドワーフ王国に滞在しても出来ることはない為、藍鷲に通信用水晶で連絡を取ってゲートの魔法を開いて貰い聖都セレスティアへと戻ってきたのであった。
「おぉ!蒼龍に翠鷹!無事に義肢は装着できたか。」
4人を迎え入れた金獅子が問うてくる。
「あぁ。我の方はもう単独での歩行も可能だ。義手のほうも問題ない。」
「ウチはまだ松葉杖が手放せまへんなぁ。どうにも魔石を通して膝の感覚を掴むのが難しいですわ。」
そう言う翠鷹に対して銀狼が言う。
「あぁ。なんとなくわかるぜ。俺も肘関節の動きになれるまでにちょっと時間がかかったからな。関節が逆に曲がっちまう感じがあるんだろ?」
「そうですわ。まるで膝が前面に折れ曲がるような感じがしてまうんよね。そのせいでガクガクするんよ。銀狼はんは肘の方でも同じやったん?」
「あぁ。一緒だな。肘が逆に曲がりそうな感じがしてた。でもまぁ慣れだな。そのうちしっかりと義足に体がフィットしてその辺りの不具合もなくなると思うぜ。」
「そうですかぁ。それじゃ慣れるまでは松葉杖のお世話になりますわ。」
「わたしにも何かお手伝い出来ることがあれば言って下さいね。わたしも義足歴1年以上のベテランですから。」
緑鳥も言う。
「そうやったね。緑鳥はんも右足は太腿から先が義足やったわね。やっぱり慣れるまでに時間かかりましたん?」
「わたしの場合は片足でしたからね。でも膝が逆に曲がりそうになる感覚はわかります。常に膝を曲げておくように過ごすと慣れが速いと思いますよ。わたしはそうでしたから。」
「ほうほう。膝を常に曲げておくねぇ。試してみますわ。」
そんなこんなで聖都セレスティアに全員が集結したのであった。




