306話 ドワーフ王国15
紺馬と翠鷹と別行動をしている蒼龍と碧鰐は、碧鰐の武器を見繕いに宿屋の店主に聞いたお薦めの店にやって来ていた。
やはり店によって得意な武具があるようで、剣ならココ、槍ならココ、斧ならココっとそれぞれ違う店を紹介された。
今来た店は斧を中心に扱う店だった。
店に着くなり頭の禿げ上がった顎髭を三つ編みにした店主が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませぇ。今日は何をお探しでぇ?」
「あぁ。今日はオラォの使う斧を見に来たんよ。今使ってるのは若い頃に買ったアダマンタイト製の手斧なんだがな。もっと戦闘に特化した武器に買い換えようかと思ってな。」
「戦闘特化の斧ですかぃ。ならバトルアックスかハルバードかなぁ。」
「ハルバード?なんだそれは?」
「見た事無いかぃ?こう言う長槍に斧が付いた武器さぁ。」
そう言って店主はハルバードを1本取り出して2人に見せた。
確かに見た目は槍そのものであり、槍の矛部分の下に斧が付いていた。
「長いな。オラァ手斧を使ってたからな。手斧の方が性に合ってると思うんだ。」
「手斧なぁ。手斧って言っても色々あるぞぉ。まず片手斧なのか両手斧なのか、形状はバトルアックスなのか、ウォーアックスなのか、グレートアックスなのかぁ。刃の形は板刃なのか半月刃なのかボーディングなのかってな具合になぁ。」
「なに?手斧って1種類じゃねぇのか?」
「何を言っとるかぁ。両刃のバトルアックス、片刃プラス反対側はピック状のウォーアックス、刃の部分が大きく片刃のグレートアックスが基本の3種だなぁ。」
店主は次々に見本となる手斧を出して並べてくれる。
「それに加えて刃の形が板刃なのか、半月刃なのかまさかり状のボーディングがあり、さらに片手斧なら柄が短いが、両手斧なら柄が長いってな具合よぉ。」
「なるほど。色々あるのだな。片手斧が良いな。今と変わらない使い心地だろう。」
そう言うと碧鰐は自分の使っている斧を取り出して見せる。
「これはグレートアックスの板刃だなぁ。ちと刃は小さめだが完全なる片刃の手斧だからグレートアックスで間違いないだろうなぁ。」
店主は碧鰐の斧を見て即座に言う。
「そいつもまだ使えるんだろぉ?なら2本持ちとしてウォーアックスをお薦めするぜぇ。」
店主は半月刃を持つウォーアックスを進めてきた。
「なんと言ってもこのピック部分で斬撃だけでなく刺突も出来るんだぁ。戦い方に幅が出るってもんよぉ。グレートアックスより刃は小さい分、重さもそこまでじゃないしなぁ。両刃のバトルアックスになるとちと重さが変わってくる。って言っても1番重いのはこの大きな刃の付いたグレートアックスだけどなぁ。」
実は碧鰐、今使っている手斧は持ち金で買えるアダマンタイト製の斧が1択だった為、そこまで詳しく話を聞いた事は無かった。
ただ薪割りなどで愛用していた斧を手に取り傭兵となった為、自分に合った武器と言えば斧であり、1番強度のあるアダマンタイト製を求めたのだ。
「そこまで薦められたらそれが1番良さげだな。アダマンタイト製のウォーアックスをいくつか見せて貰えるか?」
「はいよぉー。ちょっと待っとれぇ。」
そう言う店主は奥に引っ込んでいき、戻ってきた時には手に4本のウォーアックスを持ってきた。
「まず1本目は板刃の斧刃に真っ直ぐなピックが付いたやつ。2本目は半月刃の斧刃に真っ直ぐなピックが付いたやつ。3本目は板刃の斧刃に湾曲したピックが付いてるやつ。4本目はボーディングの斧刃に湾曲したピックが付いてるやつだぁ。全部アダマンタイト製だぁよぉ。」
碧鰐は一つ一つ手に取り重さを確かめ、軽くその場で振ってみたりする。
「このピックが湾曲したのはどう言う使い方するんだ?」
「あぁ?そいつは相手を引っかけて引きずり倒したりするのに使うんだよぉ。岩なんか削るツルハシとしても使えるだろぉ。」
「なるほど。うん。重さ的にもこの半月刃のやつがいいな。ピックはもしもの場合に使うくらいの想定だから真っ直ぐのでいいかな。」
「おぉーこれにするかぁ。これだと白金貨1枚だなぁ。」
金は来る前に黒猫から結構な額を預かって来ている。こういう時の為に金を集めているので使って問題ないと言われている。
碧鰐は人生初の白金貨に震えながら買い物を済ませた。
その後2人は『八百万の槌』に赴き、修理に出していた蒼龍の三叉の槍を受け取った。
返ってきた三叉の槍はどこが曲がっていたのかわからない喰らいに綺麗に仕上がっていた。
ただし、店主からはこう言われた。
「金属っちゅうのは1度曲がっちまうと元に戻してもその箇所が若干弱くなっちまうんだよぉ。だから今後も戦いで使うとなると注意が必要だでなぁ。気を付けて使うんだよぉ。」
との事である。
とは言えオリハルコン製の槍がそうそう曲がることはないだろう。
蒼龍は礼を言うと碧鰐と共に『八百万の槌』を後にした。
夜になり宿屋に紺馬と翠鷹も戻ってきた。
本当に一日中、茶牛の作業を見ていたらしい。
「茶牛は凄いな。あっという間に金属の塊が義足の形に形成されていく様は見ていて楽しかったぞ。」
紺馬が言う。
「ホンマに義足の作製なんてなかなか見れるもんやないからねぇ。なかなかに楽しめましたわぁ。」
「そうか。それは良かったな。で明日には出来そうだったか?」
「えぇ。茶牛はんが言うには夕方頃には出来上がる言うてましたわ。」
「そうか。では食事にして今日は早く寝るか。」
こうして2日目の夜は過ぎていった。




