305話 ドワーフ王国14
明けて翌日。
茶牛の仕事の様子を見たいと言い出した紺馬が翠鷹と共に『鋼の四肢』へと赴いた。
蒼龍と碧鰐は別行動で碧鰐の武器を見繕いに出掛けていった。
『鋼の四肢』へと辿り着いた紺馬と翠鷹が店内に入ると、そこは外の空気よりも一段階熱く感じられた。
そこに店主がやってくる。背の背の低い髭面のずんぐりむっくりした体形をした男性である。ドワーフと言う種族は背が低くすんぐりむっくりな体型をした者が多いが、店主はその中にあっても背が低い方である。
「どしたぁ?茶牛の奴はまだ作業中だぞぉ?店内が暑かろうぅ?窯に火焼べてっからよぉ。」
「うん。作業中なのは分かっている。その作業を見学に来たのだ。」
紺馬が答える。
「作業の見学けぇ。なら好きなだけ見てけぇ。茶牛は奥の工房にいるからよぉ。」
そう言い残して店主は奥の事務室らしき方に向かっていった。
「んじゃ紺馬はん。工房に行きましょ。」
「あぁ。行こう。」
2人は熱気が更に増した工房へと入っていった。
「んぁ?どした2人とも。まだ義足は出来てねぇぞぉ。しかも今作ってんのは蒼龍のだしなぁ。」
作業中の茶牛が2人の訪問に気付いて言う。
「いやね、紺馬はんが茶牛はんの作業を見学したい言うから2人でやって来たんやわぁ。」
「作業の見学だぁ?んじゃまぁ好きに見てってくれやぁ。」
茶牛の許可も得たので堂々と茶牛の隣に移動する2人。
「あっついなぁ。こんなとこで作業するとかしんどそうやわぁ。」
「熱くしねぇと金属が言う事聞いてくれねぇからなぁ。これでも火入れは昨日済んでるからまだ涼しい方だぁ。」
翠鷹が言うと茶牛が答えてくれる。
「それにしてもそんな見てても面白いもんじゃねぇぞぉ。金属を熱して叩いての繰り返しだでなぁ。」
「金属を弄るのは楽しいか?」
紺馬が問う。
「んぁ?弄るのが楽しいかだってぇ?まぁそうだなぁ。楽しいかぁ…うん、楽しいなぁ。」
「そうか。」
「あぁそうだぁ。儂は元々鉱石が好きなんだよなぁ。」
そう言って茶牛は語り出した。
茶牛は生まれた時に左右の手にそれぞれ異なる鉱石を握って生まれてきたそうだ。
その石は今でも大事に家宝として祀っている。
価値がある石ではないが、生まれながらに握り込んでいた石である為、両親が有り難がって家宝としたのだ。
そんな事があったからか、茶牛は幼い頃から鉱石に興味を持った。
様々な鉱石を集めるのが趣味となったのだ。
石灰岩、花崗岩、灰重石、白雲母、石墨と様々な鉱石を集めた。
やがてそれは金属にまで手を出して黄銅鉱、赤鉄鉱、銅、銀、金、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンと手を広げていった。
そんな鉱石好きが鉱山夫にのなるのは自然の流れだった。
茶牛は様々な鉱山に潜り鉱石を採取した。
鉱山夫として毎日鉱山に入り、穴を掘る。そして希少な金属を見つけていくのは宝探しのようで性に合った。
しかしある時、同僚の鉱山夫が落石により左足を失う大怪我を負った。
不憫に思った茶牛は日曜大工の気分で義足作りを始めた。
同僚が失ったのは膝から下だった為、関節部などを考えること無く、ただまっすぐに立てて、普通に歩けるようにだけを意識してつくった。
出来上がった義足を同僚に渡すと大変喜ばれた。涙を流して礼を言ってくる同僚。これでまた以前のように鉱山夫として働けると大変感謝された。
金属を弄って義足を作るのは楽しかった。そんな楽しい事をして他人にも喜ばれるなんて凄く素敵な事に思えた茶牛は、鉱山夫辞めて今の『鋼の四肢』に赴き弟子入りを志願した。
それから月日は流れ、関節部などをも普通に作れるようになり、そのうち普通の義肢だけでなく、魔石を活用して元通りに動かせるような魔導義肢にまで手を広げた茶牛はこの国でも1、2を争う義肢装具士になっていた。
「そんな訳で儂は生まれた時から鉱物に愛されとるわけよぉ。」
「石を握って生まれたのか。」
紺馬が驚いている。
「不思議な事もあるもんやねぇ。」
これには翠鷹も驚いたようだ。
「そんなこんなで儂は鉱石、ってか金属を弄ってると落ち着くのよなぁ。それこそ集中して形成出来るんよぉ。だから自分に天職だと思っておるんよぉ。自分が作ったもんで人が笑顔になるぅ。最高の仕事よなぁ。」
金槌で熱した金属を叩き続けながら茶牛は放す。
「そうか。鉱石が、自然が好きだから穴を掘るのか。使う人の喜びか。むやみに自然を壊している訳ではないんだな。」
しみじみと紺馬が言う。
「どうしたぁ?急に?儂らが金属弄るのは楽しいからだけじゃなく、それを使う人の喜びがあるからよ。」
「そりゃそうやで紺馬はん。ただの自然破壊やったら誰かが止めてるわ。鉱石を採取して、この鉱石で包丁やらの道具やったり、ウチらの剣なんかの武器を作ったり、茶牛はんみたいに義手や義足を作ったり、ウチらもその恩恵を受けとるんよ。」
「そうだな。確かにそう言われればそうだ。」
深く頷く紺馬。
それからも2人は静かに茶牛の作業を見守るのであった。




