295話 甲蟲人:鍬形1
後方から戦場を眺める帝国騎士団団長、ニーブルもラクサルス達が蟻の壁を抜け敵後方に到達したところが見えた。
「蟻の壁を破ったようだね。」
そこに声をかけてきたのは勇者バッシュである。
「これはこれはバッシュ皇子。勇者として前線に出られているのかと思っておりましたが。」
ニーブルが答える。
「先兵に用はないさ。僕が狙うのは敵将のみ。」
「なら俺達騎士団と一緒ですな。皆の者!ラクサルスが敵の壁を打ち破ったぞ!これより我々も突撃する!」
ニーブルは声を上げて残る騎士団の面々へと指示を出す。
「では、皇子。俺達は先に行かせて頂きます。」
そう言い残しニーブルは龍王達が開けた敵の壁の穴を目掛けて駆けていった。
「ふっ。精々敵将の体力を削っておいて、くれよ。最後に敵将の首を取るのは僕だ。」
バッシュは仲間達を集めて、ゆっくりと敵後方を目指す。
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龍王と鬼王は敵将の姿を見て話し合う。
「あれは鍬形か?」
「そうじゃろ?あの頭の挟みは鍬形以外の何者でもなかろうよ。」
「手にしている斧も異様だな。」
「あぁ。アイツの体と同じくらいの大きさに見える。あんな武器を振り回すとあれば相当な膂力の持ち主だぞ。」
「頭の挟みも要注意だな。」
「あぁ。挟まれれば王鎧を纏っていても大ダメージは必至じゃろうて。」
そんな2人の会話を尻目にラクサルス達、帝国騎士団の面々が甲蟲人:鍬形に迫る。
「敵将取ったり!」
戦闘を行く騎士が騎士盾と騎士剣を掲げて甲蟲人:鍬形に迫った。
ブンッ!
空気を断つような音が聞こえた。
次の瞬間、戦闘を走っていた騎士団の1人が体を上下2つに分かたれて宙を舞った。
手にしていた騎士盾すらも切断されている。
そんな中に突進していく帝国騎士団達。
ブンッ!
またしても空気を断つ音がしたと思ったら2人の騎士が宙を舞っていた。やはり体は上半身と下半身に真っ二つにされていた。
「むやみに突っ込むな!」
鬼王の声も虚しく次々と騎士達が宙を舞う。
一目で絶命しているとわかる様相である。
いずれも体を真っ二つにされていた。
「うおぉぉぉぉお!」
レボセチリジンもランスを持って突進していく。
ランスであれば並の攻撃はその円錐の槍に弾かれる。攻防一体の突撃である。
しかし、
ブンッ!
空気を断つ音が聞こえ、レボセチリジンの持つランスが跳ね上げられた。
ブンッ!
目にも留まらぬ速さで振り抜かれた長大な斧はレボセチリジンの体を上下真っ二つに切断して、また肩へと担がれた。
レボセチリジンの体が宙を舞う。
「レボセチリジン!まじか。アイツの突貫すら跳ね飛ばすのかよ。」
ラクサルスが驚愕の声を上げる。
その後も殺到する騎士達を一撃で屠っていく甲蟲人:鍬形。
残る騎士はラクサルスのみとなった。
そこで甲蟲人:鍬形が口を開く。
「全ク手応エノナイ奴ラヨ。マサカコンナ奴ラニ甲虫ハヤラレタノカ?我ガらいばるト思ウテオッタガ、大シタ奴デハナカッタヨウダナ。」
長大な斧を肩に担ぎ、少し腰を落とした状態の甲蟲人:鍬形が龍王達を睨みつける。
「ソッチノ奴ラカラハ強者ノ匂イガスルナ。少シハ楽シマセテクレルカ?」
それを聞いた精霊王が仕掛ける。
「随分と余裕だな!これでも喰らえ!」
風の矢を1度に5射する精霊王。
しかし、ブンッ!と風を斬る音が聞こえると風の矢は全て巨大な斧によって掻き消された。
「ちっ!なら、火の精霊よ。力を貸し給え!」
そう言って矢を番える精霊王。その手には燃え盛る炎の矢が5本握られている。
放たれる5本の炎の矢が甲蟲人:鍬形に迫る。
ブンッ!
ボンボンボンボン。
1度に振り抜かれた巨大な斧により4本の矢が砕かれる。
しかし、意図的に1本のみ遅らせて射た為、その1本は甲蟲人:鍬形に当たり爆発を起こす。
ボンッ!
炎の矢を顔面に直撃を受けた甲蟲人:鍬形であったが少しもその体は揺るがない。
顔面の前から立ち上った煙が晴れると甲蟲人:鍬形が言う。
「ナカナカヤルナ。ソウカ。甲虫ヲヤッタノハオ前達カ。」
そして体を精霊王へと向けると一気に距離を詰めてきた。
「危ない!」
咄嗟に龍王が精霊王の肩を押して横にずらすと、手にした三叉の槍を両手で構える。
ガギンッ!
甲蟲人:鍬形の放った巨大斧による一撃を三叉の槍で受け止めた龍王。
「ホウ。我ガ一撃ヲ止メルカ。」
三叉の槍を押し返し、蹴りを放つ龍王。
しかし、すでにそこに甲蟲人:鍬形の姿はなく、後方に避けられていた。
「攻撃が重いな。みんな気を付けろ。かなり手強いぞ!」
龍王が他の面々に注意を飛ばす。
ラクサルスは今の一連の動きを目で追えていなかった。
気が付いたら甲蟲人:鍬形がすぐそばに来ており、紺馬がいた位置に蒼龍がいて、その攻撃を受け止めていた。
ヤバいと思った。
騎士団の副団長たる自分ですら動きについて行けないのだ。レベルが違う。
事前に敵将はSランク相当とは聞いていた。
だが、ドラゴンすら相手取れる帝国騎士団なら問題なく対処出来ると思っていた。
しかし、蓋を開けてみれば任された24名の騎士達はあっさり殺され、その動きについていけない自分がいた。
やべぇ奴が相手だった!
ラクサルスがそう思っている所にニーブル率いる残りの騎士団が到着したのだった。




