292話 甲蟲人:蟻6
倒せども倒せども甲蟲人:蟻が湧いてくる。
俺は白狐と一緒に前線に赴き、長剣を振り下ろしてくる甲蟲人:蟻の攻撃を受け流しながらその肩口を狙ってナイフを振るう。
1度では切断出来なくとも2度、3度と斬りつけるうちに長剣を持つ腕を切り落とす事に成功。
そうなればあとは爪擊を放ってくる腕を避けながら首筋にナイフを走らせるだけだ。
怖いのは長剣による攻撃のみである。
甲蟲人:蟻も膂力はかなり強く長剣により斬撃を受けて今も帝国軍兵士が倒れていく。
バックラーで攻撃を受けても、その威力を殺せず跳ね上げられ斬りつけられているようだ。
やはり前回の侵攻の際には自分達で回復出来る兵僧達であった為、攻撃を受けても戦線を維持出来たが帝国軍兵士達には荷が重いようだ。
それでも果敢に攻める帝国軍兵士達を尻目に俺達は次々に甲蟲人:蟻を撃ち倒していく。
白狐なんかは長剣による攻撃を受け流しながら首を刎ねる動作が一連しており、受け流しては首を刎ね、受け流しては首を断ちと次々と甲蟲人:蟻を沈めていく。
やはり強い。見方で良かったと思えるほどの力量を見せつけられて俺もヤル気が湧いてくる。
長剣による斬撃を避けて直接首筋を狙う。
片腕でガードされたが、構わずその腕を弾き飛ばしてさらに首を狙う。
一撃目は口に生えた牙で受け止められてしまったが、二擊目、三擊目は無事に首筋に入り、その首を刎ねる。
首を刎ねてもナイフを噛む頭が取れない。
俺はもう片方のナイフで口を開かせてなんとかナイフから頭を外す。
そんな事をしているうちに次の甲蟲人:蟻が斬撃を放ってくる。
俺は半身になって長剣を避け、頭が外れたナイフを振るいその首を刎ねる。
俺と白狐の前には堆く甲蟲人:蟻の死骸が積み上がるが、甲蟲人:蟻どもはその死骸の山を越えて迫ってくる。
仲間の死骸だろうと踏み越えてくる様はまるで戦闘命令を受けたゴーレムのようだった。
まるで感情が読めない。
普通はこれだけ仲間が倒されては攻撃を躊躇するものだが、その素振りもない。
ひたすらに前に出て長剣を振るってくる。
俺達はまるで作業のように次々に甲蟲人:蟻を屠っていくのであった。
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一方その頃、碧鰐と合流し、障壁内に入り込んだ朱鮫は焦っていた。
魔術を次々に撃ち込んでいるのに敵の後方がまだ甲蟲人:蟻で埋め尽くされているのである。
「いったい何体おるんや?まったく終わりが見えへんやないか。ちまちま魔術を放ってもラチがあかん。」
「ですね。わたしも魔法を放ちすぎると魔力が枯渇してしまいます。どうしましょう。」
朱鮫の嘆きに藍鷲も続く。
「こうなったら王化して爆裂魔術を叩き込んだるわ。威力のデカイ爆裂魔術ならもっと多くの蟻達を屠れるやろ。」
「爆裂魔術…聞いたことはありませんが朱鮫さんが言うなら相当な威力なんでしょうね。お願い出来ますか?」
「任しとき!王化!法王!」
朱鮫が声を上げると、左手人差しのリングにはまる朱色の王玉から朱色の煙を吐き出しその身に纏う。
その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると鮫を想わせる朱色のフルフェイスの兜に、同じく朱色の王鎧を身に着けた法王の姿となる。
「喰らえ!エクスプロージョン!!」
魔素を魔力に変換する魔石3つを使って初めて発動出来る大技、爆裂魔術を発動した。
甲蟲人:蟻の後方を狙った高密度の魔力が飛んでいき大地を揺るがした。
ボッカーン!
爆裂魔術の放たれた後には大きなクレーターが出来ており、その場にいた甲蟲人:蟻を跡形もなく消し飛ばしていた。
「凄い!一気に100体は倒しましたよ!」
その魔術を見て藍鷲が興奮する。
「ふっ。ワイのとっておきやからな。魔石3つで魔素を集めてやっと発動できる大技や。ただ1発撃ったら暫く放置せんと魔石が割れてまう。連発出来んのが難点やな。」
「それでも凄い威力ですよ。あんなに大きな穴を空けて。わたしも負けてられませんね。ロックハリケーン!」
竜巻の中に岩石も混じり敵をすり潰す魔法だ。
巻き込まれた甲蟲人蟻達は約10秒間の竜巻に煽られ、その身を削られて崩れゆく。
それでも1度に巻き込める数は精々5体から6体。まだまだ敵の数は多い。
「ファイアストーム!サンダーテンペスト!」
燃え盛る竜巻と雷を伴う竜巻が甲蟲人:蟻達を飲み込む。
当たればそれだけで敵を行動不能に出来るほどの威力だ。ただ巻き込める数には限りがある。
「よっしゃ。ませきに籠もった熱が取れた。またいくでぇ!エクスプロージョン!!」
超高密度の魔力が飛んでいき再び大地を揺るがす。
その威力は凄まじく1度に100体以上の甲蟲人蟻を屠る。
弾け飛んだ甲蟲人:蟻の手足が周りに散乱し、近くにいた甲蟲人:蟻に突き刺さる。
「ワイの王化が解けるのが先か、敵の数を削り終わるのが先か。勝負所やで!」
その後も朱鮫は爆裂魔術を放ち続ける。
魔法と違い、自身の魔力ではなく魔素を魔力に変換している為、魔力切れの心配はない。
1発放つ度に熱が籠もる魔石の沈静化が出来れば何度でも放てる。
朱鮫と藍鷲は前線の後方にいながらにして1番多くの敵を屠り続ける。
しかし、未だに甲蟲人:蟻の数は一万強。
敵将の姿はまだ見えない。




