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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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291話 甲蟲人:蟻5

 朱鮫の放つ魔術を見て帝国騎士団にも動きがあった。

 帝国騎士団団長ニーブルが言う。

「なんだあの魔術師は?他の魔術師とは一線を画する魔術を使っているじゃないか。」

 それを聞いた副団長のラクサルスが答える。

「あぁ。あれはアレじゃないすか。聖王の擁する傭兵団、確か神徒を名乗る集団に凄腕の魔術師がいるって話でしたし。」

「聖王の傭兵団か。あの辺りの交戦も随分と他より押し込んでいるように見える。」

 それを聞いて目線の上に手を当て戦場を眺めるラクサルス。

「どこすか?あぁ。あそこ。あれもアレじゃないすか。聖王の傭兵団。甲蟲人との交戦には出張ってくるって言ってたらしいじゃないっすか。」

「ほう。魔術師だけでなく戦士にも優秀なのがいると見える。」

「どうします?あんだけ押し込んでるならオレ達が行けばもっと押し込めますよ?」

「まだ敵将の姿が見えない。しかし敵兵を削らんと前面には出てこない可能性が高いな。ここから見る限り3箇所、敵を押している場所がある。あの辺りを狙って我らも戦力を投入するか。」

「こちらの戦力を分けるんで?」

「いや。我ら騎士団は纏まって行動してこそ、その実力を発揮する。ラクサルス。お前が騎士の半分を率いて前線に出てくれ。」

「団長はまだ静観っすか?」

「あぁ。敵将が出た時の戦力を温存しておきたい。先兵相手なら半分もいれば間に合うだろう?」

「25人か。レボセチリジンも連れてって良いっすか?」

「む?レボセチリジンか。アイツのランスであれば突貫に向いているな。よし、連れて行け。」

「はいさ。んじゃ行って来るっす!」


 ラクサルスは帝国騎士団の半分の人員を集め、前線に向かって行った。

 中にはランスを片手に持った女騎士がいた。話題に出ていたレボセチリジンだ。


 ランスとは騎兵が良く持つ槍の1種であり、細長い円錐の形にヴァンプレイトと呼ばれる大きな笠状の鍔がついたものが一般的だ。

 ランスと他の槍との最大の違いは、基本的に刃がついておらず、棒の先が円錐型をし、敵対者を突き刺して攻撃するのが最も効果的な武器である。

 長さは他の槍よりも長く、何よりその形状の為、突撃時に相手の武器を弾き飛ばしながら突き刺す事が出来るのが特徴である。


 レボセチリジンの持つランスは長さが3m程もあり、他の槍兵とは一線を画す存在である。

 その真価が問われるのが突撃時の突貫力の高さにあった。

 訓練時にもその突貫により男の騎士3、4人を平気で吹っ飛ばすほどの威力を持っていた。

 それが今は訓練用の短いランスではなく、本人が愛用している長いランスを持っている。さらに突貫力の向上が見込まれた。


 ラクサルス達が向かったのは戦場の中でも最も敵を押し込んでいた蒼龍達のいる区画であった。

 ラクサルスが近付いて見やれば三叉の槍を振り回す戦士と細剣を振るう戦士に、接近戦にも関わらず弓矢で応戦している戦士がいた。

「む?増援か?」

 蒼龍が問うとラクサルスが答える。

「オレ達は帝国騎士団!ここが1番敵戦力を押し込めている。オレ達も参画するからもっと敵を押し込んで、さっさと敵将の姿を拝みましょーや!」

「うむ。増援は助かる。我は蒼龍。神徒の一員だ。」

 三叉の槍で迫り来る甲蟲人:蟻を屠りながら蒼龍が自己紹介する。

「やっぱりそうか。オレはラクサルス。帝国騎士団副団長をやってる。」

 ラクサルスも左手に騎士盾、右手に騎士剣を持って甲蟲人:蟻と対峙する。


 騎士剣の特長として両手で扱えるようにグリップが長い事に加え、普通の剣よりも刀身が長く全長にして2m程度の長大な剣になっている。

 真っ直ぐで両刃の剣は鋒が非常に鋭利で斬撃も刺突もこなせる万能武器である。


 しかしそんな騎士剣の一撃も甲蟲人:蟻の強固な外殻を突破する事は出来なかった。

「なんだ?!やたら硬いな。」

「節々を狙え。関節部などは外殻部に比較してまだ刃が通りやすい。」

 蒼龍のアドバイスを受けてラクサルスは甲蟲人:蟻の長剣を持つ肩口を狙ってその騎士剣を振り下ろした。

 吹き飛ぶ甲蟲人:蟻の片腕。

「いけるな。みんな!体の関節部を狙え!節々なら攻撃が通るぞ!」

 ラクサルスが他の騎士達にも指示を飛ばす。


 1人騎士剣ではなくランスを握るレボセチリジンは殺到する甲蟲人:蟻達に対して、鋭く踏み込み、ランスによる突きを繰り出した。

 弾かれる甲蟲人蟻達の持つ長剣。さらに踏み込み甲蟲人:蟻の腹部の節を直撃し、その体を上下に分けるレボセチリジンのランス。

 硬い外殻を持つ甲蟲人:蟻を相手にしてもその突貫力は有効であった。

 騎士団の参戦により、蒼龍達の戦う区画はさらに甲蟲人:蟻達の密集する壁を食い破っていく。


 蒼龍は三叉の槍を振り回し、甲蟲人:蟻の首を刎ねる。

 紺馬は一気に3本の矢を射て甲蟲人:蟻の眼球や喉を狙う。

 翠鷹は甲蟲人:蟻の長剣を手にした腕を狙い確実に節を突いてその腕を潰す。

 ラクサルスを始めとする騎士達が甲蟲人:蟻の振り下ろす長剣を騎士盾で受け、お返しとばかりに騎士剣でその腕を刎ね飛ばす。

 レボセチリジンはランスによる突貫で次々に甲蟲人蟻を吹き飛ばす。

 武器を失いながらも、残った腕で爪擊を放ってくる甲蟲人:蟻達を確実に1体ずつ打ち倒していく帝国軍兵士達。

 その区画は他に比べて甲蟲人:蟻の勢いを確実に削いでいく。


 騎士団の介入により、さらに勢いを増した蒼龍達。それに他の場所で戦う金獅子や白狐達の猛攻により、甲蟲人:蟻はその数を減らしていく。

 しかし、未だに甲蟲人:蟻の数は二万弱。

 敵将の姿はまだ見えない。


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