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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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289話 甲蟲人:蟻3

 一方その頃、ゼーテの街にいる蒼龍は全く甲蟲人の襲来に気が付いていなかった。

 借家が郊外になる事もあり、軍部が世話しなく動いている事など伝わって来なかったのだ。

 これは蒼龍を攻めるべきではない。帝国軍が蒼龍との共闘を望まなかったが為に起こった事である。


 軍部がある程度の陣形を組み、街の外に陣を張っている最中、一部の兵士達は少しでも戦力を集めようと傭兵ギルドに顔を出したりもしていた。

 そんな中、1人の特例兵士が街の郊外に住む武人の噂を思い出した。

 フルフェイスの兜を片腕に抱え、腰には細剣を下げた金髪ロングの女性兵士、フェリオサである。

 フェリオサは郊外の蒼龍が住まう家へと赴いた。


 扉をノックするとすぐに蒼龍が顔を出す。

「誰だ?何か用か?」

「あ、貴方は。聖王様の傭兵団にいた方でしたわね?」

 蒼龍の顔を覚えていたフェリオサが言う。

「む?あぁ。君か。確か特例兵士の?」

「はい。フェリオサと言います。なるほど。噂の武人は貴方でしたの。納得ですわ。」

「噂の?」

「えぇ。1人でオークジェネラルを含む数体のオーク種を屠った武人が郊外に住んでいると噂がありまして。」

「あぁ。あの時の。それで我に何か用か?」

 それを聞いてフェリオサはふと我に返る。

「そうでした。世間話をしている場合ではありませんわ。甲蟲人の襲来ですわ。数は二万から三万と前回よりも多いようです。」

「なに?ここを攻めてきたか。場所は?」

「ここゼーテの東北東方面との事ですわ。我が帝国軍は街から10km当たりに陣を構えて交戦する予定です。力をお貸し頂けますかしら?」

「あぁ。もちろんだ。他の王達にも連絡する。皆が集まるまで持ち堪えてくれ。」

 そう言うと蒼龍は家の中に戻って行った。

「魔族領に行った方ともなれば相当な戦力になりますわね。」

 フェリオサは呟くと本隊に合流する為、東門へと向かった。


 家の中に入った蒼龍はすぐさま通信用水晶で緑鳥に連絡を取った。繋がり次第すぐに喋り出す。

「緑鳥か?帝国領のゼーテ付近に甲蟲人の軍勢が現れたそうだ。数は二万から三万。ゼーテの街の東北東方面10km付近に帝国軍は陣を構えているらしい。我も先にそちらに向かおうと思う。」

『ゼーテの東北東方面10kmですね。分かりました。他のエリアに甲蟲人がいないことが確認でき次第すぐに皆さんに向かって頂きます。』

「うむ。頼んだ。」

 通信を終えた蒼龍は三叉の槍を片手に東門へと急いだ。


 蒼龍が現場に到着した頃にはすでに帝国軍と甲蟲人:蟻の軍勢との交戦が始まっていた。

 帝国軍兵士達も果敢に攻め込んではいたが、外殻の硬い甲蟲人:蟻にダメージを与える事が出来ずにいた。

 蒼龍は王化せずに戦線に参加した。

「関節だ!体の節を狙え!まだ他の部位よりは攻撃が通る!」

 蒼龍は三叉の槍を甲蟲人:蟻の肩口に突き刺して叫ぶ。

 それを見聞きしていた兵士達が口々に叫ぶ。

「関節部だ!関節部を狙え!」

「体の節を狙え!他より硬度が低いぞ!」

「関節だ!体の節を狙うんだ!」

 その叫びは戦場を駆け巡り、それまでダメージを与えられずにいた帝国軍兵士達に光をもたらした。


 蒼龍は甲蟲人:蟻の肩口、肘関節、首筋と節々を狙って三叉の槍で突きまくる。

 長剣を持つ腕を失った甲蟲人:蟻はそれでも空いた手を振りあげて襲い来る。

 バックラーを構えた帝国軍兵士がその爪での攻撃を防ぎ、さらに手にした長剣で甲蟲人蟻の手首や肘関節に斬りつける。

 蒼龍は武器を手放した甲蟲人:蟻の相手は帝国軍兵士達に任せて次々と新たな甲蟲人:蟻へと向かっていく。


 帝国騎士団は未だ戦線には加わっていない。

 敵将の姿が見えるまでは兵士達に任せる算段だ。

 各人がAランク相当の実力を持つ騎士達が50名もいれば例え相手がSランクだろうと勝てると見込んでいる。

 逆に一般兵士である甲蟲人:蟻を相手に騎士団を動かせば敵将が現れた際に対処できる人員が減ってしまう。


 帝国騎士団団長のニーブルは次々と負傷していく兵士達を冷静に見つめていた。

 このニーブル、年の頃は40代、右目の上に裂傷の傷跡が残る茶色の短髪で、その迫力は新米兵士などは目前にしただけで震え上がるほどである。

 何よりもその目が冷たい。冷静に状況を判断しようとするあまり、全てを俯瞰して見るようになっており、目の前にいても視線が合わない。

 騎士盾を左手に持ち、左腰には騎士剣を佩いている。

 まだ構えてもいないと言うのにその圧力は他者を近付けないほどである。


 そんなニーブルに何の気もなく近付く男が1人。兜の隙間から金色の長髪をなびかせたその男は帝国騎士団副団長のラクサルス。年の頃は30代だが団長であるニーブルにも敬語を使わない軽い奴だ。

「団長ぉ。このまま静観でいいんすかぁ?兵士達がどんどんやられてるんすけどぉ?」

「うむ。俺達の相手は敵将だ。敵将が現れるまでは待機だ。」

「そんな事言ってると兵士達が全滅しちゃうんじゃないすかねぇ?」

「帝国軍兵士達を甘く見るな。奴らとて本国の為に命を捧げる気概で挑んでいる。」

「でも明らかに劣勢っすよ。普通に攻撃しても相手にダメージを与えられてなさそうすもん。」

「いや。あちらを見ろ。敵の関節部を狙い始めた奴らが確実にダメージを与え始めた。甲蟲人は外殻は硬いが関節部は脆いと見える。」

「あ。ホントだ。押し返してるグループもいるすね。」

「うむ。段々と関節部を狙う者が増え始めている。これなら問題ないだろう。」

「そうすね。んじゃオレ達はまだ待機すね。」

「うむ。敵将が現れ次第、俺達も戦線に加わる。心しておけ。」

「はいっす。」

 そんな会話をしながら戦場を眺めるニーブルとラクサルス。

 まだ敵将の姿は見えない。


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