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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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286話 クロムウェル帝国15

 一方、クロムウェル帝国の首都ゼーテにいる蒼龍は帝国兵士とは全く交流がなかった。

 甲蟲人が出ても勝手にやると言われてしまった為、帝国兵士達と共闘する流れも全く失ってしまい、訓練を共にする機会もない。

 兵士達の練度がきにはなったが、皇帝と会った際にはAランクの騎士団まで擁していると言っていた。

 恐らく帝国が狙われる事があっても甲蟲人:蟻の相手なら問題なくこなせるのだろう。

 問題は敵将だ。甲蟲人:甲虫のようなSランク相当の相手ともなれば自分達神徒の出番が必要だろう。

 帝国軍兵士達や騎士団の面々が無為に突っ込み命を散らす事がないようにしないといけない。

 だが、今のところこちらの意見を通せるだけの余地はなさそうである。

 願わくば相手の力量を見抜いて無為に戦いを挑まないでくれるように祈るばかりである。


 そんな訳で帝国軍とは連携の取れていない蒼龍は今日も1人で王化継続時間を延ばすための特訓に明け暮れていた。

 自身の王玉である蒼色のネックレスについた王玉での王化、龍王形態になった上で右手親指につけた紅猿の紅色の王玉での武王形態に移行する。

 右腕だけ紅い鎧となり、燃えるような紅色の槍を右手に持ち、左手には自身の三叉の槍を持つ。

 すっかり2槍使いには慣れた。

 槍の半ばを持ち、左右の槍を腕の延長のように扱う姿は、まるで腕の長い手長族のように見えるだろう。

 借りた借家の庭で槍の訓練を行っている為、すぐ隣のラクダ牧場の主人やラクダの世話をしている面々がよく覗いていた。

「いやースゴいもんだな。2本の槍を同時に使うなんて。」

「あれが武人の動きなんだろな。帝国兵士の動きとはどこか違うわな。」

「まるで腕が伸びてるように見えるなぁ。面白いもんだで。」

 庭先を覗きながらそんな事を言っているラクダ牧場の面々だが、訓練に集中している蒼龍の耳にまでは届かない。


 その時、ラクダ牧場の方から

「ブォアァァァァァ!」

「ブェオォォォォォ!」

 とラクダの鳴く声が聞こえた。

 発情期以外にあまり鳴くことがないラクダ達が一声に鳴いている。

 見やれば外郭付近にいたラクダ達が一声にこちらに走ってきている。

「何事だ?!」

「あ!あれはオークでねぇか?」

「オークがラクダの柵を壊して乗り込んで来やがった!」

 ラクダ牧場のメンメンガ騒ぎ出す。

「なに?オークだと?」

 蒼龍も訓練をやめてそちらを見やる。

 確かに数台のオークがラクダを追い回しているのが見える。

「大変だ!巡回の兵士を呼んでこないと!」

「そんな事してたら間に合わねぇぞ!」

「じゃあどうする?オークなんてオラ達だけじゃ倒せねぇぞ!」

 なおも騒ぎ立てるラクダ牧場の面々。

 蒼龍は庭の境目を作る低い木々を軽く飛び越えてラクダ牧場の主人に言う。

「我がオークの対処しよう。お前達はラクダが暴れて逃げないように対応してくれ。」

 そう言うとラクダが入った柵も軽々と飛び越えて迫り来るオーク達に向けて走り出した。


 見る限りオークの数は6体。

 だが、普通のオークが3体、ハイオークが2体、それにオークジェネラルの姿が1体見える。

 オークジェネラルと言えばCランクの魔物である。とてもではないがラクダ牧場の面々が相手を出来るような魔物ではない。

 蒼龍は走る勢いそのままに先頭を来るオーク2体の首を刎ねた。

 入っていたオーク達は首を失った事に気付かないかのように数歩進んで崩れ落ちる。

 それを見たオークとハイオーク、オークジェネラルが立ち止まる。

 が、相手の力量を測る事も出来ないオークとハイオークが蒼龍の元へ殺到する。

「「「ブモー!」」」

 手にした斧を振りかぶり蒼龍に迫る。

 蒼龍は右手に持った紅色の槍で斧を受け、三叉の槍でオーク達の腹部を突いていく。

 目にも留まらぬ速さで突かれた為、まだハイオーク達は自身の身に起きた事に気付いていない。

 再び斧を振りあげようとして足元が滑り、3体ともにその場に倒れ込む。

 腹を突かれた事で腸が飛び出し足元に血の池を作っていたのだ。

「ブヒッ!」

「ブモーッ!」

 ようやく自分のダメージに気付いたハイオーク達であったが、蒼龍は冷静にその首筋に向けて左右の槍を突き出す。

「「「ブヒッ!」」」

 断末魔を上げて動かなくなるハイオーク達。

 残るはオークジェネラルのみである。

 オークジェネラルはその両手にファルシオンを握っている。

 幅広の刀身を持つ80cm程度の短刀である。

 オークジェネラルは自身の目の前でファルシオンを打ち鳴らし火花を散らす。

 目の前にいるのが格上だと認識しているのか距離を取り、なかなか攻め込んで来ない。


 蒼龍は左手の三叉の槍で突きを放つ。

 オークジェネラルはこれに反応してファルシオンで槍を上に弾くと、蒼龍に向けて足を踏み出した。

 だが、蒼龍は2槍使いである。

 右手に握った紅色の槍で追い打ちをかける。

 これも2本のファルシオンで受け止めたオークジェネラル。

 だが足が止まった。

 そこに上に跳ね上げられた三叉の槍を振り下ろす。

 咄嗟に片方のファルシオンを上げて受け止めようとしたオークジェネラルだったが、勢いを殺しきれず、肩に三叉の槍が食い込む。

「ブモーッ!」

 肩口に食い込んだ三叉の槍をファルシオンを振りあげて抜くと再び蒼龍へと足を踏み出し肉迫する。

 蒼龍は紅色の槍でファルシオンを突き上げる。

 両手のファルシオンを弾かれてボディががら空きになったオークジェネラル。

 そこに三叉の槍と紅色の槍が吸い込まれるように突き刺さる。

 三叉の槍は腹部に、紅色の槍は首筋に突き刺さり、紅色の槍から紅蓮の炎が迸りオークジェネラルの顔面を燃え上がらせる。

「ブモォォォォオッ!」

 臓物を溢しながら顔面を焼かれたオークジェネラルはその場に崩れ動かなくなった。

「ふむ。なかなかやる奴であったな。」

 蒼龍は一言残してその場を後にする。


 ラクダ牧場の主人達はラクダを宥めて柵から出さないように悪戦苦闘していた。

 そんな中にまだ王化状態の蒼龍が近づく。

「主人よ。ここは郊外とは言え帝国首都の領土内。ここにオークが現れると言うことは街の外壁が壊されている可能性もある。巡回の兵士達にオークの死骸を見せるといい。あとは兵士達が対処するであろう。」

「は、はい。危ないところを助けて頂いて。ありがとうございました。」

「なに。隣人の危機ともなれば駆けつけるものだ。」

 そう言い残し借家に戻る蒼龍であった。


 その日のうちに巡回の兵士達が街の外壁に空いた穴を発見した。

 どうにかオーク1体が通れる程度の穴ではあったが、帝国首都内に魔物が入り込むなど前代未聞であった。

 穴は数日とかからず補修され塞がれたが、首都内に魔物が入り込んだ件については上に報告された。

 魔物達の凶暴性が増している。

 帝国上層部は街の巡回の兵士達を増やし、外壁の点検も業務に加える事にしたのであった。


 この1件から郊外に住む武人の話が帝国兵士内でも広がる事になったのである。


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