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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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283話 マジックヘブン4

 マジックヘブンの街の外壁は東西南北に門を構えており、今回ワイバーンが襲来したのは北門の方角だった。

 確かにマジックヘブンの北側に位置する山には竜や亜竜が住まう土地があり、ワイバーンの襲来自体は珍しいものではない。

 ただ今回は数が多かった。

 通常なら1、2体、精々が3体程度だったのに対して20体を超える群れでの襲来である。これは朱鮫がマジックヘブンに住まうようになってから初めての事であった。

 歴史を紐解けば同じ様な群れでの襲来もあったのかもしれないが、いずれにせよごく稀に起こる緊急事態であった。


 街の外壁の上に待ち構える兵士に、街の外に出て敵の襲来を待つ兵士、総勢60名ほどが、いずれも朱鮫が開発した魔石魔術に必要な魔石付きの短杖を構えている。

 その光景を見て、緊急事態だと言うのに朱鮫はご満悦であった。

「ワイの作った魔石魔術がこうも浸透するとはなぁ。感慨深いでぇ。」

 とそんな事を言っている間にも空の向こうから数十体の空飛ぶ魔物の姿が近づいてくる。


 よく見れば先頭を飛ぶワイバーンが他のワイバーンの倍近い体躯をしている。

「ありゃグレーターワイバーンも混じっとるやんけ。あかんな。グレーターワイバーン言うたら炎耐性がある言うやつやん。皆に配った魔石に込めた魔術は火炎系統しかないから圧倒的に不利やんな。」

 そんな事をぼやいている間にもワイバーンの群れは魔術の有効範囲にまで到達した。


「「「ファイアボール!」」」

「「「ファイアアロー!」」」

「「「ファイアショット!」」」

 魔石に刻まれた魔術式を通して火炎系統がワイバーン達を襲う。

 短杖の先端に付いた魔石から次々と火炎球や炎の矢が放たれる。

 だが相手は空中にあっては他に敵なしとも言われるワイバーンである。

 次々と放たれる火球を旋回して避ける。

 より速度のある炎の矢は時々体に当たる事もあるが翼の皮膜を突き破るほどの威力も無く、体を燃え上がらせるほどの火力もない。

 魔石魔術の弱点は誰でも同じ威力の魔術を放てる事である。

 それは強みでもあるのだが、熟練の魔術師でも威力を上乗せする事が出来ないと言うのが欠点なのである。

 魔術は普通、術者の力量によって威力も異なるのだが、同じ魔石で魔素を魔力に変換している為、魔術の発動に必要な分の魔力しか精製しておらず、発動する魔術の威力が一定なのだ。


「あかんな。ワイバーンには火炎系統よりは風圧系統のが有効やろ。皆!魔石魔術に頼らんと自身で風圧系統魔術を発動しいや!!」

 朱鮫はそう叫ぶと自身の持つ杖を構える。

 朱鮫の杖には各種属性の魔術を発動出来るだけの魔石が付けられている。

 それに発動出来る魔術の種類も多彩だ。

「ウィンドアロー!」

 朱鮫の杖から風の矢が放たれる。

 炎の矢よりも速度の出る風の矢がワイバーンの翼の皮膜に当たり突き破る。

 1体のワイバーンが浮力を失い墜落していく。


「やっぱ数が多いな。なら、王化。法王。」

 朱鮫が声を上げると、左手人差しのリングにはまる朱色の王玉から朱色の煙を吐き出しその身に纏う。

 その煙は体に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると鮫を想わせる朱色のフルフェイスの兜に、同じく朱色の王鎧を身に着けた法王の姿となる。

 法王形態となった朱鮫は1度に3種類の魔術を同時発動させる事が出来るほどの魔力操作が可能である。

 そこで、

「ウィンドアロー!アイスアロー!サンダーアロー!」

 朱鮫の持つ杖の先から3種類の魔術が迸る。

 3種のアロー系魔術は3体のワイバーンの翼の皮膜を突き破り墜落させる。

 その頃になると周りの魔術師達も自身で詠唱を始めた。

「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。風圧の力へとその姿を変えよ。魔素よ荒ぶれ吹き荒べ、吹き荒れろよ魔素よ。我が目前の敵を風の矢となりて突き破り給え!ウィンドアロー!」

 複数の魔術師がウィンドアローを発動させる。

 放たれた風の矢はワイバーンの皮膜を突き破り、次々と墜落させていく。

 だが、グレーターワイバーンだけは胴体の大きさに似合わぬ速度で飛び回り魔法の矢を避けてしまう。


 やがて魔術師達の頭上に到達したグレーターワイバーン、ワイバーン達が一斉に降下を始め、その鋭い爪で魔術師達を狙い始めた。

 中にはグレーターワイバーンに掴まれたまま天高く飛んでいき、空中から身を落とされる者までいる。

「あかんで!甲蟲人対応にも人員が必要なんに、こんなところで数を減らしとる場合ちゃうわ!」

 朱鮫は降下してくるワイバーンの爪を避けながら若干の焦りを見せた。

「こうなったらワイのとっておきを見したるわ!」

 そう言うと杖を構えて精神統一する。


 魔素を魔力に変換する魔石3つを使って初めて発動出来る大技、爆裂魔術を発動しようと言うのだ。

「喰らえ!エクスプロージョン!!」

 中空に放たれた高圧の魔力の塊が空飛ぶワイバーンの近くに届いた時にそれは起こった。

 ボッカーン!

 大地も揺るがすほどの大爆発である。

 地上にいる魔術師数名がそのあまりの風圧に転がるほどの大爆発がワイバーン達を巻き込んで中空で発生した。


 その威力は地上で放てば地形を変えるほどの威力で、巻き込まれたワイバーン達も翼、首、足をバラバラに吹き飛ばれされて墜落していく。

 グレーターワイバーンも爆風に煽られ地表に激突した。

 片足を吹き飛ばしたようだが、まだ両皮膜は無事である。

 再び空へと飛び立たれる前に翼を潰しておきたい。

「今や!グレーターワイバーンを狙ってウィンドアローを掃射しーや!」

「「「「ウィンドアロー!」」」」

 朱鮫の言葉に反応して風圧系統魔術を使える兵士達の魔術が飛ぶ。

「ワイもや!ウィンドアロー!アイスアロー!サンダーアロー!」

 朱鮫の放った3種類の魔法の矢がグレーターワイバーンの皮膜を突き破った。

「翼はもう使いもんにならん。これならあとは歩兵でも相手出来るやろ。」

 その言葉を受けて剣やら槍を持つ歩兵達が前に出た。

 魔術大国マジックヘブンと言えども魔術師だけでなく普通の兵士もいるのだ。


 そしてようやくグレーターワイバーンを含むワイバーン22体を屠ったのであった。

「ふー。火炎系統以外の魔術を刻んだ魔石も作ったほうがええやろか。」

 王化状態のまま伸びをした朱鮫は解体作業が始まった現場に背を向け、街へと戻って行くのであった。


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