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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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281話 ララ法国15

 ララ法国取得ララ・ダウトに戻ってきている翠鷹は軍師としての仕事を送る毎日だった。

 軍部のトップとしては元帥なる役職の兵士がいるのだが、毎日の魔物対応などについても軍師たる翠鷹へも報告があがってくる。

「東側より複数のゴブリンが攻め込んできまして、1個小隊で迎撃しております。

 」

「南門付近でジャイアントベアが目撃され、こちらも1個小隊を派遣しております。まだこちらは撃破の連絡はありません。」

「西門近くでレットボアの大軍を発見。こちらには1個中隊を派遣して殲滅作戦中になります。」

 次々と報告が上がってくる。

 邪神の復活の影響か、このところ魔物・魔獣の動きが活発になっていた。

 以前は街の外壁近くに魔物が現れるなど半年に1度あるかないかくらいだったのに、このところは毎日のように魔物が発見される。


「やっぱり邪神の復活の影響なんでしょうねぇ。」

 ぼやく翠鷹に元帥が言う。

「なんにせよ、街の防備を固めるほかあるまいて。お前も軍師として采配を振るえや。」

「そんな事言うたかて、相手はゴブリンやらジャイアントボアやら低ランクの魔物ですやろ?ウチの出番はないわ。適当に1個小隊送り出して対処させなさいな。」

「お前。それでも軍師か?やる気が感じられへん。」

 元帥はガッチリとした体格に鈍く光る鎧を身に着けていつでも戦場に出られるように準備している。

 白髪が目立ち始めた壮年の男だが、漲る闘志はまだまだ若い者に負けていない。

「あんさんがやる気出したところで元帥様直々に戦場に出る事なんてあらしまへんよ。それこそ甲蟲人が襲ってきた時に備えて今は休んでおきなはれや。」

「むぅ。まぁそれもそうやな。私が出るような事があれば相手はAランク相当の魔物くらいやな。」

「せやろ?今は休んどき。」

 そんな会話をしていたせいか、次の報告には2人して腰を浮かせた。

「東門付近にトロールの群れが出没しました。今は1個中隊を出して街への侵入を防いでいる状態です!」

 トロールと言えば4、5mの巨大に大木のような棍棒を振り回すAランクの魔物である。

 普通の1個中隊では被害が多く出過ぎる。

「しゃーないわな。ウチが出ます。元帥はんは他の門の警備を任せましたわ。」

 翠鷹は走って東門へと向かった。


 トロールは普通群れない。

 1体でも脅威となるAランクが4体、群れを成して襲い掛かってくる様は一般兵にとっては絶望でしかなかった。

 勝っているのは1個中隊60名と言う数のみである。

 前線に出た兵士達は振り回される棍棒にやられて宙を舞っている。

「ウチが相手になる!皆下がって、街に被害がないように壁を作って!」

 翠鷹は腰に下げた細剣を引き抜き、トロールの前に躍り出た。

「王化!賢王!」

 翠鷹が王化し、右手薬指のリングにはまる王玉から翠色の煙を吐き出しその身に纏う。

 その煙は体の中に吸い込まれるように消えていき、煙が晴れると鷹を象った翠色のフルフェイスの兜に翠色に輝く王鎧を身に着けた賢王の姿となる。


 賢王の権能は獣王の雷や牙王の氷のような属性を持つ訳でもなく、鬼王のように力や速度が増すわけでもない。

 緑鳥のように皆を癒やせる聖術でもなければ仁王のように様々な攻撃を防ぐ防壁を作るでもない。

 その権能は攻撃における速度向上と正確性の向上と言う一見他の権能より劣っているようなものだ。

 しかし、細剣を扱う翠鷹にとっては是非もない権能となる。

 突きの速度は向上し、狙った位置を違えず貫く。まさに翠鷹の為の権能である。

 翠鷹は直近のトロールに向けて跳躍すると、その両目、眉間、人中、喉と目にも留まらぬ速さで貫く。


「グオォォォォオ!」

 正確に致命傷となる位置を貫いた細剣だったが、トロールの生命力の強さはそれを勝った。

 両目を貫かれ盲目になりながらも手にした長大な棍棒を振るう。

「くっ!邪神の影響かしらね。生命力まで上がってる気がするわ。」

 独り言ちながら棍棒を躱す翠鷹。

 視力を奪った分、相手の攻撃に狙いなど無くただ棍棒を振り回すだけの為、躱すことも容易い。

 ただ眼球を貫いて脳にダメージを与えられなかった事から、トロールを打ち倒す為には心臓部を狙う他ない。


 そうこうしているうちに他のトロール達が前線に躍り出る。

 そちらの相手は兵士達がしているが、やはり狙い澄ました棍棒の振り抜きにより、数名が常時宙を舞っている状態である。

 早々に先の1体を倒して次へと向かいたい。

 そこで翠鷹は自身の最高の技を出す。

「貫け!タキオン・スラスト!!」

 いまだに棍棒を振り回すトロールの心臓部に向けて自身の出せる最高速度、光速を超える速度での突きが吸い込まれる。


 ゴボッ!

 光を超える速度で振り抜かれた突きはトロールの厚い肉を穿ち、その背中までもを突き破った。

 心臓部に大きな穴を空ける事になったトロールは振り回していた棍棒の勢いそのままにその場に崩れ落ちた。

「流石にウチの最高速度の突きにはその厚い脂肪も形無しやね。」

 そんな捨て台詞を吐いて次のトロールへと向かう翠鷹。


 兵士達の捨て身の防御の甲斐あって、翠鷹が全てのトロールを倒しきるまで街の外壁は守られた。

 しかし、甲蟲人の侵攻を目前に兵士達の負傷者数もかなりの量になってしまった。

「Aランクの魔物まで街のそばに来るとはなぁ。甲蟲人だけでなく、常時の防備も強化せんとあきまへんなぁ。次の甲蟲人がここに攻め入らん事を祈るばかりやわぁ。」

 王化状態を解いた翠鷹が独り言ちながら街へと戻って行く。

 軍師としての高い情報処理能力だけでなく、自身も高い戦闘能力を持つ翠鷹の背中を兵士達は目で追うばかりであった。


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