276話 恋バナ3
ゴブリンの群れは想像以上に多かった。
碧鰐ら傭兵団は数名に対してその数なんと50体近く。
村に一斉に雪崩れ込んできたゴブリン達を相手に村人達も女子供を家に押し込め、男達は農具を手にし、立ち向かった。
「この数の群れとなると必ずキングがいるぞ!」
「だな!巣に向かってキングを潰さねーといつまでも村が狙われるな。」
傭兵団の面々がゴブリンを倒しながら話している。
「キングってゴブリンキングか?」
「あぁ。これだけの数を従えてるんだ。相当な個体が上にいるはずなんだ。」
村民に聞かれて碧鰐も答える。
戦闘開始から暫く、流石にCランク数人のゴブリン相手には苦戦しないレベルの傭兵団でも圧倒的な数には押され気味で、村の中心に追いやられて来た。
「やべぇな。数が多い。」
「村民も必死に抵抗しているんだ。俺達傭兵団が諦める訳にはいかねーだろ。」
「だな。相手はゴブリンだ。数がいようと時間さえあれば殲滅出来るだろう。」
そんな会話をしていたところでゴブリンが引き始めた。
「な?!ゴブリンが引いて行くぞ?」
「何だ?目的達成だとでも言うのか?」
とそこに村民が駆け込んでくる。
「た、大変だ!村の娘が攫われた。」
「何だって?家に避難していたのではなかったのか?」
「家にまで押し入ってきたゴブリンがいたのだ!」
「ちっ。村の中心に追いやられている間に家々を狙われたか。」
「どうする?あの数だ。攻め込むのはもう少し傭兵の数を増やした方が安全だろうな。」
傭兵団の面々が話し合いを始めたところで碧鰐の元に隣の家の住人、音々の父親が駆け寄ってきた。
「碧鰐!音々が!音々が攫われた!!」
慌てた様子で碧鰐に縋りつく音々の父親。
「なんだと?!」
「音々って碧鰐の幼馴染みだろ?」
尚も音々の父親が碧鰐に言い寄る。
「碧鰐!頼む!音々を。音々を助けてくれ!」
音々の父親からの強い要望を受けた碧鰐は傭兵団のメンバーを見渡す。
「みんな。力を貸してくれるか?」
それには傭兵団の面々も笑顔で返す。
「碧鰐の頼みとあれば仕方ないな。」
「なに。オレ達ならゴブリンキング如き敵じゃねーわな。」
「どんだけ数がいようがゴブリンはゴブリンだ。問題ないだろ。」
と言うことで傭兵団数人でゴブリンの追跡をする事になった。
モードの村の北に位置する森の中、岩肌が覗く山の麓にゴブリン達の巣となる洞窟があった。
「ゴブリンが洞窟の入り口に立ってるな。」
見張りのゴブリン2体が洞窟の左右に陣取っていた。
「あの数なら俺の弓で一気に制圧出来る。俺が弓を引いたら突っ込んでくれ。」
傭兵団の中の弓矢使いが言う。
「あぁ。オラァが先陣を切る。」
碧鰐が手斧を握り直して言う。
「背中は任せろ!すぐ後ろについて行く。」
「俺達も突っ込むぞ!」
手に剣を持つメンバーも気合を入れる。
「んじゃ行くぞ。」
弓矢使いのメンバーが弓に矢を番える。
それに合わせて他の面々が走り出す。
「グキャ!」
「グギャ!!」
こちらに気付いたゴブリンが臨戦態勢を取るも弓矢使いの放った矢に眉間を貫かれて倒れた。
「このまま洞窟内に攻め込むぞ!」
「おうよ!」
洞窟に入るなりゴブリンが襲い掛かってくる。
だが所詮はゴブリン。
Cランクの傭兵である碧鰐達は迫り来るゴブリン達を斬っては捨て、斬っては捨て、奥へ奥へと進んで行く。
確かに数は多いが狭い洞窟内であれば1度に相手取る数は少なくても済む。
やがて最奥の広間に出ると、そこには確かにゴブリンキングとゴブリンジェネラル、ゴブリンナイトにゴブリンソルジャーなどの通常のゴブリンよりも強力な個体が待ち構えていた。
最奥の壁の横にさらに奥へと進む道がある事がわかる。
捕らえれた女達はその奥に閉じ込められているのだろう。
となればやる事は1つ。
「相手はゴブリンだ!オラァ達なら問題ねーべ!」
「おうよ!」
「やってやらぁ!!」
槍を持つゴブリンソルジャーが、剣を持つゴブリンナイトが、斧を持つゴブリンジェネラルが、次々と傭兵団の面々を襲い来る。
その攻撃を受け、躱し、受け流しながら次々とゴブリン達を屠って行く傭兵団。
だがそこに大剣を持ったゴブリンキングまでが躍りかかって来た。
「ぐわっ!」
傭兵団の面々が背中を斬られて蹲る。
そこに群がるゴブリン達。
「ちっ!大丈夫か!」
碧鰐は蹲る傭兵メンバーを救い出す為に、群がるゴブリンを手斧で斬り倒して行く。
背中を斬られた傭兵メンバーもどうにかまだ息がある。だが、もう戦えそうにない。
敵の数は着実に減っている。
しかし、傷つく傭兵メンバーも増えてきた。
「ここはオラァが受け持つ。お前達は奥に囚われた女達を解放してくれ!」
碧鰐が最奥を背後にしてゴブリンキングと睨み合う。
まだゴブリンジェネラルが1体、それにゴブリンソルジャーも数体残っている。
ゴブリンキングが大剣を掲げて碧鰐へと迫る。
碧鰐は大剣の攻撃を手斧で受けきる。
だが同時に掛かってくるゴブリンジェネラル、ゴブリンソルジャーの攻撃までは捌けない。
段々傷つき始める碧鰐。しかし、ゴブリンキングの攻撃は全て受けるか躱すか出来ていた。
そして数合のやり取りがあった後にゴブリンキングが振り下ろした大剣を受け流し、碧鰐がゴブリンキングの首を切り落とした。
キングを失ったゴブリン達は少しずつ撤退を始めた。
中には背中を見せて逃走する者まで出始める。
1度崩れた陣営は弱い。やがて最後まで残ったゴブリンジェネラルも去っていった。
「碧鰐!」
「大丈夫か?」
傭兵団の面々が捕らえられた女達を伴って碧鰐野本へと戻ってくる。
女の中には音々の姿もある。
「碧鰐。助けに来てくれたのね。」
「音々、無事だったか。」
「こんなに傷ついて。」
泣きながら碧鰐にしがみつく音々。
「あ痛たたた。傷が痛えよ。しがみつくなって。」
どうにか音々を引き剥がす碧鰐。
「まだゴブリンが残ってるかもしれない。気を付けながら村に戻ろう。」
「まぁ。キングを失ったんだ。敗走したゴブリン達の中からまたキング種が誕生するまでは、あそこまでの数には膨れ上がらないだろうさ。」
「だな。」
「あぁ。俺達の勝利だな。」
こうして碧鰐達、傭兵団は連れ去られた女達を伴って村へと戻った。
そしてこの帰省をきっかけに村の1番の美女、玲美、当時20歳と出会い、一瞬にして恋に落ちた碧鰐は傭兵団を抜け、モードの村へと戻り、玲美へとアタックを続け結婚したのだった。
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「音々ちゃんは!?」
銀狼が碧鰐に問う。
「音々なら同い年の太郎平とくっついたよ。連れ去られる前に体を張って自分を守ってくれた勇士に惚れたらしい。」
碧鰐はなんでもない事のように言う。
「要するに傭兵としてゴブリンの群れの退治の案件で帰省した際に、妻になる女に一目惚れしたって話か。」
金獅子が言う。
「まぁ、そうだな。」
碧鰐が赤面しながら言う。
「なんだぁ。儂はてっきり音々ちゃんを嫁に貰ったのかと思ったぞぉ。」
茶牛も言う。
「そうか。説明が悪かったな。出会いについて話すのは初めてなもんでな。だからどこから話そうかって言ったんだ。」
碧鰐はスキンヘッドの頭を搔きながら言う。
そんな話をしながらも俺達は王化の特訓を続けるのであった。




