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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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272話 クロムウェル帝国11

 蒼龍は一足先にクロムウェル帝国首都ゼーテに戻ってきていた。

 手元には緑鳥から各国政府に向けた甲蟲人侵攻についての顛末を伝える手紙がある。

 問題はどうやって帝国の首脳陣にこの手紙を渡すか、さらに帝国の軍部と連携を取れるかである。


 ひとまずは帝国の城に向かう蒼龍。

 前に黒猫達とゼーテに来たときには借家を借りる事しかせず、ゲートで移動してきてからも借家に籠もっていた為、帝国城には初めて来訪する。

 帝国城は今まで蒼龍が見てきたどの城よりも大きかった。

 それこそ帝国の力を誇示するかのようだった。

 門の隣には兵士の詰め所があり、門番が左右に2人ずつ立っていた。


「すまんが、聖王からの手紙を預かってきている。首脳陣との面談を希望するのだが、どうしたらいい?」

 蒼龍は門番の1人、1番年かさに見える男に声をかけた。

「なに?聖王からの手紙だと?手紙ならこちらで受け取るぞ。」

 手を差し出してくる門番の兵士。

「いや。大切な手紙なのだ。それに首脳陣に話したい事もある。皇帝に会わせて欲しい。」

「聖都からの使者と言う事か。わかった。皇帝陛下に伝えておこう。お目通りには早くても2、3日はかかるだろう。日程が決まり次第連絡を入れよう。貴様はどこに逗留している?」

 蒼龍は素直に借家の位置を伝えた。

「なに?家を借りているのか?ふむ。まぁいいだろう。日程が決まったら使いの者を出す。それまで待たれよ。」

 そう言ってその場から帰された。

 本当なら一刻も早く伝えたい気持ちはあるが仕方ない。

 蒼龍は借家に戻り、王化の特訓をして3日間を過ごした。


 3日後、使いの者が現れた。

「明後日、15時より皇帝陛下が謁見されるとのことである。30分前には帝国城に来訪されるように。」

 それだけ伝えると使いの者は帰って行った。

 明後日。急ぎの用だと伝えてもその程度は時間を要する辺り、帝国の傲慢さも見え隠れする。

 しかし、待つしか無い為、それから2日間も王化の特訓をして過ごす。


 そして2日後の14時半に帝国城に赴いた蒼龍は再び門番に声を掛ける。

「本日15時より皇帝陛下に謁見の予定を貰っているのだが?」

「む。お前が聖王の使者か。暫し待たれよ。案内の者を準備する。」

 門番は兵士の詰め所に入り、1人の青年を伴って戻ってきた。

「この者が案内をする。ついて行ってくれ。」

「では、こちらです。」

 青年兵士に先導される形で蒼龍は帝国城に入った。

 案内されたのは待合室だった。謁見を待つ者達がここで待機する為の部屋だ。

 蒼龍以外に3名の待機者がいた。

 殺風景ながらも唯一の家具である長椅子には金がかけられていた。

 ここでも帝国の武威を見せつける工夫がされている。

 定刻より5分前に待合室に兵士が入ってきた。

「聖王の使者よ。こちらへどうぞ。」

 言われるがままに付いていく蒼龍。

 そして謁見の間に案内された。

「聖都より聖王の使者がお見えです!」

 案内の兵士が声を上げて謁見の間に入る。

 蒼龍は軽く頭を下げて広間へと入っていった。


「その方が聖王の使者か。なんでも手紙があるとか?先にその手紙を頂こうか。」

 奥に座る皇帝に代わりその隣の老人が声をかけてくる。

 蒼龍は懐から手紙を取りだすと近くに待機する兵士へと渡した。

 兵士は老人の元へと手紙を運び、また蒼龍の隣へと戻る。

「なになに。ほう。遂に邪神の先兵が攻め込んできたか。最初に狙われたのは聖都であったか。数は一万。Aランクに近いBランク相当と、Sランクの将で構成されていたと。聖都は兵僧と神徒の働きで被害は出なかったとあります。」

 老人は皇帝に聞かせるように手紙を読み上げていく。

「次の侵攻は1ヶ月後。改めて各国の防衛機構の整備をとあります。」

 ある程度手紙が読み上げられたところで蒼龍が口を開く。

「手紙にあった通り、敵はBランク相当ながらAランクに近い力を持つ甲蟲人:蟻の兵士達。それに今回の敵将は甲蟲人:甲虫であった。我々神徒と聖都の兵僧とで力を合わせて撃退する事には成功したが、ここ帝国が次に狙われる可能性もある為、連携を取れるように防備の体勢等をお聞きしたい。」

 それを受けて老人が鼻を鳴らす。

「ふん。聖都の使者であろうと我が国の軍部の情報を提供するつもりはない。そんな事を公にして他国に攻め入る隙を与えると思うたか。」

「いや。今は他国などと言っている場合ではない。世界の危機なのだ。人族が手を取り合って対処すべき事案だ。」

「神徒と言ったか。神の加護を得た者達だと?それならば我が国にも女神の使者たる勇者様がおる。お前達の手を借りずとも敵兵を打ち負かせて見せよう。」

「敵将はSランク相当だぞ?帝国兵士達だけで相手にすると言うのか?」

 そこで皇帝デュアロ・クロムウェルが初めて口を開いた。

「これは公にしている事だが、我が国には兵士団以外に帝国騎士団を設けておる。その構成員は全員がAランク相当。敵兵が一万だろうと我が国の兵士団は3倍以上だ。それに加えて騎士団も控えているのだ。これ以上の防備はあるまい。神徒だかなんだか知らんが我が国には必要ない。」

 キッパリと皇帝自ら神徒との共闘を拒んできた。

「首都ゼーテ以外に攻め込まれた際はどうなる?各都市にも防衛の為の兵士は待機しているのか?」

「それこそ貴様らに、心配される事ではない。我が国の事は我が国で対処する。余計な口出しは不要だ。」

 完全なる拒否を受けて、これには蒼龍も引き下がる他なかった。

「分かった。では帝国が攻め込まれる事があっても我々神徒は好きにやらせて貰う。その許可だけ頂きたい。」

「ふむ。好きにすると良い。」

「では謁見はこれにて終了とする。」

 皇帝の隣に控えた老人が言い、蒼龍は案内の兵士に連れられて謁見の間を後にした。


 そのまま帝国城の外まで案内された蒼龍は借家に戻り、今の話を緑鳥達に伝える為、通信用水晶を取りだす。

「帝国は全く我々と強力しようとはしておらんかった。」

『そうですか。帝国の考えそうな事ですね。分かりました。我々は我々で対処致しましょう。』

 通信を終えると深いため息を吐く蒼龍であった。


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