270話 聖都セレスティア24
王化の特訓と言っても基本は王化継続時間のギリギリまで王化を続ける事が王化継続時間を延ばす為の特訓になる。
だからと言って王化したまま無為に過ごすのは無駄なのでだいたいは皆ペアになって戦闘訓練を行っている。
祈りの間は30m四方のかなり広々とした空間なので皆思い思いに特訓に励んでいた。
俺も白狐とペアになって影縫いの特訓をしていた。
特訓と言っても最初は影縫い自体が発動しない状態だった為、色々と工夫しながらナイフを投擲した。
それこそ縫い止めるイメージを最大限に引き出す為に裁縫を初めてから様々な縫い方をイメージしながら投擲したりもした。
それまでは全く動きを止めることも適わなかったのだが、俺が537枚の雑巾を作製した後の王化の時に試した際に、ふっと裁縫する時の玉止めが甘かったなと思いながらナイフを白狐の影に向かって投擲すると、一瞬ながら白狐の動きが止まった。
時間にして1秒程度ではあったが、確かに動きを止めたのだ。
「今、動きが固まったように止まりました!」
白狐が興奮したように告げてくる。
俺はまぐれではない事を確認するためにもう一度白狐の影に向かって、1番強固な千鳥がけと玉止めを意識してナイフを投擲した。
すると次は2秒間動きを止めることに成功した。
「止まりました!固まりましたよ私!成功じゃないですか!」
白狐の興奮が冷めやらない。
俺も釣られて興奮する。
「成功だな?!俺が影縫いに成功したんだな?!」
「はい!確かに動きを止められました!」
「やったぁ!成功だ!!」
それから2人で手を取り合って小躍りした。
それを見ていた他の面々も集まってくる。
「どうしたんだ?小躍りして喜んでからに?」
金獅子が代表して聞いてくる。
「クロさんが影縫いの妖術を完成させたんです!」
白狐が興奮したままに俺より先に告げる。
「何?本当か?どれ。俺様にもかけてみてくれ。」
そう言うので俺は金獅子の影に向けてナイフを投擲した。
今度も2秒間、金獅子の動きを止めた影縫い。
「おぉ!確かに体が動かせんかったわ!凄いな!」
「オレにも頼む。」
「ワタシにもかけてみてくれ。」
「ウチも体験したいですわ。」
「ワイも頼むわ。」
「オラァにも。」
「儂も。」
「わたしにもいいですか?」
皆に請われて1人ずつ影縫いを発動させて影にナイフを投擲していく。
「やったな!黒猫!完全再現じゃないか。」
銀狼も喜んでくれた。
「凄いな!動けなくなったぞ!」
紺馬も驚いている。
「凄いですねぇ。これなら敵の動きも封じられますわなぁ。」
翠鷹も言う。
「なんやまたけったいな術やなぁ。魔法にしても妖術にしても予想の外を行く術がばっかりやんか。」
朱鮫も驚いていた。
「ほぅ。これが妖術か。」
碧鰐がなぜかうんうん頷いている。
「面白いなぁ。動きを止める術かぁ。」
茶牛は面白がっていた。
「凄いですね。これが妖術かぁ。」
藍鷲も感心していた。
1度術が成功したら後は縫い方を色々と考えながら最後に玉止めするイメージを持ってナイフを投擲するだけで動きを止められた。
その後も白狐相手に色々と試したが、本返し縫いをイメージすると1番長く3秒間動きを止められた。
相手の動こうとする力によって止めておける時間も変わるとヨルは言っていたので、実戦になったらもっと短くなるかもしれないが、ひとまずは影縫いの妖術が使えるようになった。
これでまた戦闘に活かせるタイミングもあるだろう。
その頃には呪王形態での王化継続時間が1時間15分に達していた。
普通の王化なら2時間半は継続出来る計算だ。
白狐も2時間半強、金獅子と銀狼も2時間半弱の王化継続時間を達成していた。
紫鬼と蒼龍にも多重王化での特訓方法について通信用水晶で伝えてある。
紫鬼は絶鬼形態、蒼龍は武王形態での特訓をしているだろう。
2人もそろそろ2時間半くらいは王化出来るようになっている頃だろうか。
そんな2人だがそれぞれケイル王国の軍部、クロムウェル帝国の軍部と強力関係を強固にすべく、先にケイル王国とクロムウェル帝国に向かったのだが、その後の状況について連絡がなかった。
問題なく強力関係を築いて合同訓練でもしていると言うのならいいのだが、何かトラブルに巻き込まれていたりするのだろうか?
向こうの状況が見えないのでこちらから通信用水晶で連絡を取ることは控えている。
何かあれば向こうから連絡があるだろう。
さて、俺は俺の出来ることをしよう。
影縫いに成功した今となっては次に実現させたいのは影移動だ。
ヨルからは下手すると影の中から一生出られなくなると嚇されてはいたが、やはり過去のヨルの戦闘を思い起こすと影移動もかなり強力な術に武器なるだろう。
直接攻撃の術ではないが、逃走にも攻撃の補助にも使える便利な術だ。
確か『感覚的に出現先の影の位置を把握しているからできる術だ。』と言っていたはずである。
俺だけではなんのことやらわからないが、今はゲートという魔法を使える藍鷲がいる。
話を聞けば俺にもその感覚的に出現位置を把握する事が出来るかもしれない。
と言う事で俺は藍鷲にゲートについて聞き込みをするのだった。




