266話 聖都セレスティア22
藍鷲にゲートで向かえに来て貰って聖都に戻ってきた俺。
蒼龍と紫鬼を除く他の面々もすでに戻ってきているようだ。
銀狼と茶牛の姿はまだない。義手の修復に時間がかかっているのだろう。
立場上、金獅子や翠鷹は早く手紙を渡せても納得できるのだが、紺馬が早かったのが気になって聞いてみた。
「紺馬、随分早く手紙を渡してこれたんだな?そんなに領主にすぐ会えたのか?」
「ん?いや領主には会っていないぞ?聖王からの手紙だと言って領主邸の門番に渡してきた。」
なんでもない事のように紺馬が言う。
「え?そうなの?領主に直接渡すんじゃ無くて?」
「緑鳥の手紙だ。詳細まで書いているだろう?領主に渡れば事は済むと思ったのでな。何か不味かったか?」
「いや。この機会に領主と繋がっておいた方が万が一、サーズダルが狙われた時なんかに連携が取りやすくなるだろうなって。」
「ん?そうか。それは考えもしなかったな。次の機会があれば領主に会うようにしよう。」
紺馬は平然と言い、特訓の為に祈りの間に向かって行った。
「まぁエルフは変わり者が多いからな。あんなもんだろうさ。」
その様子を見ていた碧鰐が言ってくる。
スキンヘッドに黒い眼帯を巻いた姿が痛々しい。
「おう。碧鰐。目の調子はどうだ?」
「何度か緑鳥に聖術を掛けて貰ったが、やはり部位復元になるようでな。眼球は戻らんかった。片目になって遠近感を掴みにくくなったからな。その辺りの戦闘訓練も今後していく予定だ。」
「手紙出しに家に帰ったんだろ?家族の反応はどうだった?」
「娘には泣かれたが、妻には5体満足で帰ってきて良かったと抱きつかれたよ。」
スキンヘッドをカリカリと搔きながら答える碧鰐。
「そうか。碧鰐の障壁の権能は戦場で緑鳥達を護るのに必須だからな。今後はあまり無理はしないでくれよ。」
「そうだな。気にとめておこう。じゃあオラァ先に祈りの間に行くわ。」
そう言って碧鰐も祈りの間に向かって行った。
「クロさん、お帰りなさい。」
白狐が近づいてきた。
「おぅ。ただいま。」
「ワンズの領主はどうでした?」
俺は思い出しながら答える。
「如何にも、成金って感じで貴族丸出しの奴だったよ。」
「そうですか。やはりあの街は治安が悪い癖に税金は高いで、有名ですもんね。」
「そうなのか?税金なんて払ったことないから知らなかったよ。」
「有名なんですよ。」
「へぇ。だから金は持ってるのか。」
「あ。今盗みに入ることを考えてたでしょ?流石に領主邸ともなると警備が万全でしょうから忍び込むのは止めて下さいよ。」
「そうだな。ちと厳しいか。」
「ですです。やめておいた方がいいですよ。」
そんな会話をしている中で思い出した。
「そうだ。白狐。妖術を編み出すのに何か工夫と言うか留意する事はあるか?」
「妖術を編み出すですか?どうしてまたそんな事を?」
「あぁ、1人でワンズにいた時にヨルが使ってた影縫いを模倣しようとしてんだが、全く再現出来なくてな。」
「あぁ、なるほど。ヨルさんから引き継いだのは影収納だけでしたっけ。」
「そうなんだよ。戦闘に使える妖術も覚えられないかと思ってな。影縫いとかヨルが俺の体で使ってた妖術なら再現できないかなと思ってさ。」
白狐は顎に手を当てて答える。
「そうですねぇ。妖術も基本的にはイメージ力の問題ですかね。影縫いで言えば相手を縫い付けるイメージがまだ甘いのかもしれません。そうだ。どうです。1度裁縫でもしてみたら?縫い付けるイメージが明確になるかも、ですよ。」
「裁縫ねぇ。分かった。王化の特訓の合間にでもやってみるか。」
「あ、そうだ。これは私の思いつきなんですけど、クロさんは呪王形態にもなれますよね?王化の特訓の際には呪王形態になった方が時間が有効活用出来るんじゃないですかね?王化持続時間が半分になるじゃないですか?」
「なるほどな。王化持続時間いっぱいむで王化を続けるなら呪王形態になった方が早く王化が解けるのか。」
「ですです。王化の感覚はそのままかもですけど、王化している時間は半分になるから1日の王化可能時間の使い方としてはその方がいいのではないかと。」
「そうだな。そうしてみるよ。ありがとな。」
「いえいえ。夫を支えるのも妻の仕事ですから。」
「じゃあ、俺達も祈りの間に行くか。」
「ですね。」
と言うことで俺達も祈りの間に向かったのであった。
結果的に白狐が提案してくれたように呪王形態になった方が1日の時間の使い方としては有効活用出来た。
2時間王化して、クールタイムで2時間過ごして、また2時間王化する。ではなくて1時間王化して、クールタイムで2時間過ごして、また1時間王化する方が1日に王化出来る数が倍近く変わったのだ。
王化が解けている2時間の間は緑鳥に言って裁縫セットを借りて、黙々とタオルを雑巾にするように縫い物を続けた。
実際やってみると確かに、縫い付けることについてのイメージが固まってきた。
2枚の布を1本の針で刺し止める感じが影縫いでやりたいことそのものだった。
次々と雑巾を縫っていき、イメージを固めていく作業に没頭した。
その日の成果としては23枚の雑巾が出来上がった感じだ。




