265話 旧王国首都ワンズ6
皆でカレーを食べた日から数日、緑鳥の手紙が書き終わった為、皆1度各地にゲートで移動して各国へ聖王からの手紙を届ける事になった。
銀狼と茶牛は一足先にドワーフ王国に向かった。銀狼の義手を直すのと、ドワーフ王国に聖王からの手紙を渡す為だ。
義手の修復にどの程度かかるかわからない為、帰って来る時には通信用水晶で藍鷲に連絡を貰う事になっている。
各国に手紙を運ぶ流れで蒼龍と紫鬼はそのまま守護エリアに残る事になっている。
その他のメンバーは俺含めて聖都に戻ってきて王化持続時間の継続の特訓をする予定だ。
まだ次々とゲートを開き、皆を各地に送る藍鷲。
ホントに今回の作戦の要は藍鷲だな。彼がいなければ各地に神徒を配置すると言う翠鷹の案も到底実施できなかっただろう。
今後の戦いでも藍鷲と緑鳥を護る事は第1優先になるだろう。
そう考えると碧鰐の障壁を出せる権能もかなり有効である。
魔族領に乗り込んだ際には必ず緑鳥を護る役目の人員が必要だった。
それが碧鰐の障壁のおかげで緑鳥と藍鷲の護りは完璧だ。
物理攻撃しか弾かないから障壁の中からでも魔法も打てるのが良い。
そう考えると碧鰐もいなくなっては困る人材である。今回片目を失う大怪我を負ってしまったが無事でなによりだ。
俺の番になったので、ゲートを通ってワンズの街へと降り立った俺は、そのまま領主邸を訪れた。
聖王からの手紙を持ってきたと伝えると門番が屋敷内に駆けて行き、聖王の使者の来訪を伝えて戻ってきた。
すぐに領主に会えるらしい。
俺は応接室に案内されて暫し待つ。
ワンズの領主邸の応接室には明らかに金が掛かった調度品が沢山置かれており、成金感が否めない。
あまり好きな空間では無く少し落ち着かない。
そんな中現れたのが派手な衣装を身に纏った小肥りの男だった。
「む、以前の使者とは別か。私はセルゲイ・ミラー。旧王国領の首都ワンズの領主をしている。」
男は応接室に入ってくるなり自己紹介した。
「俺は聖王からの手紙を預かってきた傭兵の黒猫だ。よろしく。」
「む?平民が貴族である私にタメ口とはな。聖王の使者も格が落ちたものよな。」
いきなりの文句から始まった。これだから貴族は好きになれない。
ここは面倒だが敬語を使うか。
「失礼しました。傭兵の癖で敬語はあまり使わなくて。気を害したのなら謝ります。」
「うむ。まぁ良い。それで聖王からの手紙だとか?」
小肥りの男、セルゲイは応接室の上座に当たるソファに腰掛けながら手を出してきた。
俺はその手に緑鳥からの手紙を乗せてやる。
「えぇ。先日邪神の先兵たる甲蟲人の侵攻があり、聖都が狙われました。詳細は手紙にある通りですが、次はここワンズが狙われる可能性もおおいにあります。」
「うむ。敵兵だけでAランクに近いBランク相当か。知っているか知らんがここワンズには自衛団と呼ばれる兵士達が1千人いる。皆Cランク相当の腕前だ。それにワンズには傭兵も多く在籍している。万が一の際には傭兵も招集して事に当たるつもりだ。」
出っ張ったお腹をさすりながらセルゲイは言う。
「傭兵を招集ですか。そんなに上手く傭兵が言うことを聞きますかね?」
「その点は問題ない。傭兵ギルドと我がワンズの街は協定を結んでいる。ワンズに傭兵ギルドを建てる身代わりとして、有事の際には傭兵ギルドから人員を派遣すると明記してある。」
「これからもワンズの街で傭兵を続けるのなら必須で作戦に参加させるって事ですか。」
「うむ。そう言った契約になっておる。従って有事の際には必ず傭兵ギルドと連携を取って事に当たる事になる。」
「そうですか。敵の兵士たる甲蟲人:蟻も相当なら手練れでした。収集する傭兵はCらランク以上に制限したほうが死傷者の数も減らせるでしょう。」
「なに?その方は甲蟲人と戦ったとでも言うのか?」
「えぇ。最前線に出ていました。兵士の対応に追われて敵将とは対峙しなかったものの、仲間の言うには相当なら強さを持っており、ドラゴンすら凌駕するSランクの上位に値するだろうと。」
「Sランクか。もはや普通の人間には相手が出来ないレベルだな。あれはどうなっている?神の加護を得た王と言うのは。」
「はい。俺もその一員です。敵の侵攻前は各地に散り、敵兵が現れた所にすぐに集合できるよう手配してあります。」
「そんなに、すぐに各地に散らばった人員を集められるのか?」
「はい。ゲートと言う魔術を開発しまして、今日もそのゲートを通ってやって来ましたから。」
「ゲート?聞いたことのない魔術だな。」
セルゲイは無意識なのだろう、自身のお腹をタプタプさせながら話す。
緑鳥の手紙にも王については触れていてもゲートに着いては説明されていなかったようただ。
「えぇ。現状特定の個人にしか使えない瞬間移動の魔術です。」
「なるほどの。瞬間移動の魔術か。それがあれば好きな時に好きな場所に行ける訳か。」
「まぁ、そんな感じです。」
「うむ。神の加護を持つ者よ。ワンズが狙われた際にも全力で事に当たって欲しい。これは領主としての依頼になる。」
「もちろんそのつもりです。王が集まるまでの間は街の自警団と傭兵達に時間稼ぎをお願いする事になるでしょう。」
「うむ。もろもろ分かった。その時が来たらよろしく頼むぞ。神の使者よ。」
「えぇ。任せて下さい。」
てな会話が終わり俺は領主邸を後にした。
さて、藍鷲に連絡してゲートを開いて貰おうか。
俺はまずはゲートの目印となるツリーハウスの横を目指して街を出るのだった。




