260話 甲蟲人:甲虫6
戦闘が長引いてきた結果、ドランとヨルジュニアに限界が来たようだ。
もう火炎、黒炎を吐く力も残っていないようで、ドランは爪を、ヨルジュニアは尻尾の刃を使ってどうにか甲蟲人:蟻とやりあっていた。
そんな中にエントリーしてきたのが、紫鬼だった。
「おぅ。クロよ。頑張っとるか?ん?なんだそのヨルにそっくりな子猫は?闘っていたのか?」
話ながらも迫り来る甲蟲人:蟻をぶん殴り吹き飛ばしている。
「ドランも流石に限界か?よく頑張ったな。後はワシに任せておけ。クロよ。ドランを緑鳥達の所まで連れて行ってやれ。その黒猫の事は戦闘後にでも聞かせてくれや。」
そう言い残し、甲蟲人:蟻にラリアットを食らわして首を刎ねて行った紫鬼。
おかげで今目の前にいた甲蟲人:蟻の数は激減した。
ドラン達を下げるなら今だろう。
「ドラン、ヨルジュニア。お疲れ様。もう下がっていいぞ。緑鳥達の所に行こう。」
俺は2匹にそう言うと甲蟲人:蟻を警戒しながら2匹を緑鳥達の元へと連れて行く。
「緑鳥、そろそろ2匹が限界だ。ちょっと面倒見ておいてくれ。」
「はい。畏まりました。」
「んじゃ俺は前線に戻るから。藍鷲達も頑張ってくれ。あと一息だ。」
「はい!」
俺は再び前線に躍り出て甲蟲人:蟻の振り下ろす長剣を黒刃・右月で受け止めつつ、黒刃・左月でその首を掻き切る。
ようやく目の前の黒い影が少なくなってきた感じがする。
あと少しだ。
ようやく敵将との戦いにも目が向けられるようになった。
敵将は空を飛ぶらしい。
猛スピードで上空を飛び回り、凄まじい速度のまま金獅子に突っ込んで行った。
跳ね飛ばされる金獅子。
大丈夫か?
まだ増援を求める声は上がっていないように思う。
なんとか4人で対処できてるのだろう。
俺は目の前の甲蟲人:蟻に集中する事にする。
今も長剣を振りかざして突撃してくる個体がいる。
その首元に紺馬が放った矢が刺さる。
一瞬動きを止める甲蟲人:蟻。チャンスだ。
俺はすぐさまその個体に近づいて紺馬の矢が刺さった箇所に追撃を入れる。
転がる首、しかしすぐには動きは止まらない。
振り下ろされる長剣を受け流して胸部に蹴りを入れた。
吹き飛んでいった甲蟲人:蟻はその動きを止めた。
全く生命力が強い奴らは倒したと思ってもまだ動き続けるから厄介だよな。
俺は目の前の甲蟲人:蟻に向き直り、両手に握ったナイフを振り回すのだった。
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宙を飛ぶ甲蟲人:甲虫のスピードは目で追うのがやっとであった。
その為、気が付けば自身の目の前にきており、獣王は大剣を掲げてその角による突進を受けた。
しかし、到底受け止められる突進力ではなく、大剣は弾かれて胸部に痛打を受け、吹き飛ばされる。
もう何度目かになる、角による突進を受け続けた王鎧の胸部は凹み、罅が入り始めていた。
このままでは王鎧が持たない。
「碧鰐!何とかして奴の突進を止めてくれ!」
獣王が叫ぶ。
「オラァやるよ!」
「フフッ。無駄ナ事ヨ。我ガ突進ハ止メラレン。」
中空で飛び回る甲蟲人:甲虫は狙いを仁王に定めた。
「障壁!」
仁王は片手を上げて自身の目の前に障壁を展開した。
仁王の障壁、1枚は獣王の4回の大剣の全力フルスイングを耐えるほどの強度があった。
そもそもこの障壁ガラス製の扉の如き見た目であり、よく目を凝らさないと見つけられない。
展開場所を確実に把握しているのは展開した仁王だけである。
そんな障壁と甲蟲人:甲虫が激突する。
パリンッ。
まるでガラスを割るような硬質な音が周りに響く。
障壁を突破した甲蟲人:甲虫の角が仁王の顔面に当たり、仁王は吹き飛ばされる。
仁王の障壁が破れた瞬間である。
障壁で動きを止めるつもりが止められず、その勢いを、少し削いだだけでその突進力は止まらなかった。
吹き飛ばされた仁王が立ち上がった。
その兜の左目部分は大きく砕けて血が滲む。
「碧鰐!大丈夫か?」
獣王が声を上げる。
「碧鰐さん!」
破王も心配の声を掛ける。
「まだだぁ。オラォまだやれるぞ。」
ダメージが足に来ている仁王がフラフラと立ち上がる。
その間にも甲蟲人:甲虫は牙王に突っ込む。
片腕となった牙王は片手の長剣で突進を受けるも到底受け止められず、吹き飛ばされる。
アダマンタイト製の長剣が折れ曲がってしまった。
牙王ほもはや動かなくなった外方を向く右腕の義手が握る長剣を左手で握り治す。
何度吹き飛ばされようとも、まだ闘志は失っていない。
長剣を握り、立ち上がる牙王。
その間にも甲蟲人:甲虫は破王へと突進をかます。
どうにかその突進力を削ごうと白刃・白百合を振るうも動きは止められず、こちらも胸部に痛打を受けて吹き飛ばされる。
破王の胸部装甲にも罅が入り始めた。
フラフラと歩き出した仁王に向けて甲蟲人:甲虫がまた突進を繰り出す。
「障壁!」
先程突進を止められず砕けた障壁をまた展開した仁王。
その意図は他の3人にもわからない。
今度は止められる算段でもあるのか?
すでに展開した障壁は15枚。最後の1枚である。
パリンッ!
やはり障壁は砕け散った。
しかし、その後
パリンッ!
2度目の障壁が砕ける音が響いた。
仁王は最初に獣王を守るために展開していた障壁の後ろに回り込んでいたのだった。
2枚の障壁を前に甲蟲人甲虫の突進が止まる。
ここで再び宙へと逃げられたらもう突進を止める術がない。
仁王は死に物狂いで戦斧を振り下ろす。
バリッと音がして甲蟲人:甲虫の片方の翅が中程から切断された。
バランスを崩し、墜落する甲蟲人:甲虫。
これをチャンスと見た残る3人が殺到する。
牙王の振り下ろした長剣がもう片方の翅も付け根から切断する。
獣王の繰りだした大剣は甲蟲人:甲虫の首を中程まで切断する。
破王の斬撃が獣王とは逆側から甲蟲人:甲虫の首筋に入り、その首を刎ねた。
「我ガ突進ヲ止メルトハ…無念。」
跳ね飛ばされた甲蟲人:甲虫の首が呟く。
そのまま体は数歩歩き、無くした翅をはためかせようと震える。
しかし、途中で力尽きた甲蟲人:甲虫の体は前面に倒れていった。
4人の勝利が確定した瞬間だった。




