257話 甲蟲人:甲虫3
俺が着実に1体ずつ甲蟲人:蟻を倒していた隣でヨルジュニアが一鳴きしたと思ったら黒雲が立ちこめてきた。
しかも以前見た物よりも大きい。
「にゃー!」
ヨルジュニアご鳴くと黒雲から3本の黒雷が迸り、目前の甲蟲人:蟻を撃った。
流石にそれでとどめとはいかなかったものの、黒雷に撃たれて痺れたのか動きが止まった。
「ナイス!ヨルジュニア!」
俺は動きを止めた3体の甲蟲人:蟻の横に素早く移動し、その首を黒刃・右月と黒刃・左月で薙いでいく。
胸や腹などの外郭は硬くてすぐに刃は通らないものの、関節などの節々なら思いのほか簡単に刃が通る。
ヨルジュニアの黒雷に撃たれて動きを止めた3体は俺の手により首を落として永遠にその動きを止める事となった。
やはり連れてきて正解だったな。
今も隣で黒炎を吐いて1体の甲蟲人:蟻を燃やしている。
決定打は与えられていないものの、1度に相手取る数を減らしてくれるのは単純にありがたい。
だがまだまだ敵の数は多く数千はいそうな雰囲気だ。
最奥に待ち構えていた強そうな別個体には白狐と金獅子、銀狼と碧鰐が向かっていった。
となれば残りの蟻は俺達が何とかするしかない。
碧鰐の生み出した障壁に守られている朱鮫や藍鶖の魔術、魔法も効果的ではある。
1度に複数体対処できてるのはさすがである。
傷ついたら兵僧達も今は後方に下がり、緑鳥による回復を受けて、また前線に戻ってきている。
今のところ俺達を抜けて聖都に向かった敵個体はいない。
このまま押し戻せるか、踏ん張り処である。
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甲蟲人:甲虫と対峙している4人は決定打が打てずに苦戦していた。
何よりも外殻が硬くて攻撃が入ってもダメージを与えられていないのが痛い。
そんな中、仁王が再び戦斧を振り上げて甲蟲人:甲虫に斬りかかる。
大剣を掲げてこれを受ける甲蟲人:甲虫。
その間にも破王、獣王、牙王が斬撃を体に叩き込むのだが、節々を狙った攻撃も僅かに甲蟲人:甲虫が体勢を変える事で外殻に当たってしまい、攻撃が通らない。
あの狂戦士であった甲蟲人:蜚蠊同様にその外殻はアダマンタイト並の硬度を有していた。
戦斧を弾き返される仁王。
その体に向けて大剣が振るわれる。
ギリギリ戦斧を胸元に戻し、直撃は避けたものの王鎧の腹部には深い傷跡が刻まれた。
やはり直撃を受ければ王鎧を越えて肉体にダメージがくるほどの膂力である。
防御力も高いし、攻撃力も高いときた。
ホントにやり辛い相手である。
「これならどうだ!氷結狼々剣!!」
牙王が対象を凍らせる斬撃を放つ。
斬撃自体は腕の外殻に阻まれたが、大剣を持たない方の腕を僅かに凍らせる事に成功した。
「うぉぉぉぉお!雷撃・断頭斬!」
高く跳び上がり雷撃を纏った大剣を振り下ろす獣王。
片腕を凍らされた甲蟲人:甲虫は片腕で持った大剣でそれを受ける。
バリバリバリッ
大剣を伝って電撃がその体を焼いた。
プスプスと音を立て湯気が登る甲蟲人:甲虫。
しかし、その動きは止まらず、獣王の大剣を押し上げると胸部に向かって突きを繰り出す。
咄嗟に後方に下がり直撃は避けたものの、剣先は王鎧に突き刺さり、胸部に僅かな穴を空けた。
雷撃による熱で凍った片腕も復活した甲蟲人:甲虫は両手で握った大剣を近くにいた牙王に叩き付ける。
双剣でなんとか防いだ牙王であったが、その威力は凄まじく、数m飛ばされた。
そこにエントリーしたのは破王。
鞘に収めた白刃・白百合を抜き放ち、斬撃を繰り出す。
「抜刀術・飛光一閃!」
高速で振り抜かれた刀は大剣により防がれた。
そんな事は気にせずに抜き身の刀を再度振るう白狐。
「抜刀術・閃光二閃!」
抜き身の白刃・白百合を目にもとまらぬ速度で振り上げると大剣を弾き、片腕の前腕に斬撃を与える。
「抜刀術・発光三閃!」
まだまだ止まらぬ斬撃は剣を持たない片腕も弾き、その胸に二筋の剣閃を走らせる。
「抜刀術・残光四閃!」
さらに一気に4度振るわれた刀により胸部から火花が散る。
「抜刀術・無光五閃!」
引き戻された大剣を再度弾きながら胸部と腹部に激しく叩き付けられた4度の剣戟。
しかし、そんな猛攻にも外殻は耐え、大きなダメージは与えられない。
再び引き戻された大剣により刀を弾かれて距離を取る破王。
超高速の抜刀術ですらその外殻を突破することは適わなかった。
そんな破王を追って甲蟲人:甲虫の大剣が振るわれた。
一撃目を白刃・白百合で受けるも続く二擊目で刀を弾かれ、続く三擊目で肩口を斬られた。
大きく後方に跳躍し、連撃を避けた破王。しかしその王鎧の肩口には大きく傷跡が走った。
「うぉぉぉぉお!断頭斬!」
再び跳躍からの斬撃を放つ獣王。
大剣を掲げて両手で受ける甲蟲人:甲虫。
その背後から仁王が仕掛ける。
「食らえ!」
戦斧による斬撃を背中に受けバランスを崩した甲蟲人:甲虫。
これ幸いと上から押さえつける大剣に力を込める獣王。
甲蟲人:甲虫の膝が曲がる。
「今だ!双狼剣!」
大剣を持つ方とは逆の腕、大剣の切っ先を掴む腕の肘関節を狙って放たれた斬撃は見事に肘にヒットした。
腱を斬ったようで片腕の力が入らなくなった甲蟲人:甲虫は押さえつける獣王の大剣を受け続けられなくなり、その頭に付いた角で大剣を受けた。
ゴギンッ!
今まで以上に硬質な音が鳴り響く。
獣王の大剣を受けたにもかかわらずその頭の角は欠けもしない。
「フフフッ。ココマデヤルトハナ。我モ本気ヲ出ソウ。」
そう言って構えを変える甲蟲人:甲虫。
その構えは体勢を低くし、頭頂部の角を前面に出し、手にした大剣は抜刀術の如く腰に構えていた。
片腕の腱が切れた為、十全に使えるのは右腕のみ。
にも関わらずその構えは今まで以上にプレッシャーを与えてきた。
4人と甲蟲人:甲虫の戦いも佳境を迎えつつあった。




