253話 甲蟲人:襲来1
始めにそれに気付いたのは聖都に巡礼にやって来た聖者とその護衛の3人だった。
聖都より西に十数km先に黒い影を発見したのだ。
最初はなんだか分からなかったが少し高台へ登るとそれが真っ黒い鎧のような物を着た集団である事が判った。
さらにその集団は聖都へと向かっていた。
慌てた聖者と護衛は聖都の神殿に駆け込んだのだった。
「大変です。黒い鎧を着た一団がここ聖都に向かって来ています!」
聖者は神殿に入るなり声を上げた。
その声に反応したのは数人の幹部達だった。
1人は慌てて聖王の元へと走り、1人は聖都の自衛団体である兵僧達を集めに走った。
これにより、甲蟲人の最初の狙いは聖都セレスティアであると発覚したのである。
聖王緑鳥はその知らせを受けたのは昼下がり。その後すぐに藍鷲と白狐の元へと走った。
2人共に祈りの間にて王化持続時間を延ばす特訓をしていたのだ。
祈りの間に入った緑鳥は声を上げた。
「甲蟲人、襲来です!」
その知らせを受けた2人はすぐに王化を解く。
「ホントに365日ぴったりで来ましたか。藍鷲さん、まだ王化行けますよね?」
「はい。皆さんを集める時間くらいはなんとか。」
「ギリギリまで特訓しようと思ったのが悪い方の目に出ましたね。」
白狐は身なりを整えるとキリッとした表情で言う。
「私は前線に出ます。」
「あ、それなら今兵僧達を集めております。それらの者達と一緒に出陣なさって下さい。」
「分かりました。緑鳥さんと藍鷲さんは予定通り翠鷹さんに連絡をお願いします。」
言うなり白狐は祈りの間を出ていった。
緑鳥らは移動する間も惜しんでその場で翠鷹に通信用水晶で連絡をとる。
「翠鷹様、聖都に甲蟲人達が襲来しました。」
『まずの狙いは聖都やったわね。敵の規模は分かってますか?』
「いえ。軍勢としか。」
『なるほど。ウチもララ法国周辺に甲蟲人が出て来てない事を確認してから聖都に向かいます。緑鳥はんらは他の王達にも連絡をお願いします。まずは自分の保守エリアにも甲蟲人が出て来ていないかの確認を。二面、三面攻撃されるのが1番キツいですからね。なければ緑鳥はんに折り返して藍鷲はんに迎えに来て貰う手筈で生きましょう。』
「分かりました。他の神徒の皆様にも連絡します。」
『お願いします。ウチは周辺情報確認出来次第、また連絡しますわ。』
「はい。お願いします。」
通信が切れた。
緑鳥は次に金獅子に連絡を取った。
「金獅子様。聖都に甲蟲人が襲来しました。」
『なに?やはり今日であったか。ではすぐに藍鷲にゲートを。』
「いえ。翠鷹様から他のエリアにも甲蟲人が来ていない事を確認してから折り返しを頂いてゲートを開くように言われております。まずは獣王国周辺に異変がないかご確認をお願い致します。」
『そうか。2箇所同時攻撃もあり得るのか。盲点だったわ。分かった。獣王国周辺に敵影がない事を確認でき次第、また連絡を入れよう。』
「お願い致します。わたしは他の神徒の皆様にも連絡を。」
『おう。任せた。』
通信が切れた。
その後も緑鳥は各地に散った王達へ連絡し続け、保守エリアの無事を確認後、折り返し連絡を貰うように伝えていく。
聖都セレスティアには戦う僧侶と言われる所謂モンク兵が数百人在籍している。
普段は普通の聖者、聖女と変わらぬ働きをするが、一旦聖都の危機となれば棍棒やヌンチャク、トンファーなどの武器を持ち戦う兵士となる。
兵僧達は聖都を背に数kmの距離を取って陣を構える。
そんな兵僧達の先頭に立ち、巡礼者が見たという軍勢の方向を睨むのは白狐だ。
白狐と兵僧達が戦っている間に藍鶖が他の神徒達を聖都へと集めるのだ。
ここまでは作戦通りである。
問題は敵軍勢の数である。
巡礼者達ではその具体的な数までは分からず、ただ黒い集団としか聞いていない。
兵僧達の力量としてはB~Aランク相当とかなりの戦力ではあるのだが、数が数百程度の為、何万もの敵兵がいるとちと辛い。
「まずは相手の数ですね。」
白狐が独り言ちたように数が問題であった。
その黒影が見えたのは巡礼者が駆け込んできてから60分後の事だった。
まだ他の王達に連絡が行き渡り、藍鶖が最初のゲートを開こうかと言うタイミングである。
「なんだ?」
「アレはなんだ?」
「なんなんだ?アレは?」
回りの兵僧達がどよめく。
そんな中ジッと敵影を見ていた白狐が呟いた。
「アレは…蟻ですかね。」
白狐の言うとおり、敵影の姿がはっきり見える頃にはその異様な姿が見て取れた。
それは蟻を無理矢理人型にしたような不格好な化け物であり、その手には長剣が握られている。腹部の中間にも腕らしきものは見えるがそちらには何も持ってはいなかった。足が2本、腕が4本、合わせて6本。その脚は胸から出ており、その胸の下には丸々と肥えた腹部がある。
頭には触覚が生えており、あちらこちらを向いている。
その集団はパッと見でも数千はいるように見えた。
こちらの集団に気付くと敵兵の先頭集団が駆け出した。
合わせて兵僧達も駆け出す。
こうして第一次の甲蟲人の襲来が始まったのだった。




