246話 マジックヘブン2
翌朝、早々に金獅子が通信用水晶に語りかける。
「朱鮫、聞こえるか?俺様だ。金獅子だ。」
『おー金獅子殿やないの。もしかしてマジックヘブンに着いたんでっか?』
「あぁ。昨日の深夜に到着してな。宿屋で1泊したところだ。」
『なんや。そーやったん?言うてくれれば深夜まで起きとったのに。』
「まぁ今更1日ズレたくらいでどうにかあるものでもないしな。で、どうする?何処に集合する?」
『せやな。1時間後にタワーの入り口でどないです?』
「1時間後にタワーの入り口だな。分かった。」
『ほなまた。』
その言葉を最後に通信は切れた。
「と言うことだ。1時間後なら朝食を食べてる時間があるな。」
そう言うことで宿屋で簡単なパンに目玉焼き、ベーコン、スープと言った定番の朝食を食べてからタワーへと向かった。
タワーの入り口にはすでに人が立っていた。
2mはありそうな長い棒に大量の魔石が付いた杖を持った、丸眼鏡を掛けたモジャモジャヘアーの男だった。
「おー金獅子殿やないの。えっらい久しぶりやなぁ。」
「朱鮫も元気そうだな。水晶越しには聞いていたが魔石魔術が成功したのだったな。おめでとう。」
「ありがとさん。おかげてここマジックヘブンとマジックシティにいる魔術師は皆、初級魔術は詠唱なしで発動出来るようになったんや。中には中級魔術まで使える奴も出とる。」
「ほうほぅ。中級まで。」
その言葉に藍鷲が反応した。
「せや。甲蟲人いうのんがどの程度か、わからんがある程度魔術も使えるやつがほとんどや。それに加えての詠唱なしの魔石魔術やからな。それなりに戦える思うで。」
「それは凄いですね。」
藍鷲が関心している。
「ん?あんさんは魔術に詳しいん?あ、ワイは朱鮫や。よろしゅう頼むわ。」
「わたしは藍鷲です。よろしくお願いします。わたしは魔術と言うか魔法を少々。」
「なんやて?!魔法?ちゅー事はあんさんがゲート言うけったいな魔法を造った言うて人か。」
「はい。こう見えてわたし、魔族なんです。」
「ほぉー。人族と見た目はほとんど変わらんのに魔族かぁ。そんな魔族もおるんやねぇ。ワイは悪魔みたいな格好の奴が来るんかと思うとったわ。」
そう言うと盛大に笑う朱鮫。
「俺は黒猫だ。夜王の黒猫。暗黒神の加護持ちだ。」
俺は自己紹介する。
「黒猫殿な。ワイは朱鮫や。法神の加護を持つ法王や。」
「法王?」
「せやねん。ララ法国の王様と一緒やねん。混乱するけ変えて欲しかったんやけど、法則を司る法神の加護を得た者こそが法王だって言われてしもーてな。」
「変えてくれって法神に言ったのか?」
「せや、二つ名をくれたんは法神やからな。でもダメやった。」
神から与えられた名前を変えて貰おうとか変わった奴だな。
「私は破壊神の加護を持つ破王。白狐です。よろしくお願いしますね。」
「白狐殿やな。よろしゅう頼んます。」
「一通り挨拶は済んだな。ところで朱鮫よ。その魔石だらけでゴテゴテした杖はなんだ?」
「よう聞いてくれましたな。これこそがワイの魔石魔術の真骨頂や。ワイのように繊細な魔力操作が出来る者にしか使われへんが、これだけで初級から上級までの各種属性の魔術を詠唱なしで発動出来んねや。」
「その付いている魔石が各種属性と初級から上級までの魔術を網羅していると言うのか?」
「せや。まずは3種の魔素から魔力化する魔石、次に6系統のどの系統を使うかの魔石、その次がボール、ショット、ウォール、アロー、バレット、スピアのどの魔術を使うかの魔石。最後の天辺にワイのとっておきの爆裂魔術の魔石と全部で16個の魔石が付いとるんよ。」
朱鮫は自身の杖を見せつけるように振り回す。
「魔素を魔力化する魔石が3つ?魔術は1度に1つしか発動出来んのだろう?」
「よう勉強してますなぁ。学院で習ったんか?せやねん。普通は1度に1つの魔術しか使われへん。普通はな。その点ワイは法則の神さんの加護を得とる。その普通の法則をねじ曲げられんねや。」
「それで同時に3種の魔術を行使出来ると?」
顎髭を撫でながら金獅子が問う。
「その通りや。ワイならファイアウォールを展開しつつ、ファイアボールとファイアショットを同時に発動出来んねん。すごない?」
「凄いな。それは王化しなくとも可能なのか?」
「いやー、残念ながら同期発動は王化せんと出来んわ。せやけど、王化せんとも魔力操作の繊細さは失われてとらん。せやからこの16個の魔石を自由に扱えるんよ。」
「横から聞いてるだけだと難しくてよく分からんが、その魔石魔術ってのは魔法みたいに詠唱なしで魔術を発動出来るんだったよな?」
俺は口を挟んだ。
「せや。魔石に術式を刻んどるから詠唱で術式を構築する必要がないねん。」
「なるほど。その魔石魔術を使える人員はマジックヘブン、マジックシティにどのくらいいるんだ?」
「魔石の増産が間に合えばやけど、3000人ってところやな。もちろん通常の魔術も使えるやろから魔石に頼らんでも戦える者はもっといるわな。」
「そうか。それだけ甲蟲人に対処できる人員がいるのはありがたいな。」
「まぁこんなところで立ち話もなんですし、さっさと藍鷲さんに旗立てて貰って1度聖都に行きましょう。皆さんにも朱鮫さんの紹介が必要ですし。」
白狐が言う。
「せやな。旗立てる場所には目星付けとんねん。こっちや。」
俺達は朱鮫に案内されてタワーの裏手に回った。
「どや?ここなら広さもあるし、いざって時には馬で乗り付けても問題ないやろ?」
「街の外に出るのも容易そうですしね。ここにしましょう。」
藍鶖は赤色の布を取りだすと短槍を器用に刺して旗にした。そしてその旗を全体重掛けて地面に突き刺す。
「これでよし、と。わたしは街の外からゲートがきちんと開くか確認して来ますね。」
藍鷲が駆けていった。
「ほんまこうして見ると人族と変わらんのね。」
「そうだろ?ちと顔色が悪いくらいなもんだ。」
「あんな普通の青年とも今までいがみ合っとったんやな。」
「まぁ無能の街の住人、藍鷲達はそこまで人族に対する嫌悪感も最初からなかったがな。」
「そうなん?人族と魔族は古い時代から交戦関係やって教えられてきたんやけど。」
「あぁ。俺様達も魔族領に行って知った事だ。俺様達はこの世界の事をほとんど知らずに生きてきたのだ。」
「なるほどなぁ。深いなぁ。」
そんな話をしていたらゲートが開き、王化状態の藍鷲が顔を出す。
「ゲートは問題ないですね。馬留に預けた馬を引き取って聖都に戻りましょう。クローズ。王化、解除。」
ゲートを抜けてきた藍鷲が王化を解除した。
「ほんまに瞬間移動なんやなぁ。」
驚きを隠せない様子で朱鮫が言う。
「えぇ。瞬間移動です。」
「凄いなぁ。えらいこっちゃで。こんな魔術が開発されたら。」
「あはは。今のところわたししか使えないオリジナルですけどね。」
「どんだけ時間掛かってもええからそのうち解析させてーな。」
「あはは。いいですよ。わたしも感覚でしか伝えられませんけど。」
魔術師と魔法使いと言う事で2人は意気投合したようだ。
街の入り口にある馬留に預けた馬を返して貰い、預け賃を渡す。
「ここじゃあれですからもうちょっと進んだところでゲート出しますね。」
藍鷲はいい、街から50m程度の距離が空いてから聖都へのゲートを開いた。
「初のゲート体験やね。」
朱鮫は浮かれているらしい。
そして全員ゲートをくぐり抜け、聖都の中庭に到着したのだった。




