243話 獣王国1
翌朝聖都セレスティアを出発した俺達4人は南下して獣王国を目指した。
聖都から獣王国までの道程は山を切り開いた一本道になっており、迷う心配はない。そもそも獣王である金獅子もいるので迷う事はあり得ないのだが。
獣王国は所謂南国というやつであり、生息する魔物、魔獣もこの地域特有の物が多くいる。
今俺達を追い掛けながら木の実を投げつけてきているワイルドモンキーなんかも、その1種だ。
「おい!金獅子!あの猿どうにかならないのか?」
「アイツはダメだ。ほぼ木の上から木の実を投げてくるだけで近寄ってこん。しかも劣勢になれば仲間を呼ぶ。戦っていたらきりが無い。」
「っとは言ってもこのままだとそのうち馬に木の実があたりますよ?!」
「上手いこと避けてくれ。そのうち諦めて去って行くはずだ。」
そうは言っても追い掛けてきているワイルドモンキーの数は10体近く、投げられてくる木の実も相当な数になる。
「あっ!」
藍鷲の乗る馬が足元に木の実を受けて転倒した。
乗っていた藍鷲も投げ出される。
「藍鷲!」
「仕方ない。戦うか。」
「やってやりますよ!しつこい猿は嫌いです!」
俺達3人も馬を下り、転んでしまった藍鷲を囲むように立つ。
「すいません。わたしのせいで。」
「いえ。どのみちそう長くは逃げられなかったでしょうし、戦うほかないですよ。」
「いいか。劣勢になったら遠吠えで仲間を呼ぶような奴らだ。一気に攻めて遠吠えの暇すら与えないようにするのだ!」
「おうよ!」
俺は手頃な木の上に登り、ワイルドモンキーに近付いていく。
木の上なら安全とでも思っていたようなワイルドモンキー達は慌てて木から降りていく。
そこを白狐と金獅子、藍鷲が狙う。
木の上に残ったのは3体のみ。まだ木の実を投げ付けてくる。
俺は左右に持ったナイフで木の実を弾きながら近付いていく。
木の実では攻撃が当たらないとみた1体が近付いてきた。
手には鋭い爪が生えている。
そんな爪を振りかぶり俺に攻撃を仕掛けてきた。
俺は右手に順手で持ったナイフでその爪を受けると、左手に逆手で持ったナイフで首筋を一薙ぎして、その首を刎ねた。
残る2体も近付いてきたので次々と首を刎ねる。
遠吠えで仲間を呼ぶ機会すら与えない電光石火の猛攻だ。
地上でも白狐と金獅子が一撃の元にワイルドモンキー達を斬り倒していく。
残り2体となった時、うち1体が声を上げた。
「オーロロロロロ!オーロロロロロ!」
「まずい仲間を呼ばれたぞ。」
「ちっ。もう少しだったんですけどね。」
言っている間にも次々とワイルドモンキーが現れたその数20体近く。
「一気に燃やします!ファイヤーストーム!」
藍鷲が木から降りたワイルドモンキー達に向けて火炎放射を浴びせる。
「「「キャーキャー!」」」
「「キーキー!」」
猿らしい鳴き声を上げて5体が燃えた。
燃やされた仲間を見て立ちすくむ残りのワイルドモンキー達。
相変わらず木の上にいるワイルドモンキーは俺に木の実を投げ付けてくる。
あーうっとうしい。
俺は猿並みに木の上を伝って木の上を行くワイルドモンキーに近付くと、一撃でその首を刎ねていく。
地上でも立ちすくむワイルドモンキー達に向けてさらに藍鷲が火炎放射を行い、白狐と金獅子が斬り込む。
しかし、また残りの3体のみとなったら遠吠えで仲間を呼ばれて…。
結局100体近くを倒した。
戦闘時間は1時間半も掛かった。
幸いだったのは足元に木の実を受けた藍鷲の乗る馬も無事で走るのには支障が無かった事だ。骨折でもしていたら大変だったからその点は一安心だ。
そんな戦闘のあとには大量の猿の死体を求めてジャンボハイエナ達が近づいてきた。
交戦の意図はなさそうで、猿の死体を貪りに来ただけらしい。
俺達はこちらに注意を向けられる前に素早くその場から離れた。
ビジースロースと言う働き者なナマケモノも出てきた。
ナマケモノの癖に動きが速く、獲物とみるやすぐに襲ってくる厄介な魔獣だ。
ただこちらは知性もそれなりに高く、き2、3体倒したら自分達には手に負えないと見て逃げ去っていった。
野営の際には魔獣だけでなく、チーターや豹と言った肉食動物達にも気をつける必要があった。
まぁ野性的に火を恐れる習性があるので、焚き火をしていればそうそう襲っては来ないらしいが、それでも注意は必要だ。
肉食動物だけでなくギガントイランドなどの大型の草食動物にも注意が必要だ。
牛の近似種でジャイアントイランドの倍近い体長を持ち、気性も荒い。
頭頂部に生えた二本の角での突進は生身で受ければ体を貫通するほどの威力になる。
と、まぁ南国特有の魔獣に襲われながらも順調に歩みを進め、4日目の夜には獣王国に到着した。
獣王国は不思議な国で街は1つ、獣王国と呼ばれる都市しかない。その他は小さな部族が住む村が点在しており、街としてはここ、獣王国しかないのだ。
金獅子は勝手知ったると言った風に馬を引きながら街をゆく。
「あ、獣王様!」
「獣王様。良いリンゴが仕入れられました。お一つ如何ですか?」
「獣王様、お帰りなさい。」
夜だと言うのにまだ市場も開いており、金獅子が、行けば皆が声を掛けてくる。
相当な人気者だとわかる光景だった。
「すまんな皆。仲間もおり、旅で疲れておる。また、今度相手をしよう。」
金獅子は言いながら王城へと向かった。
俺達も何も言わずに着いていく。
やがて王城に到着した。
色々と王城は見てきたが何処の王城にも引けを取らないような立派な城だった。
門番に一声かけて中に入っていく金獅子。
「こっちの3人は俺様の客人だ。」
それだけ言うと中庭に馬を放し王城の中に入っていく。
俺達も後に続く。
「獣王様、お帰りでしたか。」
「お帰りなさいませ、獣王様。」
象の耳を持つ武将らしき獣人と犀の耳と鼻の上に小さい角を持った文官らしき獣人が声を掛けてきた。
「あぁ。今戻った。3人分の客間を用意しろ。」
「はっ。」
犀の文官が走り去っていった。
「今日はもう遅い。部屋を用意させるから王城に泊まっていけ。旗を立てるのは明日明るくなってからでもいいだろう?」
金獅子はそう言うと象の武将に指示を出す。
「この3名を客間に案内せい。俺様は自室で寝る。」
そう言って行ってしまった。
「では、こちらへどうぞ。」
象の獣人に案内されて客間に到着した俺達はそれぞれあてがわれた部屋に入り就寝するのだった。




