238話 ケイル王国4
ララ法国の首都ララ・ダウトを出発して7日目にしてケイル王国までやって来た。
この辺りは相変わらずゴブリン、オーガなどの鬼種が多く、それなりに戦闘はあったものの、大した相手ではないので難なく切り抜けた。
ケイル王国には紫鬼が待機する事になる。その目印となる旗を立てに来たのだ。
ケイル王国には誰も伝がない為、翠鷹からの手紙を王城に届けた。
今のペースだと、ワンズからサーズダルまで行って、聖都に戻って獣王国に行き、マジックヘブンまでとなると時間的にギリギリだろうと翠鷹にも言われている。
だが時刻は夕方。王城に招かれるのも翌日になると思っていたのだが、流石に戦勝国の軍師からの手紙だけ合ってすぐに王との謁見が適った。
聖都から邪神復活についての使者も出していた為、話はスムーズに進み、王城の中庭に旗を立てる許可を貰った。
藍鷲は紫色の布に短槍を刺して旗を作り、全体重を乗せて短槍を地面に刺した。
その後はいつも通り街の外からゲートが無事に開くことを確認して王城を後にした。
今から進んで野営するよりはここケイルの街で1泊してから、翌朝早朝に出発した方が良いだろうと言う事になった。
夕方のせいか市場に出ている人の数は多い。皆夕飯の買い物でもしているのであろう。
俺達は肉屋、八百屋、調味料屋、水屋と一通り回り、買い物を済ませた。
宿屋にも行き4人分の部屋を取った上で夕食を食べにまた街へと繰り出した。
入ったのは街の定食屋であり、何の変哲も無い、飾りっ気のない店内に、少し薄暗い照明。漂う油の匂いは俺の美味い物センサーにビンビン来ていた。
大概、店の内装に気を遣ってないのにやって行けている店は味が良い。まさに味で勝負している店が多いのだ。
それに12卓しかない店の中は満員だ。
これも店の味がいいからだろう。
「いらっしゃい。」
素っ気ない感じで水とメニューを運んできたおばちゃんの雰囲気もいい。
よその卓に呼ばれて行ってしまったが、その足運びは忙しい店内を最小限の動きで回れるようにと考え抜かれたものに思える。
期待値は高まるばかりだ。
メニューを見ればその品数にも驚かされた。
分厚いメニュー表には所狭しと様々な品が殴り書きされており、金額は大銅貨2枚程度の料理が並ぶ。
決して安くは無いが高過ぎない料金設定である。
さらに別卓に運ばれてきた料理を見て驚いた。
その量は十代後半ががっつくレベルで、とても中高年では食べきれそうにない。
しかし、今席を立った老夫婦の卓には綺麗に平らげられた皿が並ぶ。あの量を老夫婦が食べきったという事だ。
相当に美味いに決まっている。
さあ、俺はこの店で何を食べる?何が1番人気だ?やっぱりメニュー表の1本最初に書いてある生姜焼き定食か?それとも1番高額な料金設定がされているステーキ御膳か?ビーフシチューも捨てがたい。オーブンがないと作れないグラタンなんかも惹かれる。敢えてカレーを選択し、自分の作る物と比較するのも良いかもしれない。悩む。メニューが多すぎるのだ。
「我はミートソースドリアにする。」
蒼龍が勝負に出た。
グラタンではなく、米の入ったドリアを選択したか。なかなかやるな。
米に絡むホワイトソースに、トマトで煮込まれたミートソースがかかる一品は確かに美味そうだ。
「わたしはクリームシチューとパンのセットにします。あ、サラダも付けようかな。」
藍鷲もホワイトソースか。こちらは米では無くパンを合わせると言う。
サイドメニューで付けられるサラダを忘れないあたりなかなかやりおるわ。
白狐も俺と同様に沢山のメニューの中から何を選ぶか悩んでいる様子だ。
そっかからメニュー表をあっちこっち捲ってにらめっこしている。
そろそろ俺も決めなければならない。
この店で頼むべきはなんだ?他の卓では何が食べられている?
いっそのこと人気メニューを店員に尋ねるか?
いや、尋ねるよりは自ら選びたい。
俺は今何が食べたい?分からなくなってきた。
「決めました。わたしはミックスフライ定食にします。」
白狐に先を越された。
ミックスフライか、それもいい。あじフライにイカフライ、一口ヒレカツがセットになったミックスフライ定食も定食屋の定番と言えるだろう。
3人がメニューを決めてしまった。
あとは俺を待つばかりだ。焦る。
もはや自分が何を食べたいかなんて分からない。
如何にこの店で1番美味いものを食べるかが勝負だ。
いや、普段自分で作れない物を頼むべきか。フライ系は確かに油を大量に使う為、あまり普段から調理しようとは思わない。だがたまにカラアゲを揚げることはある。
オーブンがないと作れないものは普段から作る機会がない。
そうだ。普段作れないと言えば魚料理だ。魚をさばけない俺はどうしても肉料理ばかりになる。となれば魚料理にしよう。
決めた俺の選んだ料理は…。
「すいませーん。注文いいですか?」
白狐が店員のおばちゃんを呼ぶ。
「はいよー。なんにします?」
「私はミックスフライ定食をお願いします。」
「我はミートソースドリアを頼む。」
「わたしはクリームシチューにパンのセットとサイドメニューのサラダを。お願いします。」
「俺は鯖味噌定食でお願いします。」
「はいよー。」
店員のおばちゃんが厨房へと入って行った。
食事を終えた俺達は宿屋に戻ってきた。
明日は早朝から移動再会と言う事で早く寝る事にした。
俺はそそくさと布団に入る。
寝る前に思い浮かべるのは今日の夕食の事だ。
久々に食べた鯖味噌定食、美味かったなぁ。
俺はそのまま眠りにつくのだった。




