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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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234話 ドワーフ王国7

 俺と千剣のヅイードの間には誰もいなくなった。

 中間地点には焚き火が燃え盛っている。

 俺は何となく気になって尋ねた。

「あんた、元Aランクの傭兵って事はそれなりの実力者だったんだろ?なんでこんな所で山賊なんてやってる?」

「あぁ?確かに俺は元Aランクの凄腕の傭兵よ。」

 ヅイードは肩に担いだ大剣を降ろして語り出す。

「だがそれもこれも、あのクソ貴族のせいで全部失った。あのクソ貴族のボンボンがレッドベアとククリムゾンベアを見間違えて襲ったりしなけりゃ、今頃俺の右腕も無事だったし、俺は傭兵のままだったどろうぜ。」

 何かを思い出したかのように歯がみするヅイード。

「あの貴族のボンボンの警護依頼を受けて山に入った。ボンボンの戦闘訓練が目的で最終目的がレッドベアの討伐だったんだ。順調にレッドボアまでを倒し手次はいよいよレッドベアに挑もうって時だった。茂みから出てきた深紅の体毛を熊が現れて不用意に貴族のボンボンが近付いて行った。俺は一瞬で悟ったね。そいつはレッドベアじゃなくクリムゾンベアだって。だから必死にボンボンを止めようと右腕を伸ばしたのさ。次の瞬間、目の前のボンボンは吹き飛ばされ、その肩に手を置いた俺の右腕をも一緒に吹き飛ばされていたよ。俺は片腕と依頼者を一気に失った。そこからはすぐさま名声は失われ、警護依頼の失敗者として扱われたさ。傭兵は依頼を達成出来てなんぼだ。依頼を失敗、しかも依頼者を死なせてしまった俺にはもう、まともな依頼は来なかった。そんな中、別の街ならまた傭兵としてやっていけるんじゃないかと旅をしていた時にちょうど山賊に襲われてな。その頭を一撃の元に屠ったおれを周りの山賊達は新頭領だと持て囃した。久々に受ける喝采が心地よくてな。おれはそのまま山賊になる事にしたんだよ。」

「…うん。話が長ぇ。要するに依頼失敗して落ちぶれた結果、山賊の頭領になったって事だろ?情けねぇな。」

 ヅイードがいきり立つ。

「何だとテメェ!テメェにおれの苦しみの何が分かる!」

「分かんねぇよ。諦めちまったやつの事なんか。分かってたまるかよ。」

 俺は両手にナイフを構える。いつも通り左手は逆手に、右手は順手に握り込み、左肩を前に出すように体勢を低くする。

 それを見たヅイードも再び大剣を肩に担ぐ。


 あの大剣、普通なら両手で扱うような代物だ。それを片腕で扱えるってことは相当な膂力の持ち主なんだろう。

「ハンッ!生意気な奴だ!千剣と呼ばれた、このヅイード様の力見せてやるよ!掛かって来い!」

 俺は真っ直ぐにヅイードに向かって駆ける。体勢は低く、いつでも左右どちらにでも転がれるように。

「おら!」

 ヅイードが大剣を振り下ろしてきた。

 俺は左前方に身を投げて転がると、片腕のないヅイードの右側に立つ。


 次の瞬間、ヅイードの大剣が頭上を掠める。咄嗟にしゃがんで避けたがヅイードの反応速度はかなりのものだ。

 俺は立ち上がりながら振り抜かれたヅイードの左腕を、ナイフを上下に振り抜き斬り裂く。

 だがそんな傷は知らんとばかりにヅイードが再び大剣で薙いできた。


 咄嗟にしゃがむ俺。ヅイードはそれを狙っていたらしい。

 すぐさま上方からの大剣の振り下ろしが迫ってきた。

 俺は左右のナイフをクロスさせてこれを受ける。

 ずっしりとくる大剣の重さに少し体が沈む。だがまだ膝をつくほどではない。

 俺は受け止めた大剣を自身の右側に落としつつ、左手のナイフでヅイードの足を切り裂く。背後に回り込んだ俺を追い掛けるようにヅイードの大剣が振り回される。


 俺は左右のナイフで大剣の軌道を上方にずらして空いた胸元に入り込むと左手のナイフをヅイードの左胸に突き刺した。

「ガハッ!」

 吐血するヅイード。血が目に入る。

 次の瞬間思いっきり腹部に衝撃を受けて吹き飛ばされる。

 どうやら腹を蹴られたようだ。

 だが1度はナイフを突き刺した相手である。その動きには多少なりとも不具合が出るだろう。


 案の定、大剣を振り上げると胸元に負った傷が痛むようで顔を歪ませる。

 それでも大剣を振り下ろすヅイード。

 俺は半身になってその大剣を避けると目の前を通り過ぎたヅイードの左腕をめちゃくちゃに斬り裂く。

「グッ!ウォー!!」

 それでもヅイードは大剣を振り回し俺を牽制する。


 目の高さを薙いできた大剣を後方に下がる事で避けた。が、ヅイードは追撃とばかりに前進し、大剣を振り下ろす。

 俺は左手のナイフで大剣を受け流すと、大剣を持つヅイードの右側に避ける。そのまま右手のナイフでヅイードの左肩を斬り裂く。

「グワッ!クソがぁ!」

 それでも大剣を手放すこと無く振り回すヅイード。


 俺は横薙ぎに振られた大剣を上方に弾き上げてそのままヅイードに接近、顔が近付く迄、接近してその首元に左手のナイフをあてがった。

 そのまま後方に抜けるように首筋を斬り裂いてやる。

「アッ!ガッ!」

 喉元を大きく切り裂かれて出血も酷いヅイードだったが、まだ大剣を手放してはいなかった。

 最後の一撃として大振りに振り上げた大剣を振り下ろしてきた。

 俺は振り下ろされる大剣を潜るように前進し、大剣を握る左腕の手首を落としてやった。


 ヅイードは切断された左手首を見ると、そのままその切断された左腕で殴り掛かってきた。

 なんて生命力だろう。左胸を突かれ、喉元を切り裂かれて、武具を握る腕すら失ってもまだ襲い掛かってくるとは。

 だがそんな拳のない手首のパンチは空を切り、代わりに俺の右手に握ったナイフが眉間に突き刺さった。

 ヅイードは力なく沈み込む。

 ようやっと絶命したようだ。

 流石元Aランクの傭兵だけあって生への執着が物凄かった。


 周りを見ればすでにほとんどの山賊は白狐に斬られて倒れていた。

 裏手から逃げようとした山賊もいたようだが、蒼龍の三叉の槍の餌食となっていた。

 こうして山賊団の壊滅作戦は終了したのだった。


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