229話 クロムウェル帝国10
クロムウェル帝国首都ゼーテでの2日目。
俺達はさっそく不動産屋に行って、物件についての相談をした。
「街には近い方がいいんだけど街の喧騒は苦手だから郊外に小さくてもいいから庭付きの家を借りたいんだ。」
俺が条件を言うと不動産屋は手元の厚いノートを広げてふむふむ言っている。
やがてページをめくる手が止まり、不動産屋のふむふむの声がデカくなる。
「はいー。ありましたよ。ご希望に添える賃貸物件が。はいー。」
「本当か?今日実際に見に行くことも出来るかい?」
「はいー。問題ありません。今から行きましょうか。郊外ですのでお時間はかかりますが。はいー。」
「あぁ。頼む。実際に見て決めたいんだ。」
「はいー。では参りましょう。はいー。」
言うなり不動産屋は店を出て言ったので、3人して後ろをついて行く。
「はいー。実は対象物件ですが、郊外ということもあり、ラクダ牧場のすぐ隣なんですねー。その為、匂いだとか気になるようであれば難しいかもしれませんが。まぁひとまず見てから決めてください。はいー。」
移動しながらも不動産屋の説明は続く。
「はいー。郊外とは言え、1時間もあるけば街の中心部に到着します。首都ゼーテにいながらにしてゆったりとした田舎暮らしのような生活が出来ますよ。はいー。」
不動産屋は東に向かっている。帝国領の東には砂漠地帯が広がっている。その為のらくだ牧場なのだろう。
牧場がそばにあれば、いきなり馬で現れても不信感はないかもしれないな。
その後も営業トークを聞きながら街を歩く事1時間ちょっと。
東門が見えるその家は小さいながらも庭もある2階建ての1軒家だった。すぐ隣はらくだ牧場。フンの匂いが漂ってくる。
「はいー。ここでございます。はいー。」
不動産屋は建物の周りを一周する。
「はいー。この通り、こじんまりとした一軒家になります。家賃は郊外という事もあり、大銀貨5枚。都市の
中心部で同じ広さの一軒家を借りる場合は金貨数枚にはなりますので、大変お得な金額帯にはなっております。はいー。」
うん。郊外で庭もある。10m程度はあるので、3mのゲートの門も余裕で出せるだろう。
一応中も確認させて貰う。
1階部分はキッチンとリビング、ともう1部屋の1LDK。二階にはさらに2部屋ある。こじんまりした印象ではあるが中も綺麗に掃除されており、借りる分には問題ないように思えた。
「どうだ?蒼龍。ここでしばらく待機する事になるけど、匂いが気になるとかあるか?」
「うむ。まぁ匂いにはそのうち慣れるだろうさ。それより部屋数が多いな。もっと小さくて安い物件はないものか?」
「はいー。ここが郊外で一番中心地から離れており、家賃も最安値でございます。はいー。もっと都心部に近ければ部屋数が少ない物件ばかりになりますが、逆に都心部に近い分、お家賃が上がります。はいー。」
「そうか。ここが一番郊外という事か。ならここで決まりだろうか?」
「家賃的には払えない事はないだろう。都心部からここまで離れていれば問題もないだろうしな。」
「はいー。周りにはらくだ牧場しかありませんから多少の騒音くらいなら問題ありません。はいー。」
「ではここに決めるか。いつから借りられる?」
「はいー。今から店に戻って契約書にサイン頂ければ今日からでもお住まいになられます。はいー。」
「よし。ここに決めた。契約しよう。」
という事で俺達はまた1時間ちょっとかけて不動産屋に戻り、賃貸契約の書類にサインした。
初期費用として家賃3か月分の敷金がかかった。俺は大銀貨15枚を不動産屋に手渡す。
「はいー。確かに家賃3カ月分お預かりしました。これで1月分は無料になりますので、来月分から毎月10日までにこちらまでお家賃を持ってきて頂きます。はいー。遅れる場合は事前にご連絡頂ければ15日までは待ちますので忘れずにお願いします。はいー。」
そう言う不動産屋から家の鍵を預かり、俺達は不動産屋を後にした。
「ひとまずベッドくらいは勝って持っていくか。」
「うむ。そうだな。」
という訳で俺達は家具屋に行って、組み立て式のベッドを1台購入した。あとは布団を一式と丸テーブルとイスのセットも一脚分購入し、影収納に収めた。
ひとまずの家具も買ったので、俺達は再度郊外の一軒家に向かう。
一軒家に付いた俺達は蒼龍と俺でベッドの組み立てを行っている中、藍鷲が一人、庭に旗を立てに行った。
ベッドが作り終わり、布団一式も敷いた。丸テーブルとイスのセットも置いたところで、藍鷲が家の中に入って来た。
旗は無事に立てたそうだ。
あとは念のため、街の外に出てからゲートで門が開けるか試すと言うので、蒼龍だけを家に残し、俺と藍鷲は東門から街の外に出る。
街の中に入る際には身分証の提示など厳しいが、出ていくのは簡単である。特に何かを提示する事もなくスルーである。
門番から見えなくなる位置まで来たら藍鷲が王化して、ゲートの魔法を発動させる。
短杖の前に縦3m、横3mの悪趣味な門が浮かび上がる。
「オープン。」
藍鷲の言葉をきっかけに門が開くと、その奥には先程までいた一軒家が見えた。
ゲートをくぐって一軒家前に戻る。成功だ。
「クローズ。」
藍鷲の言葉で門が締まり、消えていく。
「無事、ゲートの出現場所として認識出来ているようだな。」
「はい。やっぱり旗を立てた事でイメージがしやすくなってすぐにゲートを開けるようになりますね。さすが黒猫さん。こんなやり方を閃くとは流石です。」
「いや。旗を立ててもそのイメージを藍鷲が持てなかったら頓挫してたさ。」
「ひとまずこれで西側は魔術大国マジックヘブン以外はゲートが開けるようになったな。」
「あぁ。マジックヘブンは実際待機する朱鮫が合流してからどこにゲートの旗立てるか相談した方がいいだろ?」
「そうですね。朱鮫さんが合流してからにしましょう。」
「では一度聖都に戻るか。」
「はい。白狐さん達と合流しましょう。」
俺達は街の外で待つ白狐とドラン達と合流する為、街の中を歩く。
街を歩くと喧騒が聞こえる。
「この方をどなたと心得る!帝国の第三皇子にして勇者のバッシュ・クロムウェル様だぞ!」
またあの勇者パーティーの戦士ライオネルが叫んでる場面に遭遇した。
街の住民にも第三皇子は顔があまり知られていないらしい。
「また第三皇子の付き人がわめいているぞ。」
「いやだわ。毎回毎回。」
「勇者様って言うくらいだから私達を魔物から救ってくださるのよ。あんまり酷い事いわないで。」
「あの付き人さえいなければなぁ。第三皇子は心優しい方なのに。」
街の人の評判は微妙なところだ。
まぁ俺達には関係ない。3人で素通りして街の外へ向かう。
白狐達と合流した俺達は郊外の一軒家について説明した。
「らくだ牧場の隣ですか。街のはずれのようですし、いいところがあって良かったですね。」
「あぁ。ホントに。これで帝国首都ゼーテで待機するって当初の計画通りに事が進むぜ。」
「うむ。予定通りだな。」
「では皆さん、一度聖都に戻りましょう。王化、魔王。」
魔王形態になる藍鷲。
「ゲート。オープン。」
短杖を振るった先に門が開く。門の先には聖都の神殿の中庭が見える。
俺達4人とドラン、それに馬達はゲートをくぐり、聖都へと戻るのであった。




