228話 クロムウェル帝国9
クロムウェル帝国第三の都市ガルダイアから第二の都市ダームールーまでの道のりは4日程度だった。
相変わらずコモドドラゴンやリザードランナーなどの亜竜に襲われたが、難なくこれを撃退している。
おかげて影収納には亜竜の肉が満載である。これならドランの餌にも困らない。
しかし、そもそもここガルダイアからダームールーまでの道のりにはそこまで亜竜が多く出没するポイントはなかったはずだと白狐が言う。
ここにも邪神復活の影響が出ているのかもしれない。全体的に魔物の凶暴性が上がっているのだ。今までは人里には近寄らなかったような魔物まで街や村に襲い掛かるようになっている。
甲蟲人の対策だけでなく、魔物対策も考えないといけないかもしれない。
ダームールーでもドラン達の面倒は藍鷲が見てくれるとの事で、蒼龍、白狐とともに街に入った。
さて、到着したダームールーだが、帝国第二の都市とは言うものの、首都ゼーテは各地に闘技場などがあり、興行に力を入れているように見えたが、ここダームールーは農業地帯である。
街中には広大な畑が広がり、数多くの小作人が収穫を行っていた。その様子はどこぞの村に来ているかのようであるが、広大な土地故に都市と言われているようだ。
白狐が言うには
「帝国の食料事情の半分以上はここダームールーで収穫された芋などの野菜と小麦らしいですよ。」
との事で、ここダームールーが帝国にとっては大切な拠点である事が伺えた。
そんな田畑が広がる街の中で不動産屋を見つけて郊外に家を借りたい旨を伝えると1軒の家屋を紹介して貰えた。
場所は首都ゼーテ側であり、小さいながらも庭もあり、旗を立ててゲートの目印にするには適した環境のように思えた。
だが、なんと言っても築年数が古い。一見襤褸小屋のように見えるその家は、一応中は綺麗に掃除が行き届いてはいたが、今にも崩れそうな外見をしていた。
1軒家だから家賃は月大銀貨1枚だそうだ。首都ゼーテで家を借りるよりも4分の1程度の価格になっているらしい。
俺達は不動産業者には検討すると言い、その日は宿屋に泊まった。
明けて翌日、特にダームールーでの用事も済んだ為、首都ゼーテへと急ぐ。
この間も4日程度の移動になり、ワイバーンはじめ亜竜に多く遭遇した。
ただワイバーン相手でも藍鷲の魔法で墜落させてから3人で羽を狙って攻撃を仕掛け、あとは地上戦に持ち込む形が出来上がっており、難なく倒す事が出来た。
大変だったのは倒した後の討伐証明部位である爪の回収だった。
ワイバーンの爪は鋭利で硬度もある為、武具の素材になる。その為、倒したワイバーンからは爪を採取しているのだが、その数が数だけに爪を剥ぐのも一苦労である。
実際戦闘時間よりも爪剥ぎの時間の方がかかったくらいである。
そんな戦闘もありながらも俺達は無事に首都ゼーテに到着した。
今回は白狐がドラン達と待機である。
北門から入ったゼーテの街並みは以前来た時と同様に闘技場を中心として武具屋が多く立ち並んでいた。
またそれと同じくらい薬屋も存在し、多くの人が薬草やらポーションやらを買い求めていた。
ここでおれはふと気になった事を藍鷲に尋ねた。
「そう言えは藍鷲は魔族領にいた頃は短杖も持ってなかったよな?その短杖は大事なものなのか?」
「あ。いえ。これは短杖でも持つと魔力制御がしやすくなるというので無能の街で仕入れた安物です。」
「そうか。ここならもっとちゃんとした短杖も売ってると思うけど、見ていくか?」
「え?いいんですか?」
「あぁ。もう時刻的に不動産業者は開いてないしな。武具屋なら遅くまでやってるから見るなら今日がチャンスだぞ?」
「あ。じゃあお言葉に甘えて短杖探ししてもいいですか?」
「あぁ。いいよ。俺は付き合うよ。蒼龍はどうする?」
「うむ。我は先に宿屋に入ろうかな。3名分の部屋を取っておく。」
「あぁ。それじゃ宿屋の手配は頼んだ。場所が決まったら通信用水晶で教えてくれればいいから。」
「うむ。わかった。」
と言う事で藍鷲の短杖を探す事になった。
「拘りはあるのか?長さとか、材質とか?」
「そうですね。長さは腰に下げられるくらいがいいので30cm程度でしょうか。材質にはこだわりませんが魔力操作がしやすくなるような材質がいいですね。それこそオリハルコンのような魔力を通しやすい素材とかですかね。」
「なるほどな。ひとまず片っ端から店を見て行こうぜ。」
俺達2人は武具屋を回っていく。が、剣や斧などの直接武器は数多く取り揃えているが、杖は短杖などの取り扱いは少なく、藍鷲が求めるような魔力伝導率の高い素材の杖、短杖は見当たらなかった。
「店主、ちょっと聞きたいんだが、このあたりに魔術師用の杖や短杖を専門に扱うような店はないかい?」
「んあ?魔術師用の杖だぁ?ここは帝国だぜ?魔術師用の武具が欲しけりゃ魔術大国マジックヘブンにでも行った方がいいやな。ん。ちょっと待てよ。そう言えば街はずれにマジックヘブンから仕入れしている偏屈な店があったな。ちょっと待て地図書いてやるから。」
最初こそぶっきらぼうな対応だったが最終的には地図まで書いてくれた優しい店主だった。
俺達は貰った地図を頼りにマジックヘブンから仕入れた物を売っているという魔道具屋に向かった。
その店構えはこじんまりとしており、とても数多くの魔道具を取り扱っているとは思えなかった。
たが、せっかく来たのだ。入ってみようという事で、店の扉をくぐった。
そこで俺達が見たものは天井近くまで積みあがる魔道具類の山だった。
「ひっひっひ。いらっしゃい。どんな魔道具をお探しだい?」
店の奥から老婆の声が聞こえるが、姿は見えない。高く積まれた魔道具に遮られてその姿が隠れてしまっている。
「短杖を探しに来たんだ。30cm程度の長さで魔力伝導率の高いものがいい。あるかい?」
「ひっひっひ。短杖だぁ?あるよ。ちょっと待ってな。探してくるから。」
そう声が聞こえたと思ったら、その後しばらくは物を漁る音だけが響いた。
ガサゴソ、ガサゴソ。ドンガラガッシャン。ガチャガチャ。
一回確実に魔道具の山が崩れた音がした。
やがて老婆の声がまた聞こえてきた。一つの魔道具の山が崩れた事でやっと顔が見えた。
「ひっひっひ。これなんかがおすすめだね。聖果樹の枝で作ったとされる短杖だ。世界樹って知ってるかい?精霊の住まう森に生えている天まで届くとされる大木さね。」
「あぁ。世界樹の話は聞いた事はある。その花はいかなる病も治す万病の薬になるとか眉唾もんな話題が尽きないあれだろ?」
「おう。それだ。だが世界樹の力は本物じゃぞ。大陸一の大きさを誇る大木には精霊神の加護がかかっており、様々な逸話が残されておる。」
「ふーん。でどうだ?藍鷲?魔力伝導率とかは持ってみればわかるんだろ?」
「えぇ。これは凄いですよ。今の短杖が10の力を6にするとしたらこれは10の力を10で通してくれるようなものです。これなら魔法の威力がさらに跳ね上がりますよ。」
藍鷲は世界樹の枝で出来た短杖とやらを振ってみている。
「気に入ったなら買っていくか。婆さん、これいくら?」
「ひっひっひ。貴重なものだからね。値は張るよ。大金貨3枚ってところだね。」
大金貨3枚なら俺からしたら安いものだ。アダマンタイトは白金貨が飛ぶからな。
「はいよ。じゃあ大金貨3枚。」
「ひっひっひ。まいどあり。今なら腰から下げるようの皮紐もセットにしておいてやるよ。」
という事で藍鷲は腰から今まで使っていた短杖と世界樹の枝の短杖の2本を下げる事になった。
その後は蒼龍に連絡を取って、取って貰った宿屋に向かった。
さて、明日からは不動産屋を巡る事になる。今日は早く就寝する事にした。




