227話 クロムウェル帝国8
城塞都市モーリスを出発してから第三の都市ガルダイアに到着したのは4日後の夕方近くであった。
途中ワイバーンの群れに襲われたりジャイアントコモドドラゴンに遭遇したりと戦闘は多々あったが、いずれも問題なく潜り抜けている。
ガルダイアに到着すると藍鷲が言う。
「ここはわたしがドランと馬達の面倒を見ましょう。久々に蒼龍さんもベッドで横になって来て下さい。」
「む?いいのか?この辺りはコモドドラゴンやジャイアントコモドドラゴンが生息しているが大丈夫か?」
「えぇ。わたしも王化すればきちんと戦えますから。なんと言っても1人で魔属領から人族領に移動して来たんです。問題ないですよ。」
「そうか?では任せるとするか。」
という事で俺と白狐、蒼龍の3人はガルダイアの街に入った。
ガルダイアは煉瓦造りの2階建て家屋が多く建っている。中には3階建ての家屋もあるが、大抵が1階部分が商店になっている家屋のようだ。
俺達3人は宿屋に宿を取り、食堂を探して夕飯を食べた。
ここではガルダイアの名物、山賊焼きを食べた。
山賊焼きは鶏もも肉を1本丸々炭火で、ニンニク風味の照り焼き風のタレに絡めながらあぶり焼きにした料理だった。自分で付けて食べる味噌もなかなかにいい味しており、照り焼き風のタレとよく合った。
思わず普段はあまり飲まない酒を注文し、3人して軽く酔うまで飲んだ。とにかく酒によく合う料理だった。
俺は店主に山賊焼きのレシピを貰えないか交渉したが、残念ながら当店秘伝の味は渡せないと断られてしまった。
仕方ない。あとで自力で再現してみるか。ニンニクが肝だな。
その後は宿屋に戻って就寝した。特にダルダイアでやるべきことはないので、このまま明日朝には出発となる。
4日ぶりのベッドを堪能して眠りにつくのだった。
翌日、朝から街中が騒がしい。
何事かと思い宿屋の店主に聞いてみると、ジャイアントコモドドラゴンの群れが街に迫ってきているのだとか。
方角を聞けば昨日藍鷲を置いてきた方角だ。これは急いで藍鷲に合流する必要がある。
俺達は朝食も食べずに街の外に出て藍鷲とドランの元に走る。
まだジャイアントコモドドラゴンはそこまで近づいてはおらず、藍鷲とドランは迫りくる方角を睨みつけているところだった。
「大丈夫か?」
「えぇ。まだ攻めてきてはいません。ですが数が多いですね。」
そう言う藍鷲の視線の先には数十のジャイアントコモドドラゴンの姿があった。体調は3,4m程度。亜竜とは言え、火炎ブレスも吐いてくる為、甘く見て言い相手ではない。
「あの規模となると街からも傭兵や衛兵が出張ってくるだろうさ。」
俺は街から出てくる一団を見ながら言う。
装備が揃っていないところを見ると傭兵団か個人の傭兵の集まりだろう。
「どうします?共闘します?」
「いや。下手に共闘しても連携も取れないだろうし、好きにやらせて貰おう。抜かれたらあっちの傭兵達に任せるって事で。」
ジャイアントコモドドラゴンはランクにしてCランク。村程度なら蹂躙出来てしまえるだけの力がある。だがAランクのワイバーンすら倒せる俺達なら問題はない。一応念のため、王化して挑む事にした。
「先に行きます!王化!破王!!」
いうなり白狐の右耳にしたピアスにはまった真っ白い石から、白い煙が立ち上り白狐の姿を覆い隠す。
次の瞬間、煙は白狐の体に吸い込まれるように消えていき、残ったのはどことなく狐を思わせる真っ白いフルフェイスの兜と、同じく真っ白い全身鎧に身を包んだ白狐の姿となり駆け出す。
「む。王化!龍王!」
蒼龍が言うと胸に下げたネックレスにはまる蒼色の王玉から蒼色の煙が吐き出される。
その煙は体に吸い込まれるように晴れていき、残ったのは龍をモチーフにしたような兜に蒼色の全身鎧を纏った蒼龍の姿となり駆け出す。。
「王化。魔王。」
藍鷲が言うなり左手小指にしたリングにはまった藍色の石から、藍色の煙が立ち上り藍鷲の姿を覆い隠す。
次の瞬間、煙は藍鷲の体に吸い込まれるように消えていき、残ったのはどことなく鷲を思わせる藍色のフルフェイスの兜と、同じく藍色の全身鎧に身を包んだ藍鷲の姿となり駆け出す。
「俺も。王化!夜王!!」
左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が晴れると猫を思わせる兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。
俺は影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出し、皆に合わせて駆け出した。
すぐ後ろをドランもついてくる。ドランの火炎ブレスもそれなりに強力になっている。戦闘に邪魔になる事はないだろう。
対峙したジャイアントコモドドラゴンは体長4mほどだった。
いきなり火炎ブレスを吐いてきた為、大きく前に出てジャイアントコモドドラゴンの顔の下に入り込む。
そのまま黒刃・右月と黒刃・左月を喉元に突き刺して大きく引き裂く。
「グエェェェ!」
蛙が潰れたような声を上げてジャイアントコモドドラゴンが後退する。
かと思えば頭を下げて突進してきた。4mの巨体から繰り出される体当たりは想像以上に強力だ。
俺は自ら後ろに跳ぶ事で衝撃を緩和させる。それでも数mは吹き飛ばされた。
だが最初に喉元を大きく切り裂き、出血が激しい。命の雫は今も流れ出している。
二度目の突進が来た。俺は大きく跳躍し、その突進を避けるとともに、その背に向けて黒刃・右月を突き立てて、縦に深々と切り目を入れてやった。
これは効いたらしく、身を捩って悶えるジャイアントコモドドラゴン。そこで再び火炎ブレスを吐いてきた。
正直ドラゴンのブレスにすら耐えられる王鎧を纏っている為、ジャイアントコモドドラゴンの火炎ブレス程度では燃え移ることもないし、多少暑さを感じる程度ではある。
だが、やはり本能的に火は避けたくなるものである。噴き出された火炎ブレスに向かって顔をガードしながら飛び込み、再度、首の下に。黒刃・右月と黒刃・左月を首元に再び突き入れて首の切断を狙う。
黒刃・右月と黒刃・左月の刀身は35cm程度とナイフにしては長めである。だがジャイアントコモドドラゴン首の周囲の方が広かった。首回りの肉はぐるりと切り裂いたのだが、肝心の骨を断つ事が出来なかった。
首の傷からも火炎を噴き出しつつも尚も火炎ブレスを放ってくるジャイアントコモドドラゴン。
最後は大きく跳躍し、その背に乗ると、首の骨を断つように黒刃・右月を深々と刺してやった。
ドスンと音を立ててジャイアントコモドドラゴンの首が落ち、その場に崩れ落ちた。
白狐の方を見れば同じように首を刎ねており、蒼龍の方も喉元を突いて大きな穴をあけていた。
藍鷲はと言えばウィンドカッターでその巨体を切り刻むとウォーターブラストでその突進の勢いを殺し、ロックハリケーンでその身を削いでいた。
あれば強力だ。本当に魔族領で見せてくれた複合魔法のさらに上を行く攻撃手段となっている。
あれなら1人旅でも問題なく切り抜けられただろう。唯一の弱点は王化継続時間か。まだ藍鷲は35分程度しか王化する事が出来ないでいた。
早く各地に旗を立て終えて藍鷲の王化継続時間を延ばす特訓に入らないといけない。
そんなジャイアントコモドドラゴンとの戦闘が朝からあったものの、俺達は無事に亜竜の肉を大量に手にし、それを焼いて朝食にしてから第二の都市ダームールーを目指す。
馬での移動の為、この間も4日程度との話である。
ダームールーでは首都ゼーテで郊外に家を借りられなかった際の予備候補としての土地探しが待っている。
さて、どうなる事やら。俺達は馬を走らせるのであった。




