213話 ヌイカルド連邦国8
ヌベラの街を出て2日目。
珍しい魔獣に出会った。
グレートエイプと言う腕の長い猿の魔獣だ。
この辺の森にしか生息しない魔獣だが、この猿、魔獣の癖に知恵がついて道具を扱う事に長けている。
だから倒した魔物や傭兵の武具を奪って自ら使うのだ。
その知能の高さと群れの大きさを考慮してBランクに位置する魔獣である。
馬車には食料が積まれている事が多いため、積極的に馬車を襲うらしい。
ここで出会ったのは20数体。1体は長剣を手にしているが残りは棍棒を持っている。
長剣持ちが群れのボスのようだ。
「キャキャキャー!」
「「「「キャキャー」」」」
ボス猿が叫ぶと手下の猿共が吼えながら木の上から襲い掛かって来た。
「数が多いです。王化して挑みましょう。王化。破王。」
白狐が王化し、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させる真っ白なフルフェイスの兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となる。
「王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が王化し、右腕にしたバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象った赤紫色のフルフェイスの兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王形態となる。
「王化!精霊王!」
紺馬が王化し、左手薬指のリングにはまる王玉から紺色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると馬を象った紺色のフルフェイスの兜に紺色に輝く王鎧を身に着けた精霊王形態となる。
「王化!賢王!」
翠鷹が王化し、右手薬指のリングにはまる王玉から翠色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると鷹を象った翠色のフルフェイスの兜に翠色に輝く王鎧を身に着けた賢王形態となる。
最後に俺も王化する。
「王化!夜王!!」
左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が晴れると猫を思わせる真っ黒なフルフェイスの兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。
俺は影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出した。
木の上から跳びかかってくる猿の群れ。
紺馬が1度に5本の矢を射て次々と撃ち落としていく。
近付いてきた猿には白狐と紫鬼が対処する。
魔獣特有の生命力で、多少斬られようがぶん殴られようが起き上がってくる。
中には直接馬車を狙って飛んでくる猿もいたので、それらには翠鷹と俺が対処する。
棍棒を片手に振り下ろしてくる猿。
棍棒を黒刃・左月で受けて、黒刃・右月で棍棒を持つ腕を突く。
「キキャー!」
1度は怯んで下がる猿だったが、すぐさままた跳び上がり傷ついた腕で棍棒を振るってくる。
俺は黒刃・右月で棍棒を弾くと、棍棒を持つ腕の肘辺りに向けて黒刃・左月を振り上げた。
切断される腕、飛び散る鮮血。
利き腕を失った猿はやはり1度は怯んで下がるが仲間達が跳びかかる様を見て再度跳びかかってくる。
だが武器を持たないグレートエイプは、もはやちょっと大きめの猿だ。
爪で引っ掻こうとしてくるが、黒刃・右月で受けて黒刃・左月を首元に突き入れる。
そのまま首を掻き斬り地に沈める。
その間にも新たな猿が襲い来る。
棍棒を弾き返し、腕を斬りつける。棍棒を受けて腕を切断する。迫る爪を弾いて首を掻き斬る。棍棒を跳ね上げて空いた胸元にナイフを突き入れる。
俺が相手にしたのは5体ほど。
長剣持ちのボス猿は白狐と斬り合っている。
こちらは他の猿よりさらに賢いようで、ギリギリ白狐の刀が届かない位置に陣どり、長い腕を活かして攻撃を繰り出している。
だが相手は白狐である。あっという間に懐に入ると次の瞬間にはグレートエイプの首を刎ねていた。
戦闘時間は30分ほど。折角なので紺馬と翠鷹にはこのまま王化限界の時間まで王化を継続して貰う事にした。
王化可能時間はその最大時間までの王化を繰り返すことで延ばす事が出来る。
本当なら旅の間も王化を続けて持続時間を延ばしたいところだが、魔獣や魔物がいつ出てくるかも知れない為、王化したついでに持続時間ギリギリまで解かないようにする程度だ。
聖都に着いたら戦闘の心配もないので、一日中王化を続けて少しでも持続時間を延ばす予定だ。
最低でも3時間は王化を続けられる様にしたいところだ。
さて、大量に倒したグレートエイプだが、一部の人達の間では猿の脳みそが食されており、一応高級食材になる。
その為、倒した猿の頭を斬り取り影収納に収めていく。
紫鬼が相手にした猿の一部は頭を破裂させられている為、売り物にならない。
ちなみに体の肉は筋っぽくて食べられたものではないらしいので放置だ。
そんな事をしている間に紺馬と翠鷹の王化が解ける。
今の時間で35分くらいだろうか。2人にも2時間程度は王化継続出来るようになって貰いたい為、聖都に着いてからの特訓が待っている。
聖都まではあと3日くらいの距離だ。
皆に会うのも3か月ぶりくらいである。
1度は離れた身であるからちょっと気まずい感じもあるが、まぁ彼等ならきちんと受け入れてくれるだろう。
俺達はその後も街道をひた走るのであった。




