211話 ヌイカルド連邦国7
まず俺達は武器屋に向かった。
紺馬の矢を調達する為だ。
武器屋には様々な武器が並ぶ。
闇ギルドがいるくらいだから客層は様々なんだろう。
あまり見かけない持ち手と鎖で繋がれた棘付き球体、モーニングスターと呼ばれる武器なんかもあった。
剣も直剣じゃなしにやや短めで幅広の刀であるファルシオンなんかが多い。
これは屋内での戦闘が多いからだと推測された。
紺馬は使う矢は何でも良いと言うので、一般的な鉄の鏃の矢を100本ほど購入した。
ここには刀は置いていなかったので、白狐は予定通り脇差しを使って貰う。
ギータンのアジトは元々聖堂だった場所らしく、中はかなり広くなっていそうだ。アジトの前には見張りが5人程立っていた。
「何処かに、当たれば良いんだったら5人同時に射れるけど、どうする?」
紺馬が言うので、試しに射って貰った。
「「「「「ぎゃー!」」」」」
鉄の鏃の矢は5人の足元に見事に刺さり、絶叫を上げさせた。
転んで矢を抜こうとしている所に白狐と共に近付いて首の後ろに打撃を入れて意識を刈り取る。
絶叫を聞いて飛び出して来た4人も武器を持つ腕を払い、首の後ろに痛打を入れて気絶させた。
俺達は堂々と正面からギータンのアジトに潜入していく。
その後も飛び出してくる輩を紺馬が足元を狙って射ては俺か白狐が意識を刈り取っていく。
やはり外見からして広そうだったが、中はかなりの広さがあった。
部屋数も多い為、虱潰しに探すより聞いた方が早そうだった。
紺馬に腕と太股を射られた男に声をかける。
「なぁ。サウスダンテはどこにいる?」
「テメェらなにもんだ?!ガブルの奴らか?アジトに迄来るとは殺されてぇのか?」
「いや。今殺されそうなのはお前だろ。」
俺は突き刺さった矢をグリグリしてやる。
「ぎゃー!止めてくれー!」
男は武器を持つ手も射られている為、反撃も出来ず身を捩るばかりだ。
「止めて欲しかったらサウスダンテの居場所吐けよ。」
俺は刺さった矢をグリグリしながら声をかけ続ける。
が、暫くすると男は気を失ってしまった。
次の男に向かう。
白狐も矢が刺さった男達相手にギータンのリーダーであるサウスダンテの居場所を聞いて回った。
するとどうやらサウスダンテ自身はこのアジトにはいないらしい事が分かった。
誰もサウスダンテに会ったことすらないと言う。
そうこうするうちに四方を荒くれ者達に囲まれていた。
「テメェらどこのもんだ!」
「こんな事してただで帰れると思うなよ!」
「ぶっ殺してやる!」
と血気盛んである。
殺しはNGと言う制限はあるものの、街の荒くれ者程度に手こずる俺達ではない。
次々と襲い来る男達を矢で射て、ナイフで軽く斬りつけ、脇差しで峰打ちして、どんどん倒していく。
50人くらい倒したところで、
「止めろ!」
と大声で指示を出す男が1人現れた。
髪の毛を逆立てて額に大きな刀傷を持った大男だ。
「さっきから見てりゃ殺す気もないらしいじゃねーか。何がしたいんだ?テメェらは?」
やっと話が出来そうな奴が現れた。
「おたくのリーダーに用があるんだ。」
「サウスダンテに?何の用だ?」
「いや、今ガブルってところと揉めてるんだろ?それを止めさせたくてさ。」
「何?抗争を止めに来たってのか?」
「あぁ。そうだ。あんた偉い人だろ?俺と戦って俺が勝ったらサウスダンテの居場所を教えるってのどうよ?」
大男は思案気な表情だ。
「いいだろう。オレはサブリーダーのガナッシュ。オレに勝てたらサウスダンテの居場所を教えてやろう。」
そう言うと腰から鎖鎌を取りだした。
鎖鎌を使う奴とは殺し屋時代に戦った事がある。分銅を投げてきたり鎖を持って鎌を振り回してきたりと面倒な相手だった。
でも俺も成長してるからな。
「いくぞ!」
大男は言うなり分銅を投げてきた。
俺はそれを避けると分銅を手元に戻すよりも早く動き、ガナッシュに迫る。ガナッシュも俺の動きを見て分銅を諦めたのか鎌を振るってくる。
俺は右手のナイフで鎌を弾くとガナッシュの背後に回って首筋に左手のナイフを当ててやった。
「ま、参った。オレの負けだ。」
大男ガナッシュはあっさり負けを認めた。
「サウスダンテならここから西に行った酒場でバーテンやってるよ。」
闇ギルドのリーダーがバーテン?不思議に思ってるとガナッシュが言う。
「アイツは頭がキレる。力仕事はオレがやってアイツは指示を出すだけだ。」
なるほど。影の支配者って訳か。どうりで情報が少なかったはずだ。
「あと半年もすれば世界恐慌が起きる。その時はお前達の組織も戦わざる終えないだろう。今日傷ついた奴はしっかり治せ。そして自分達を鍛えておけ。」
「…世界恐慌?」
「今はまだ分からなくてもいいさ。じゃあな。」
俺は言って首筋のナイフを外してやった。
ここにはもう用はない。俺達は西にある酒場とやらに向かった。
件の酒場は直ぐに分かった。
俺達はカウンターに言ってバーテンに話しかける。
「お友達のガナッシュ君に聞いて来たよ。サウスダンテ君。」
バーテンはギョッとしたように目を見開く。
その視線の先にはいつでも射れるように矢を番えた紺馬の弓があった。
「手下にばっかり危ない目に合わせて自分は無傷で済まそうなんて考えが甘いな。」
「い、いつかこうなる日が来るのは分かってたさ。ギータンは終わりだな。」
「いや、ギータンは残して貰う。」
「え?」
「ただし、抗争は終わりだ。半年後には否が応でも戦わなくちゃいけない時が来る。それまで力を蓄えておけ。」
「半年後?」
「あぁ。人族同士で争ってる暇なんてなくなるはずだ。」
「半年後…。」
「そうだ。半年後だ。分かったか?抗争は終わり。闇ギルドはこれから力を蓄えておく。いいか?」
「あ、あぁ。分かったよ。抗争は終わりにする。僕たちの負けでいい。」
「いや、今頃ガブルも同じ状況のはずだ。喧嘩両成敗。引き分けって事にしておけ。」
「…え?」
俺達はそれだけ言うと酒場を後にしたのだった。
宿屋に戻るとすでに紫鬼と翠鷹が帰って来ていた。
「こっちはバッチリだ。そっちは?」
俺が聞くと
「こっちも問題ない。ロメロって奴はボコボコしにて抗争を止めると宣言させた。」
「紫鬼はんの圧勝でなぁ。見ているこっちが可哀想になるくらいやったわぁ。」
翠鷹も続けて言う。
両方の闇ギルドに抗争終了を宣言させた。これで夜も安心になるだろう。
俺達は疲れを癒すために就寝する事にしたのであった。




