210話 ヌイカルド連邦国6
黒猫達と分かれた紫鬼と翠鷹は北にアジトを構えるガブルの元へとやって来ていた。
ガブルのアジトだと言う屋敷は元々貴族の屋敷だったようで、外見から見てもかなりの広さがあった。
アジトの前には2人の青年が見張りとして立っている。
「さて、どうします?裏口でも探しましょか?」
「ん?何を言うか。こんな時は正面から堂々と行くが基本だろう?」
そう言うと紫鬼は先に行ってしまう。
「ちょっ!そんなセオリー聞いたことないですって。」
仕方なく翠鷹も後を着いていく。
見張りの前に立った紫鬼は堂々と言い放つ。
「ここはガブルのアジトだろう?ロメロって奴に会いに来た。」
「は?」
「なんだテメェ?」
「ワシは紫鬼。ロメロに会いに来たのだ。会わせてくれ。」
「いきなり現れたヤローにボスが会うわけねーだろ。」
「テメェ何の用だよ。」
見張りの青年2人は苛ついてきていた。
「抗争を止めに来たのだ。いいからロメロの所に案内しろ。」
「何だとテメェ!」
「ふざけんなよ!」
腰に佩いた長剣に手を伸ばす2人の見張り番。
しかし、それより翠鷹が動くのが早かった。
右腰に佩いた細剣を左手で抜き放ち、見張り番2人の利き腕の肩を突く。
「ぐわっ!」
「ぎゃー!」
利き腕を突かれて長剣を抜くことが出来なかった2人は、肩を押さえつつ大声で叫ぶ。
「敵襲だぁー!」
「敵が来たぞぉー!」
そう叫ぶとニヤリと笑う。
「へっ。これでもう逃げられねぇぞ。」
「今にも兵隊がやってくるからな!」
そう言う2人に紫鬼が一歩近付き言い放つ。
「全く。素直にロメロの居場所まで連れて行けば痛い思いもせんかったのに。覚悟はいいか?」
指の骨をボキボキ鳴らして尚も2人に近付く紫鬼。
「な、なんだよ!」
「何すんだよ!」
紫鬼は肩を押さえる腕を取り捻り上げながら後ろに思いっきり引っ張る。
ゴキンッ
と音がして肩関節が外れた。
「うぎゃー!」
あまりの痛みにもんどり打って地面を転がる。
「な?!やめろよ!」
もう1人も肩関節を外されて地面に転がされた。
「ぎゃー!」
その頃には屋敷からゾロゾロと武装した男達が出てきていた。
「ふむ。思ったより数がいるな。」
「冷静ですなぁ。ウチはあんなに相手にするのは疲れてまいますわ。」
「ふむ。まぁワシがやろう。」
「くれぐれも殺しはNGですよ?」
「任せろ。手加減には自信がある。」
そう言うと門をくぐり敷地内に入る紫鬼とそれに続く翠鷹。
男達は手にシミターやファルシオンを持ち、ジリジリと2人に近付いてくる。
いきなり敵襲だと聞いて様子を伺っているのだ。
まさか2人で攻めてきたとは思っていない。
他の敵の姿を探してキョロキョロする男達。
「安心城。こちらは2人だ。ロメロに会いに来たのだ。会わせてくれれば餌手荒な事はせんぞ?」
紫鬼が言い放つが男達は聞く耳持たない。
「何だとテメェ?」
「どこのもんだ!?」
「ギータンの奴らか?」
「相手は2人だぞ?」
「やっちまえ!」
男達が殺到する。
「ふむ。仕方ないな。」
そう言うと紫鬼はいつもの両拳を顔面の前に持ってくる構えでなく、左半身を前に出し、左拳は顔の前、右拳は正拳突きを放つように体の横にピッタリと付けた構えを見せる。
これは対刀剣を意識した構えであり、半身になる事で敵の攻撃箇所を狭める思惑と、前に出した左拳で刀剣を弾き、すぐさま右拳を放てるような体勢であった。
1人の男がシミターを振り降ろす。
紫鬼は一歩前に出てシミターを握る腕を外側に弾くと、右拳を男の腹部に叩き込んだ。
男は手にしたシミターを手放し、後ろに控える男達の中に吹っ飛んでいった。
それだけで6人の男達が巻き込まれて転倒する。
「やりやがったな!」
「ぶっ殺してやる!」
男達が殺到する。
紫鬼は左拳で刀剣を弾くと右拳を放ち、一撃で相手を沈めていく。
後ろの翠鷹にも男達が殺到する。
翠鷹は振り上げられた刀剣を持つ腕を確実に細剣で突き刺さし、次々と武器を落とさせる。
それでも殴り掛かってくる男には残った方の腕にも細剣を突き刺して行動不能にしていく。
紫鬼の攻撃では意識を刈り取られて痛みに悶える者はいないが、翠鷹の攻撃は意識を奪うものではなく、逆に痛みが襲い続ける。
「うぎゃー!」
「ぎゃー!」
「痛ぇー!」
次々と男達が蹲る。
30人も倒しただろうか。
紫鬼か相手にした男達は皆一様に意識を失っていた。
「全く紫鬼はんは。気絶させたらロメロの居場所まで案内させられないでしょうに。」
「あ。すまん。ついやり過ぎたわい。」
「まぁこっちの何人かに聞けばいいですわ。」
そう言って蹲る男達に向かって翠鷹が言う。
「ロメロはどこにいてますのん?屋敷の中?何処の部屋?」
額に細剣の先を当てられた男は震えながら答える。
「さ、最上階の書斎にいるよ。頼む。殺さないでくれ。」
「ありがとう。安心しーや。命までは取りませんわ。」
翠鷹は細剣を額から外して建物に向かう。
紫鬼も後に続く。
建物内でも待ち構えていた男達に襲われたが全て紫鬼が一撃で気絶させていった。
建物内でも振れるようにと湾曲したシミターや短めのファルシオンを持っていた男達だったが、1度振り下ろしたら最後、弾かれて腹部に強打を叩き込まれた。
中には気絶出来ずに床を転がり呻く奴もいたが、それ以上の追撃はせずに跨いで先に進んだ。
最上階の3階の書斎を見つけた2人は意気揚々と扉を開け放つ。
中にはゆうに200kgはありそうな巨漢が座っていた。
「醜いですわね。」
「そんな体で動けるのか?」
紫鬼達が呟くと巨漢の男、ロメロがメイスを杖代わりに立ち上がる。
「なんだ?ギータンの手の者か?ついに直接攻めて来やがったか?」
「いや。通りすがりの鬼王だ。争いを止めに来た。」
「はっン、なんだって?争いを止めに来ただと?それならオレ様を止めてみなぁー!」
巨漢は思いがけないスピードで紫鬼に迫りメイスを振るってきた。
だがこれを左手一本で受け止める紫鬼。
掴み取ったメイスを離さない。
ロメロは必死でメイスを引こうとするがびくともしない。
やがてメイスを諦めたのかメイスから手を離し素手で殴り掛かってきた。
紫鬼はこれをスウェーで避けると、避けざまにメイスを離し、左拳のジャブを顔面に放つ。
ロメロの首が上を向く。
すかさず紫鬼は右拳のジャブで顎を打ち抜く。
しかし、巨漢故の首の太さで脳を揺らされる事を避けたロメロは再び紫鬼に殴り掛かる。
殴り掛かった腕を左手で外側に弾かれ、そのまま右拳でのジャブを顔面に食らう。
それだけでは止まらず、続けて左拳でのジャブ、右拳でのボディブロー、左拳でのフックを顎先に受けてよろめくロメロ。
それでも尚も食い下がるロメロに紫鬼は左右の拳のジャブを画面に連打する。
意識を刈り取らないように注意しつつ、顔面の形を変えていく。
「わ、分かった!オレ様の負けだ。」
10分間もの間殴られ続けたロメロが落ちた。
「何が望みだ?ガブルの解散か?」
そこには翠鷹が前に出て言う。
「いえ。ガブルは今のまま存続させて貰います。せやけど、抗争は終わりにして貰います。半年後には否が応でも戦う事になるでしょう。未知の敵とね。せやから今は力を温存しといて下さい。」
「半年後?」
「時期が来たらわかりますわ。いいですか?人族同士の抗争はお終い。今頃ギータンにもウチらの仲間が行ってるはずです。これで抗争は終了にすると誓いなさいな。」
「あ、あぁ。抗争はオレ様達の負けでいい。」
「んでは、半年後に備えて特訓でもなさいな。あなた達も人族の戦力には変わりありませんからね。」
「人族の…戦力?」
「ほな。さようなら。」
クルリと後ろを向いて部屋を出て行く翠鷹。それに続く紫鬼。
1時間も掛からずに大手の闇ギルド、ガブルを敗北させた紫鬼達は軽い足取りで宿屋へと戻るのだった。




