205話 ララ法国11
俺達がララ法国第二の都市ララ・ライカに到着したのは首都ララ・ダウトを出て8日目の夜の事だった。
強敵との遭遇はあのグリフォンくらいのもので、あとは王化せずとも倒せる相手だった。
しかし、王化持続時間の延長を目的とした訓練の為、皆交互に王化するようにして勝手に解けるまでは王化状態を継続させて来た。
そのおかげか紺馬と翠鷹の王化持続時間が35分に延びた。
5分延長に成功だ。まだ短い時間しか王化できない為、延びるのも早いようだ。
その点、白狐に紫鬼、俺は成長が見られない。
まぁ地道にやるしかないわな。
ここララ・ライカにも休息の為に立ち寄っただけで特に用事はない。
ただ酒場で軽く情報収集していたら1人だけ評判の悪い貴族がいることが分かった。
なんでも金に汚く、金のためなら何でもする、くらいの人物らしい。これは仕事のチャンスだ。
夜間、俺と白狐はコッソリと宿屋を抜け出した。
今回は白狐も着いてくると言って聞かないので連れてきた。
俺達は外套に付いた猫耳フードを被って屋根上を移動する。
白狐も買ってやった黒装束に身を包んでいる。
「今日は私も屋敷内に潜入しますからね。」
「何言ってんだ。白狐はいつも通り逃走経路の見張りでいいだろ?」
「嫌です。一緒に入ります。」
「なんだよ。分かったよ。」
俺が折れた。
目的の屋敷に着いた俺達は早速逃走経路を考えて1番近場の窓から侵入する。
石造りの3階建てだ。お宝部屋も3階にあると見るのがプロってもんだ。
音を立てないように静かに廊下を進む。
白狐も歩行で音を出すようなヘマはしない。
最初に入った部屋は荷物部屋のようで木製の枠組みや金属でできた置物などが置かれていた。
中には何に使うのかわからない物もある。
この部屋には用はなさそうなので、さっさと廊下に出る。
隣の部屋は書斎になっており、壁一面が本棚になっており、沢山の本が積まれている。この部屋にも用はない。
その隣は応接室のような造りになっており、ソファが2組向かい合い、真ん中に大きめのテーブルが置かれていた。
応接室に宝を置く人もいるまい。ここにも用はない。
その隣は宝箱が置いてある部屋、目当ての部屋になっていた。
ただし、ゴーレムの警備付きだ。
俺達が部屋に入るなり起動し、俺達をジッと見つめている。
ゴーレムは人型をしているが、その腕は地面に付くほどに長く、足元は車輪になっている。
頭の部分は半円状で十字に赤いラインが入っている。恐らくそこが目だろう。
今は合い言葉を待っている状態だ。
ここで正しい合い言葉を言わずに動き出すと襲い掛かってくるはずだ。
「あまり戦闘を長引かせると家主に見つかってしまいますよね。」
「あぁ。最短で仕留める必要があるな。」
「ちなみに合い言葉に心当たりは?」
「あるわけないだろ。」
「ですよね。行きます!」
話し終えた白狐は一気に加速しゴーレムに迫る。
その動きを捕らえたゴーレムが迎撃モードに移行する。
俺も白狐の後ろにピッタリとくっついてゴーレムへと迫る。
ゴーレムがその長大な腕を伸ばしてくる。
白狐はそれを避けながらゴーレムに肉迫すると、首にあたる部分に白刃・白百合を走らせる。
切断には至らなかったが中程まで斬り込むことには成功した。
それでもゴーレムは動機を止めない。
背後に抜けた白狐を追うように腕を伸ばしながら、次に迫る俺にまで腕を伸ばしてくる。腕の先には3つの鉤爪が付いており、開閉式になっていた。アレでターゲットを掴んで振り回すのだろう。
そんな腕を紙一重で避けた俺は残った首の接合部を狙ってナイフを突き刺す。
バチバチッと音がしてゴーレムが1度震えた。
これで止まるかと思われたゴーレムだったが、まだ動いた。
長大な両腕を振り回しながら俺達に迫る。
「首を斬っても止まらないとなると、胴体部分に重要機関がありそうですね。」
「あぁ。でも胴体部分は装甲が厚い。簡単には斬り裂けないぞ。」
「ふふふっ。私の剣に斬れないものはありません!」
そう言って刀を鞘に収めながら飛び出す白狐。
「抜刀術・飛光一閃!」
高速で振り抜かれた刀により放たれた一閃はゴーレムの身体を横一文字に斬られる。
それでも装甲を斬ったに過ぎずまだ止まらないゴーレム。
そんなゴーレムに向けて抜き身の刀を再度振るう白狐。
「抜刀術・閃光二閃!」
抜き身の白刃・白百合を目にもとまらぬ速度で振り上げると迫って来たゴーレムの胴体に縦一文字の傷が大きく開く。
ゴーレムは両腕を白狐に向けて伸ばしてくる。
白狐は跳び上がり両腕を避けると刀を振るった。
「抜刀術・発光三閃!」
その剣閃が通った先ではゴーレムの胴体が上下左右4つに斬られ、大きくめくれ上がっていた。その傷の中に光り輝く動力炉が見えた。
俺も飛び出しゴーレムの胴体の中央に位置する動力炉に向けて2本のナイフを突き刺した。
プシューッと音がしてゴーレムの腕が力なく垂れ下がった。
どうにか動きを止まられたらしい。
さて、邪魔者を排除してからはお楽しみのお宝探しだ。
箪笥の上には豪華な時計や宝石類が並ぶがそこには興味がない。
俺が狙うのは現金のみである。
宝箱を開けると銀貨、大銀貨が大量に入っていた。
しかし、金貨以上のコインが見当たらない。
俺は宝箱の銀貨、大銀貨を影収納に収めながら周りを物色する。
すると白狐が小さい宝箱を見つけてきた。
「クロさん、これこれ。」
開けてみせると金貨が数十枚に大金貨が十数枚入っていた。
「これこれ!」
俺はその小型の宝箱を受け取り、箱ごと影収納に収めた。
さて、貰うもの貰ったらサッサと去るのみである。
侵入経路だった部屋に戻り開け放った窓から外に出る。
暫く屋根上を走り、路地に降りてフードを脱ぐと何食わぬ顔で深夜デートを装い、宿屋に戻った。
盗賊の盗みについて発覚するのは日が昇り、街の人々が目覚めて暫くしてからの事である。




