202話 ララ法国10
ララ・ダウトを出て4日目にして衝撃の遭遇を果たした。
人族領にグリフォンである。
空を飛ぶ姿を見れば大きな翼の生えた獅子の様に見えてその頭は鷲のような嘴を備えている。
グリフォンと言えばドラゴンに並びSランクとされる魔獣で、人族領ではほぼ遭遇しないとされる魔獣だ。
ミスリル並みに硬質な爪を持ち、獲物を捕らえたら決して離さず、その鋭い嘴で生きながらその肉を喰われると言う。
体長は2~3m程。大型の肉食獣と考えればいいだろうか。
そんな魔獣が4体も空を飛んでいたのである。
「やはり聖邪結界が崩れた事で魔族領から魔物や魔獣が人族領まで雪崩れ込んでいるようですね。」
白狐が冷静に言う。
「遭遇したのがワシらで良かったな。普通の商人や傭兵が遭遇しても刃がたたんだろう。なんと言ってもSランクじゃからな。」
紫鬼もやる気漲る様子である。
「馬の事はワタシに任せろ。近付かれても弓矢で撃ち落とす。」
紺馬は馬達の守護をすると宣言。
「グリフォンなんてお話でしか聞いた事あらへんけど、ウチも精一杯やりますわ。」
翠鷹は若干緊張気味だ。
「では行きましょうか。紺馬さんはこの場で馬達の護衛を、その他メンバーで1人で1体相手にするだけです。余裕ですよ。」
馬を降り前に出た白狐が言う。
「王化。破王。」
白狐が王化し、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させるフルフェイスの兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となり駆け出す。
「王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が王化し、右腕にしたバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象ったフルフェイスの兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王形態となり駆け出す。
「王化!精霊王!」
紺馬が王化し、左手薬指のリングにはまる王玉から紺色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると馬を象ったフルフェイスの兜に紺色に輝く王鎧を身に着けた精霊王形態となる。
「王化!賢王!」
翠鷹が王化し、右手薬指のリングにはまる王玉から翠色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると鷹を象ったフルフェイスの兜に翠色に輝く王鎧を身に着けた賢王形態となり駆け出す。
最後に俺も王化する。
「王化!夜王!!」
左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が晴れると猫を思わせるフルフェイスの兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。
俺は影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出し、皆に続いて駆け出した。
俺達に気付いた上空のグリフォン達が騒ぎ出す。
こちらを獲物と認識したのだろう。
「「「「グェェェェェ!」」」」
腹の底に響く鳴き声を上げて急降下して来た。
白狐は迫るグリフォンの爪を抜刀した白刃・白百合で受け止める。
紫鬼は両手をクロスさせてグリフォンの爪をガードする。
翠鷹はグリフォンの爪を高速突きを放ち弾き飛ばす。
俺はグリフォンの爪を黒刃・右月で受け止めて黒刃・左月を振るう。
黒刃・左月は脚を切断までは至らなかったが、大きく切り裂く事には成功した。
チ血を撒き散らしながらグリフォンが再び上空へと昇って行く。
「グェェェェェ!」
先程よりも鋭い急降下だ。
しかしこの爪撃も黒刃・右月で受け止めると先程の傷をなぞるように黒刃・左月を振るう。
見事に同じ軌道で傷ついた脚を斬り裂いた黒刃・左月はグリフォンの前脚を1本切断した。
血を撒き散らしながら三度上昇したグリフォン。
上空から急降下してくるが、今度は鋭い嘴を下に1本の矢のように迫ってきた。
流石に全体重の乗ったこれは片手で受け止められそうにない。
俺は黒刃・右月と黒刃・左月を交差させてグリフォンの嘴をガードした。
グリフォンの突進の威力は凄まじく両手のナイフが弾かれてしまった。
そのまま顔面に迫る嘴をどうにか首を倒して避けたが、肩口に衝撃が走った。
また上昇して行くグリフォンを見送りながら確認すると王鎧にヒビが入っていた。
これをまた食らったら王鎧に穴が空きそうだ。
回避して翼を狙った方が良さそうだ。
グリフォンが再び矢のような速度で迫る。
俺はギリギリまで惹きつけると、大きく左に跳んだ。
グリフォンの嘴が地面を削る。
俺はグリフォンの右の翼に向けて黒刃・右月と黒刃・左月を振るった。
咄嗟に避けられた為に翼の根元ではなく、中程から切断する事には成功。
翼を傷付けられたグリフォンは尚も空に飛ぼうとする。
しかし、片翼を中程から失った事で上手く上昇出来ないようだ。
1m程の高さにまでしか浮かび上がる事が出来ないでいる。
俺は黄土が上がらないグリフォンに向かった行き、その翼を狙って黒刃・右月を振り抜く。
中程まで切断されていた翼を根元から斬り裂く。
完全に片翼を失ったグリフォンはもう飛ぶ事を諦めて突進のしてくる。
しかし、最初に前脚を1本失っている為にその突進速度はたいした事はない。
俺は迫るグリフォンの嘴を大きく跳躍する事で避ける。
さらにその突進の速度を利用して黒刃・右月と黒刃・左月をその背に突き刺し、グリフォン自身の力で背中を大きく斬り裂いてやった。
「グェェェェェ!」
大量の血を流しフラフラのグリフォン。
俺はその隣に素早く移動しその太い首筋に2本のナイフを走らせた。
大動脈を斬り裂いた為、それまでよりも激しく血が舞う。
これで終わりだ。後は力尽きるのを待つだけ。
見れば白狐はグリフォンの首を刎ねており、紫鬼はグリフォンの首を折っていた。
翠鷹はまだ戦っているが、グリフォンの流血が激しい。そろそろ終わるだろう。
「グリフォンの素材って高く売れますよね?」
白狐が大声で聞いてきた。
「あぁ。売れる。影収納に入る程度の大きさに切り刻んでくれ。」
俺も大声でも返す。
ここからはグリフォンの解体作業である。
やはり高く売れるのは嘴と爪である。
俺は切り飛ばした前脚を拾い上げ影収納に収める。
力尽きたグリフォンのもう片方の前脚も切る。あとは後ろ脚2本と鷲の頭を切り落とす。
グリフォン肉もなかなかに美味い。
だから胴体も忘れずに解体する。
白狐が解体した肉を紫鬼が運んできた。
俺は次々とグリフォンだった肉を影収納に収めていく。
その頃には翠鷹も倒し終わっていた。
細剣は解体には向かない。俺は黄土が影収納から解体用ナイフを取りだし翠鷹と紺馬に渡す。
翠鷹が倒したグリフォンに2人が向かった。
こうして無事にグリフォンを倒した俺達はララ法国のララ・ライカに向けて馬を進ませるのであった。




