199話 聖都セレスティア4
金獅子達が聖都セレスティアに到着したのはマジックシティを出立してから12日目の事だった。
久々に来た金獅子達は街の様子が異なる事に気付いた。
街並みを飾る提灯に出店の準備が進められ、いつも以上に活気がある。
「あぁ。そういえば主神祭の季節か。」
銀狼が呟く。
主神祭とは世界を構築したとされる唯一神、主神を崇め奉る行事であり、その機嫌は数千年前にまで遡る。
聖邪戦争の折には開催されなかったが、その後改めて開催されるようになり、以降200年間続いている世界的な祭りとなっている。
祭りの期間は1週間分、その間は出店が並び、最終日には花火も上がる。
なんと言っても目玉の行事としては主神の世界創造の劇である。
その内容は子供から老人にまで浸透しており、皆内容は把握しているにも関わらず、毎年大勢の人が鑑賞する。
その他にも出し物が盛りだくさんで美人コンテストからボディビル大会、大食い大会に我慢比べ大会など、毎日様々な催し物が行われる。
主神の世界創造の物語を簡単に説明しよう。
まず世界には主神、光陽神、暗黒神、創造神、破壊神の5柱がいた。
光陽神が世界を照らし、暗黒神が影を作る。
創造神が星々を作り、破壊神が星々を壊す。
そんな事が繰り返されていた。
そのうち主神が創造神の真似をして1つの星を作った。
その星には何もなく、ただのガス溜まりであった。
そこで主神は天空神、大地母神、大海神を造り、自らが作製した星に海と大地と空を作った。
母なる海は多くの生命を宿し、沢山の生き物が生まれていった。
そのうち、主神は自らに似せて人間を作製された。
また、人間に似せてエルフ、ドワーフなどの亜人種も作っていく。
やがて人間や亜人種は争う事を覚えて聖善神、今で言う聖神と邪悪神、今で言う邪神が生み出された。
また多くの戦、戦い、戦闘が起こることで戦神や闘神、武神に軍神、守護神なども生まれていった。
そして多くの命が失われて死神も誕生する。
そのうち神の1柱が人族同士の争いを止め、更に進化させる為に外敵となる魔族を生み出す。
魔族は魔物、魔獣が主であり、人々を襲った。
人族は魔族に対抗するために力を合わせる様になる。
しかし魔族も力を、知識を身につけ始め、魔人と呼ばれる種族も現れ始める。
人族と魔族の戦いは続き、やがて天界をも巻き込んだ争いに発展する。それが聖邪戦争である。
邪悪神と魔人が手を組み、巨人を殺した事に端を発して天界をも2分した争いは、聖善神とその仲間達が邪神を滅ぼした事で終結する。
その後地上界での争いも治める為に聖善神が聖邪結界を造り、人族と魔族の棲み分けを行った。
これにより地上界には平和がもたらされた。
その様な内容で劇は構成されている。
「主神祭か。懐かしいな。」
思い出すかのように金獅子は自慢の顎髭を撫でながら言う。
「オラァも1回だけ来たことあるよ。劇が凄かった覚えがある。」
「あぁ。あの劇を創るのに半年も前から準備しているらしいからな。」
銀狼が言う。主神祭にはそれなりに詳しいらしい。
「主神祭と言ったら出店とボディビル大会だな。俺様も出てみるか?」
「やめておいてくれ。獣王国の国王が出たら公正な審査が出来なくなるだろ?皆忖度しちまう。」
「むぅ。そうか。残念だ。」
「それにしても緑鳥は聖邪結界が崩れ去り、甲蟲人の侵攻も分かってるのに主神祭の開催を決めたんだな。」
「うむ。民草は甲蟲人の侵攻については知らんだろう。聖邪結界が崩れて心身ともに草臥れた民草を元気づけるつもりなのではないか?」
「まぁその辺りは神殿に行って直接聞くか。」
「そうだな。神殿に行くのは初めてだ。」
銀狼の提案に碧鰐が言う。
「聖都は来た事あるのに、神殿には行かなかったのか?」
不思議そうに問う銀狼。
「あぁ。祭りで来ただけだからな。出店を回って劇だけ見て帰ったんだ。娘もまだ小さかったからな。」
「そうか。家族で来たのか。」
「あぁ。そうだ。」
そんな会話をしているうちに神殿に着いた。
金獅子は神殿の掃除をしていた聖者に声を掛ける。
「俺様は獣王国の王、金獅子と言う。聖王に会いたいのだが緑鳥は今どこにいるか知っているか?」
「おぉ。これはこれは獣王様。お帰りなさいませ。聖王様でしたら今頃祈りの間にいらっしゃるかと。」
「そうか。龍王の蒼龍はどこにいる?」
「はい。蒼龍様は茶牛様と中庭にて訓練を行ってらっしゃいました。」
「そうか。ありがとう。」
金獅子は例を言ってその場を離れ、銀狼達の下へと戻る。
そのまま3人は中庭に移動する。
するとそこには蒼龍と1人のドワーフの姿があった。
あのドワーフが茶牛だろう。
ドワーフらしく短い体躯をしているが、中々に筋肉が付いており、ガッシリとした印象だった。
「おーい。蒼龍。今戻ったぞー。」
銀狼が声を上げる。
すると2人は訓練を中断し、3人の下へとやって来た。
「おぉ、帰ったか銀狼。変わりはないか?」
同じ義手を付けた者同士その状況を尋ねてしまう。
「あぁ。俺の方はもう実戦も沢山のこなして馴染んだ。蒼龍の方はどうだ?」
「うむ。こちらも問題なく動いている。魔族領のモノよりも動きがスムーズだ。」
「確かにそれはオレも思ったよ。流石オリハルコン製って感じだよな。」
「そうだろうぅ。うちの義手は世界一だべぇ。」
「あぁ、完璧だな。」
「その義手を造ったのが茶牛?と言う訳か?」
「あぁ。こちらは茶牛。大地母神の加護持ちの地王だ。」
「茶牛だべぇ。よろしくなぁ。」
茶牛が頭を下げる。
「うむ。俺様は金獅子。獣王国の王をしておる。獣神の加護を持つ獣王だ。そしてこっちは碧鰐。」
「どうも。碧鰐です。守護神の加護を受けています。」
スキンヘッドの頭を下げる碧鰐。
「よし、お互いの挨拶も済んだ事だし、緑鳥に会いに行こう。碧鰐を紹介しないとな。」
「おぉ。製王様だな。噂でしか知らんが1度に数百人を一気に癒やせるだけの聖術の使い手だとか?」
「そうだな。我々はじっさいにそれを魔族領で目撃したよ。」
「おぉ。噂は本当か。会うのが楽しみだ。」
碧鰐がそう言うと金獅子を先頭に祈りの間に向かう5人だった。




