194話 ケイル王国2
俺達は無事にケイル王国の首都ケイルに到着した。
ワンズを出てなんだかんだ10日掛かった。
やっぱり森を突っ切らずに街道を歩いたせいだろう。
久々の長旅に疲れた俺だったが、白狐達は旅慣れしているのかケロッとしている。
「随分長旅にも慣れたんだな?」
俺が聞くと
「いやー、今までの旅は携行食ばかりで飽き飽きしてましたが、クロさんがいると毎日食事が楽しみで。」
「うむ。クロがいれば長旅も怖くはないな。」
「ワタシも夜王の料理の虜だ。今日は何を食べさせてくれるのだ?」
「ウチも王宮で食べるご飯よりも美味しい家庭料理は初めてですわ。旅の間にあれが食べられるなんて素敵やん。」
みんな食事が携行食じゃなくなって旅がし易くなったんだとさ。
まぁ料理は嫌いじゃないし、美味いと言って食べて貰えるからいいんだけどな。
俺達は馬留に馬を預けて宿屋に向かう。
ここケイルに寄ったのは少しでも旅の疲れをとる為だ。
マットレスも買ったとは言え、やはり野営で寝るのと宿屋で寝るのじゃ疲れの取れ具合が違う。
ケイル王国の首都ケイルは森に囲まれた土地の為、木造住宅がほとんどを占めていた。
唯一石造なのは王城くらいか。
先のララ法国との戦争に負けて敗戦モードかと思われたが、街の人達は特に気落ちするでもなく、普通に生活している。
「戦争に負けた国にしては普通だな。」
思わず口にすると、
「今回は敗戦国への賠償金などはありまへんからな。条件は唯一、有事の際には戦勝国の下について戦う事。それだけにしましたから民衆には影響はありませんわ。」
翠鷹が教えてくれた。
「詳しいな。」
「ウチ、ララ法国の軍師してましたんよ。」
「そうだったのか?それはそれは。」
どうりで詳しい訳だ。
俺達は宿屋に到着し、それぞれ部屋を取る。
当たり前のように俺が会計してたら紺馬も翠鷹驚いていた。
「夜王。ホントにお金持ちなんだな。」
「5人分の宿泊費をポンと出せるなんて気前がええなぁ。」
前の旅ではほぼ全ての買い物が俺の財布から出ていたから気にもしなかった。
確かに今まで旅してきたんだから白狐達にも蓄えはあるはずである。
「んじゃ次泊まる時は出して貰おうか。」
俺が言うが無視された。なぜだ。
ひとまず荷物を各自部屋に置いてカウンター前に集合した。
今から飯を食べに行くのだ。
流石に俺も毎回料理するのはしんどい時もある。たまには人が作ったものも食べたいのだ。
宿屋の主人に話を聞くと、有名なハンバーグを出す店が近くにあるらしい。
そこに行ってみる事にした。
件のハンバーグ屋は大盛況で満席だった。しかし、別にこの後予定があるわけでもないので待つことにした。
「並んでまで食事するってのは初めてだな。」
紫鬼が言う。
「神徒捜しは時間との勝負でしたからね。あまり混んでる店は入れなかったですもんね。」
「ワタシも並ぶくらいなら別の店を探すな。」
「ウチも法国では立場があったもので、大衆料理屋に並ぶのは初めてやわ。」
翠鷹が言うので聞いてみた。
「やっぱり軍師様ともなると大衆料理屋には並べないものなのか?」
「いや。ちゃいます。立場があったから優先して入れて貰えたんですわ。それか予約してから行きましたわ。」
なるほど。特権階級ってやつか。
「そもそも大衆料理屋にもあまり行きませんでしたけどね。」
やっぱり軍師様ともなると高級店にしか行かなかったらしい。
大衆料理屋にも美味い店はあるのに勿体ない。
そんな事を話していたら席が空いたらしい。俺達5人は店に入る。
そこは如何にも肉料理出してますと言わんばかりの肉の焼ける匂いが漂い、肉を焼く音が聞こえてくる店だった。
俺達は1番人気のハンバーグ定食を頼んだ。
暫く待つと料理が運ばれて来た。
ハンバーグは鉄板に乗っており、ハンバーグの隣にはペレットが乗っている。
「うちの店は生でも食べられる肉を使ってますんで、レアで提供しています。良く焼きがお好みでしたらペレットでご自分で焼いてから召し上がって下さい。」
定員は説明すると去って行った。
大盛況なだけにホールスタッフも忙しそうだ。
早速食べ始める。
「「「「「頂きます。」」」」」
ハンバーグの肉は粗挽きのミンチ肉と細挽きのミンチ肉が絶妙な割合で混ざっており、肉々しい歯応えと滑らかな口当たりの完璧なハーモニーを奏でていた。
「これは美味いな。」
「えぇ。美味しいです。」
「レアな所も肉を感じられてええですねぇ。」
紺馬は生肉が苦手なのかペレットで良く焼いてから食べていた。
無言で黙々と食べているので気に入ってはいるのだろう。
俺は気になったのでホールスタッフに聞いてみた。
「これは美味いハンバーグだな。粗挽きと細挽きの割合はどのくらいなんだ?」
「え?割合ですか?ちょっと待って下さい。シェフに聞いてきます。」
「あぁ。ありがとう。」
暫くしてシェフが自らやって来た。
「肉の割合を聞くなんて他者のスパイかと思ったが、その格好からして傭兵かい?」
「あぁ。傭兵だ。料理が趣味でね。出来れば自分でもここのハンバーグを再現してみたいと思ってな。」
「ははっ。再現か。面白い事を言う傭兵だな。気に入った。いいぞ。レシピを教えてやろう。」
「いいのか?レシピまで教えてしまって?」
「その代わり店を出す時には一声かけろよ?」
「あはは。自分の店は出さないさ。」
「どれ、レシピを書いておくから会計の時に渡そう。」
「すまんね。助かるよ。」
俺が礼を言うと片手を上げてシェフは厨房に戻って行った。
こうして美味いハンバーグのレシピを手に入れた俺達は宿屋に戻るのだった。




