179話 モーノ共和国7
碧鰐が名乗った為、金獅子達も名乗る。
「俺様は金獅子。こっちは銀狼だ。よろしく頼む。」
「あぁ。娘の恩人であれば大歓迎だ。泊って行ってくれ。」
「助かる。」
「まぁこんなところで立ち話もなんだ。中に入ってくれ。」
碧鰐に促されるままに家の中に入る2人。
中は外見からは想像出来ないくらい広かった。
「それに村で探し人だって?オラァこの村には20年以上と長げぇからな。人探しにも役立てると思うぞ。」
「あぁ。それはもう叶ったかもしれない。」
「ん?」
「率直に聞くがアンタは神の加護を持つ神徒、王か?」
「ん?なぜ神徒の事を知っている?」
「オレ達も神徒だからだ。オレは戦神の、こっちの金獅子は獣神の加護を授かっている。」
「なんと。あのお告げは本当だったのか。」
「お告げ?」
「あぁ。5カ月くらい前になるか。唐突に守護神を名乗る光の玉に遭遇してな。神徒に選ばれた戦士だから他の神徒と共に地上界を救えとのお告げを貰ってな。その時に仁王の名を頂いた。」
「おぉ!やはりアンタが仁王で神徒か。良かった。オレ達の探し人はアンタだよ。」
碧鰐はスキンヘッドの頭を掻きながら言う。
「そうか。あんたらが神徒か。したらばオラァを迎えに来たって事か?」
「話が早いな。その通りだ。一緒に聖都セレスティアに来てくれ。他の仲間達もそこに集まる予定をしている。」
「むぅ。しかし、今この村を離れる訳にはいかん。」
「どうして?」
「今は魔物が活性化している。聖邪結界の崩落が原因だろう。魔族領からも見知らぬ魔物が現れるようになった。」
「あぁ。それは把握している。俺様達は邪神復活の影響ではないかと思っている。」
「むぅ。そんな今この村を離れればガダン同様に魔物のスタンピードに遭遇した際に村を守れる者がいなくなる。」
「ガダンは魔物のスタンピードで滅びた訳ではないぞ。魔族が攻め入ってきた為に犠牲になったのだ。」
「なに?聖邪結界が崩れて魔族の侵攻が懸念されていたがガダン以降以外の話は聞いていない。だから魔族の侵攻ではなく魔族領から押し寄せた魔物のスタンピードに巻き込まれたのだと聞いていたが?」
「いや。違うんだ。魔族は確かに人族領への侵攻を計画していた。それを俺様達が聖王ら仲間達と共に阻止したのだ。帝国軍兵士達も一緒だったからな。そちらにも確認すればすぐわかる事だが。」
金獅子は顎鬚を撫でながら言う。
「まぁガダンの事はともかく、今この村を離れれば残った者達だけでは村の防衛に不安が残る。」
「そんな。言っている事はわかるが村ではなく地上界全土の危機なんだぞ?」
「オラァにとってはこの村がすべてだ。地上界が無事だろうとこの村、家族が無事でなければ意味がない。」
「まぁそうだろうな。俺様は家族はいないがいればそちらを優先したくなる気持ちも分らんでもない。」
「ちょ。金獅子の兄貴。いいのかよ?」
「まずは今の俺様達の置かれている状況を正確に伝えよう。そこまで詳細は守護神からも聞いていないのだろ?」
「あぁ。地上界の危機としか聞いていない。」
「うむ。まずは今から5カ月くらい前、俺様達は魔族軍の親玉である大魔王を打ち倒した。」
「魔族軍か。」
「そうだ。それでその大魔王は邪神の復活を目論んでおってな。大魔王を打ち倒したのだが奴は最後に自分の命を捧げて邪神を復活させたのだ。」
「邪神の復活…邪神は200年前に滅びたはずではないのか?」
「うむ。200年前は亜空間に封印する事しか叶わなかったらしい。で、その亜空間の封印を大魔王が解いたという訳だ。」
「なんと。」
碧鰐はスキンヘッドの頭を両手で抑える。
「それで邪神の奴は亜空間で甲蟲人なる蟲の化け物を育てておってな。その中の蜚蠊と言う奴との戦闘になったのだが、これが強くてな。神徒4人掛かりでやっと倒したくらいだ。」
「4人掛かりで。」
「うむ。そんな甲蟲人を12カ月後に地上界に1月に1回ずつ侵攻させると言うのが邪神の言い分だ。そして13か月後には自ら地上界を蹂躙しに来ると言っておった。」
「今から5カ月前の12か月後という事はあと7か月くらいか?」
「あぁ。そうだな。そんな甲蟲人と戦うには俺様達、王も強くならねばならん。そこで王を集めつつ、聖都にて特訓しようと言うのが俺様達の考えだ。」
金獅子の説明が終わり、頭を押さえていた碧鰐を真っすぐに見つめる。
「碧鰐は王化は試したか?」
「王化?あぁ。あの鎧を纏うやつだろ?」
「あぁ。流石に知っているか。その王化持続時間はどの程度だ?」
「持続時間?いやいつも戦闘は30分くらいで終わるからな。30分以上は試していない。」
「じゃあ、一度ここで王化を試してくれないか?俺達は王化持続時間が1時間程度だが、甲蟲人がどのくらいの軍勢で来るかもわからない以上、2時間以上は王化を持続出来ないとまずいと考えている。」
「はぁ。じゃあ王化するぞ?王化!仁王!」
碧鰐が声を上げると、右手人差し指につけたリングにはまる王玉から碧色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると鰐の意匠が施されたフルフェイスの兜に碧色の王鎧を身に着けた仁王形態となった。
「あぁ。それが仁王形態か。それで最長どのくらい王化していられるか試して欲しい。」
「分かった。」
それから30分後、仁王の王化が解けた。
「やっぱり30分程度が限界のようだな。」
「あぁ。今まで30分以上の戦闘はなかったからな。これで十分だった。」
「しかし甲蟲人との闘いでは最低でも2時間は王化を持続させたい。そこで聖都なんだ。神に一番近い場所と言われる聖都であれば王化持続時間を飛躍的に延ばせると考えている。現に聖王なんかは3時間の王化を可能としているしな。」
「むぅ。しかし村がなぁ。」
その話を横で聞いていた碧玲と妻が碧鰐に言う。
「あなた。この方達の話が本当なら世界の危機じゃないの。」
「そうよ。お父さん。村がどうとか言ってる場合じゃないわ。」
「むぅ。しかしなぁ。」
「村の事なら大丈夫よ。太郎平さんもいるし、次郎長さんもいる。狩人の人達だっているんだし、最近はお父さん1人で魔物退治してるけど、以前は皆で対応していたじゃない。」
「そうよ。あなた。村も大切だけど、それ以前に世界が壊されたら村どころの話ではないわ。行ってらっしゃいな。」
「むぅ。」
「私達なら大丈夫よ。世界を救ってきて。」
「そうだよ。お父さんが世界を救う一員だなんて娘としては誇らしいわ。」
「むぅ。そうか?」
碧鰐のスキンヘッドを撫でながら妻が言う。
「あなたなら大丈夫。世界も村も救えってくれるって信じてる。行ってきてちょうだい。」
「むぅ。そう言う事なら。金獅子と銀狼と言ったか?よろしく頼む。」
「あぁ。仲間になってくれるんだな?ありがとう。」
「うむ。これで4人。あと2人だな。」
こうして碧鰐が仲間になったのである。




