176話 聖都セレスティア1
一方その頃、聖都セレスティアでは緑鳥が聖王の名の下に各国の代表者へと邪神復活の事、甲蟲人の襲来の事、地上界防備の為、各国の力を借りたい事などを書いた手紙を各国の代表者に向けて発送したところだった。
各国に使者を送り、返答を待つ。旧王国に関しては都市毎に管理者が異なってしまっている為、各都市に向けて手紙を書いて使者を送った。
そして聖都に残った蒼龍と茶牛は王化の特訓をしていた。
と言うのも、茶牛が
「ところで儂は鍛冶専門でなぁ。戦闘なんてギガントワームが出た時とたまに素材集めに魔物を狩りに行った事くらいしかないぞぉ。だから王化も数える程しかしとらんでぇ。」
と言い出したからだ。
王化はすればしただけ持続時間が延びる。
試しに茶牛に王化させてみたが、王化をしてこなかった分、30分が最大王化持続時間だった。
これでは甲蟲人との戦闘なんて続けられないと焦った蒼龍と茶牛による特訓が始まったのだった。
今のところ1番長く王化出来るのは緑鳥で、3時間が限界だった。
次に蒼龍と白狐が2時間。
その他は1時間と言ったところだ。
緑鳥が1番長いのは神交などの時にも王化していた為、単純に王化してきた回数が断トツだったからだ。
蒼龍は甲蟲人襲来までに3時間以上王化持続出来るようにしたいと考えていた。
武王形態になると王化持続時間が半分程度になる為、もっと長く王化出来ていないと甲蟲人がどれほどの大軍で来るか分からないため不安が残る。
そんな蒼龍達の為に緑鳥は神に繋がりやすい場所として祈りの間に入る事を許可した。
今は戦闘訓練ではなく、王化持続時間を延ばす特訓中なのである。
最初に1時間の王化を可能にしたのは茶牛だった。
30分から1時間に延ばすのは容易い。
そこからさらに延ばすのが難しい。
ひとまず現時点での最大王化可能時間までは王化している必要がある。
王化を解くとクールタイムが存在する為に次に王化出来るまでが時間が空く。
その間は王化出来ない為、祈りの間を出て戦闘訓練に入る。
蒼龍と茶牛では最大王化可能時間が異なる為、一緒に戦闘訓練に入るのは4時間に1回、1時間程度になる。
一緒に入れない時は紅猿の残した棍を振っての筋力トレーニングだ。
紅猿の棍は実質直径1mの高さ2mの木を叩いて圧縮したものなので、切り出して作り上げた同じ2mの木の棒とは重さが段違いである。
筋力トレーニングにはもってこいなのであった。
そんなトレーニングを毎日夜間まで続け、夜になったら寝る。を繰り返していたのだが、蒼龍も茶牛も少しバテてきた。
「あまり根を詰めずに、まだ半年ありますから。」
と緑鳥から休息を取るように進められた。
そんな事もあって今日は2人で聖都セレスティアの街を散策している。
「ほぉ。聖都に来るのは初めてだが、ドワーフ王国とはこうも違うんだなぁ。」
ドワーフ王国は土壁の1階建ての家屋が主だったが、聖都セレスティアでは煉瓦造りの2階建て家屋が主だ。中には3階建ての家屋まである。
「確かにな。龍の谷でも岩山から石をくり切り取ってきて石造の1階建てが主だったからな。こうも2階建てが並ぶと圧迫感すらあるな。」
「そうか。蒼龍は龍の谷の出身かぁ。昔の知り合いが龍の谷付近で竜骨って呼ばれるドラゴンの化石を掘り出してきてなぁ。珍しい素材だったから羨ましかったもんだぁ。」
「ふっ。そうか。全て片付いたら招待しよう。採掘ポイントなんかも案内出来ると思う。」
「ホントかぁ。そりゃ楽しみだなぁ。」
そんな会話をしながら街並みを歩く。
昼食時になり辺りにカレーの匂いが広がった。
「カレーか。今日の昼はカレーでいいか?」
「カレー?いいぞぉ。」
2人はカレーの匂いを漂わせる食堂に入っていった。
「チキンカレーを1つ。」
「儂も同じもので頼むわぁ。」
そうして運ばれてきたカレーを食べる2人。
「ふむ。店のカレーより美味かったな。」
「ん?どうしたぁ?」
「いやな。以前一緒に旅をしていた黒猫と言う奴が料理が上手くてな。特に奴の作るカレーは絶品だったんだ。」
「ほぅ。そうかぁ。そいつは今何してるんだぁ?他の神徒探しかぁ?」
2人ともカレーを食べる手は止めずに話をする。
「いや。以前の大魔王との闘いで王化する事牙出来なくなってしまってな。今は我々を離れて行った。」
「王化出来なるなっただぁ?そんな事もあるのかぁ?」
「うむ。正確には夜王は別の猫又の方でな。その猫又に取り憑かれていたから黒猫が王化出来ていたんだ。」
「なんとまぁ。その猫又が離れて行ったのかぁ?」
「いや。猫又のヨルは大魔王との闘いで殺されてしまったのだ。だから黒猫は王化出来なくなった。」
「そんな事があったんかぁ。大魔王との闘いも大変だったんだなぁ。」
「あぁ。しかし甲蟲人、邪神との闘いもそれ以上に過酷なものになるだろう。我らも早く力を付けねばな。」
「そうかぁ。まぁ儂も出来る限りの事はするでなぁ。」
そう言って食事を終えた2人は示し合わせたように神殿へと戻って行く。
更なる力を求めて、内なる闘志を燃やしつつ、特訓に戻っていくのであった。




