171話 ララ法国1
白狐達がララ法国の第二の都市ララ・ライカに到着したのはヌイカルド連邦国の首都ヌヌスを出立してから11日目の事だった。
途中、緑鳥達が聖都セレスティアに戻ったとの連絡を受けている。
ララ・ライカまでの道程はオークやオーガとの遭遇もあったが比較的スムーズに進めていた。
ただ1回だけクリムゾンベアの親子に遭遇して激しい戦闘になった。
その時に白狐達は初めて紺馬の王化した姿を見たのだった。
移動は早馬だけでなく、馬車を曳く馬も一緒の為、基本的には街道を進んでいた白狐達。
その為、魔物にもそこまで多く遭遇しなかった。流石に魔物も人の手が入った街道沿いにはあまり出てこない。
時々森の横の道を行く時に森から魔物が出てくるくらいのものだった。
だからその時は唐突にやってきた。
両サイドを森に囲まれた街道を走っていた時。右手の森からレッドベアが8体、左手の森からクリムゾンベアが3体出てきた。
どうやら縄張り争いの真っ只中だったようで、不運にもそんな場所に遭遇してしまったのだ。
クリムゾンベアを見た白狐の判断は速かった。
乗っていた馬の手綱をを木に縛り付けて言う。
「クリムゾンベアです。王化して挑みましょう。王化!破王!」
白狐が声を上げると、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させるフルフェイスの兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となり、抜刀の構えを取る。
同じく馬を下り手綱を木に縛り付けた紫鬼が叫ぶ。
「王化!鬼王!剛鬼!」
紫鬼が声を上げると、右腕のバングルにはまる王玉から赤紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に2本の角を持つ鬼を象ったフルフェイスの兜に赤紫色の王鎧を身に着けた鬼王形態となる。
紺馬も馬車を曳く馬の手綱を木に括り付けてから声を上げる。
「王化!精霊王!」
紺馬が声を上げると、左手薬指につけたリングにはまる王玉から紺色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると馬の意匠が施されたフルフェイスの兜に紺色の王鎧を身に着けた精霊王形態となった紺馬が弓矢を構える。
まずは遠距離から紺馬が弓矢を射る。
その時、紺馬は矢を番えていなかった。
風の矢を生成して弓に番えていたのだ。これが精霊王の能力。風の精霊の力を借りて風の矢を生成する事が出来るのだ。
1度に3本の風の矢を番えてクリムゾンベアに向けて射る精霊王。
「「「ギャィン!」」」
その矢は動き回るクリムゾンベアの右目に直撃した。しかも3体同時にである。余程の精度である事が窺える。
風の矢を受けたクリムゾンベア達は精霊王達を敵だと認識したようで、真っ直ぐに向かってくる。
破王はレッドベア達に向けて刀を振るう。
「飛剣!鎌鼬!」
先頭にいたレッドベアの片腕が切断されて宙を舞う。
「飛剣!鎌鼬!」
先頭のレッドベアの首が刎ねられドサリと倒れる。
その頃にはレッドベア達も破王達を敵と見なして突進して来た。
1番最初に近付いて来たクリムゾンベアの矢で射られた右目側に立ち、強烈な左フックをお見舞いする鬼王。しかし、クリムゾンベアは首を曲げただけで吹き飛びはしなかった。
強靱な首の筋肉が成せる技である。
しかし、続けて放たれた右ストレートを鼻先に受けたクリムゾンベアは仰け反って倒れ込む。
「ギャイン!」
後方に続くクリムゾンベアには精霊王が放った風の矢が雨のように降り注ぐ。
「ガルルゥゥ!」
「ガウゥゥ!」
威嚇の声を上げるクリムゾンベア。
構わず精霊王は矢を射続ける。
狙いを付けずに放つ矢の数は5本。近付いて来ている為、5本の矢は全てクリムゾンベアの体に突き刺さる。
それでも突進を止めずに鬼王へと迫るクリムゾンベア。
またも右目を射られて死角となった位置から左フック、空の右アッパーをぶち当てる鬼王。
クリムゾンベアは仰け反るが倒れはしない。そこに追撃の左ストレートを鼻先へと叩き込む。
「ギャイン!」
またしても倒れ込むクリムゾンベア。しかし残りの1体はすでに目の前におり、鬼王へと爪擊を放って来た。
左腕を上げてこれをガードする鬼王。お返しとばかりに右のジャブを鼻先へと叩き込む。
少し怯みながらも爪擊を繰り出すクリムゾンベア。
暫くは鬼王がガードしながらジャブを当てる動作が繰り返される。
倒れ込んだ2体目のクリムゾンベアには精霊王の風の矢が嵐のように降り注ぐ。
「ギャイン!」
うち1体は無事だった左目にも矢が刺さり視力を失った。
それでも戦意は喪失せずに立ち上がると矢を射る精霊王に向かって突進してきた。
精霊王の後ろには馬達がいる。避けるわけにはいかない。
そこで精霊王は弓の鳥打に付いた刃でクリムゾンベアの首下を狙って薙ぐ。
「ゴボッゴポッ」
首下をザックリと斬られ血を吹き出し、首の傷口から空気を吐き出しながらもクリムゾンベアは爪擊を放ってきた。
視覚が失われている為、辺り構わず腕を振るっている状態だ。
精霊王は至近距離から首の傷口に向けて5本の矢を射る。
射られた矢はクリムゾンベアの首を貫通し、その動きを止めたのであった。
鬼王と壮絶な殴り合いを見せていたクリムゾンベアも強烈な右ストレートを受けて吹き飛ばされた。
破王は近付くレッドベア達を一刀の元に斬り捨てて行く。
精霊王の矢を浴びて蹲っていたクリムゾンベアも起き上がると鬼王に向けて炎を吐いてきた。
これには堪らず鬼王も後方に下がる。
すると精霊王が声を上げる。
「水の精霊よ。力を貸し給え!」
すると精霊王の番える矢が水の矢となる。
各種精霊の力を借りる事で様々な属性の矢を射る事が出来るのだ。
炎を吐くクリムゾンベアの口元に水の矢を放つ精霊王。
猛烈な炎の中に急に水分が入った事で水蒸気爆発が起こる。
口の中で爆発が起こったクリムゾンベアは後ろ向きに倒れる。
そこに精霊王が矢を射る。射る。射る。
全身穴だらけになったクリムゾンベアは動かなくなった。
吹き飛んだクリムゾンベアを追って鬼王が猛攻を仕掛ける。
倒れ込んだクリムゾンベアに跨がり顔面を殴る。殴る。殴る。
やがてクリムゾンベアは力を失い果てたのだった。
そんな戦闘を終えた3人。
紺馬の王化の力、精霊に力を借りて様々な属性の矢を放てる事を知ったタイミングであった。




