169話 モーノ共和国3
次の日からも酒場や傭兵ギルドに顔を出して情報収集をし、夕方になったら賭博場でルーレット台に賭ける事を続けた。時には2件の賭博場をはしごする事もあったが、毎日どこかしらでダブルアップ10連勝以上を繰り返した。
情報収集を開始して5日目には『ダブルアップの獅子獣人』として各賭博場で有名になった。
賭けるのは毎回レッド・ブラック、赤か黒かを選択する賭け方だ。
中には金獅子の賭け方を真似して儲ける奴も出てきた。
最初のバレールの賭博場こら数えて10軒目まで負けなしである。
毎回1000万リラから4000万リラ程度を稼いで行く。
最大でも12連勝で止めておく。
それにしても凄い確率である。
2択とは言え、こうも連続で当てるとなると天文学的な確率になる。
それでも当の本人は情報が上手いこと集まらずに日に日に元気がなくなっていった。
もうこの街での情報収集は限界かもしれない。そう思っていた。
だが銀狼が合流するであろう日にちには後2日あった。
金獅子は気分転換を兼ねて傭兵ギルドで魔物討伐の依頼を受ける事にした。
聖邪結界が崩れてからと言うもの、人族領にも今まではいなかったような魔物が出没するようになった。
その1つがキメラである。
キメラと言うのは獅子の頭に山羊の体をしていて尻尾が蛇の魔獣だ。
魔族領ではしばしば遭遇したが、人族領では初である。
街からは少し離れた所に出没したようなので、1日分の食料と水を買い込んで行く事にした。
金獅子は食料を詰め込んだバックを片手に大剣を背負って街の外に出る。
出没場所は街から西に行った草原らしい。
近隣に出る魔物は他の傭兵によって駆逐されているようで、何にも出合わず草原へと辿り着いた。
情報は街の西というだけで、具体的な目印なども無い草原である。
金獅子はキメラを求めて8時間彷徨った。
そして遂に上空を旋回するキメラ2体を発見したのであった。
キメラは今まで人族領に居なかった為、魔物ランクがまだついていなかった。
金獅子の感覚的にはAランクに近いBランクと言ったところだろうか。
見た所、どちらも体長は3m程度だろうか。
「2体同時となるとちとキツいか。王化!獣王!」
右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獅子を想起させるフルフェイスの兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王形態になる金獅子。
「よし、準備万端だ!」
上空を飛ぶキメラに向かって走る。
キメラも接近する獣王に気が付いた。
「ギョエェェェェエ!」
大口を開けて急降下してくる。
「とりゃ!」
ガキンッ
金獅子が大剣を振るうとキメラの牙に当たり、硬質な音が響く。
牙を1本折ってやった。
そこにもう1体が急降下してきて、鋭い爪で、爪擊を放つ。
すぐさま大剣でガードする。
そのままガードした大剣を振り回して再び上空に飛ぼうとしたキメラの尻尾を切断した。
蛇になっている尻尾は中程から切断され、地に落ちた蛇の頭は暫く動き続けたが踏んづけて殺した。
牙を折った個体が性懲りもなく、再び大口を開けて急降下して来た。
「どりゃ!」
大剣を振り抜き、もう1本牙を折ってやった。
2体目が再び爪擊を繰り出してくる。
これを大剣で受け流すと振り下ろされた腕に向かって大剣を振るう。
ドサッと音が鳴り、キメラの片方の前脚が落ちる。
「キョエェェ!」
前脚を切断された個体が鳴く。
「ギョエェェェェエ!」
それを見たもう片方の個体も爪擊を放って来た。もう牙を折られたくはないのだろう。
金獅子は大剣で受けると、片翼に向かって大剣を振り下ろした。
「ギョエェェェェエ!」
片翼を失い飛べなくなったキメラが突進してくる。
「てりゃ!」
金獅子は上空に跳びながら残った片翼も切断する。
「ギョエェェェェエ!」
苦悶の声を上げるキメラ。
片方の前脚を失った個体が大口を開けて急降下してくる。
「キョエェェ!」
今度は牙ではなく頬を狙って大剣を振り抜く。
「キョエェェ!」
耳元までザックリと斬られたキメラは再び上昇する。
一方の翼を失った個体は再び突進してくる。
「ていっ!」
金獅子は跳び上がると上下逆さまの状態となり、キメラの首筋を狙って大剣を振り抜く。
ドサッと音がしてキメラの首が落ちるが、体の方は慣性の法則にしたがって自身の首を蹴りながら前に進んでドサリと倒れた。
残るは翼のある片腕のキメラである。
また大口を開けて急降下してくるキメラ。先程同様に頬肉を斬るように大剣を振るう。
今度はそのまま頭蓋を切断し、頭を半分にした。
上顎から上を失ったキメラは急降下の勢いそのままに地面に激突し、動かなくなった。
キメラは頭は獅子、体は山羊、尻尾は蛇という事もあって、討伐証明部位が複数必要になる。頭だけ持ち帰ってもただの獅子と区別がつかない為だ。
討伐証明部位は獅子の頭に蛇の尻尾である。
3m級の頭となればそれなりに大きい。
金獅子は持参した大きめのビニールシートに2体分の頭と蛇の尻尾を詰め込み、包んで縛った。
結構な重量がある。それを背負って街へと戻る。
途中夜になった為、1泊野営する。
一晩明けて街へと戻り、傭兵ギルドに討伐証明を提出して報酬を受け取った。
2体分で大金貨1枚の収入である。
正直ここ数日のギャンブルでの稼ぎの方がよっぽど多かったが、それはそれである。
さて、今日は無事に進めていれば銀狼が到着する日だ。
到着するまではいつも通り情報収集しようと酒場に顔を出す金獅子であった。




