157話 マジックシティ2
無事に学院生となった金獅子はひとまず基礎だけでも学んでおこうと思い、早速渡された学院マーク入りのマントを羽織って授業に参加する事にした。
学院ではそれぞれの教諭が行っている授業一覧を渡されて、自分で好きな授業を受ける事が出来た。
その中でも基礎となる学科は多数の教諭が担当しており、基礎が不十分な学院生は何度でも同じ内容の授業を受けられる。
そんな授業に金獅子も参加してみる事にしたのだ。
基礎中の基礎である魔素の動きを見る為の授業には十数名の学院生が受講していた。
強力な階級の魔術にはそれ相応の魔素を魔力に変換する必要がある為、すでに初級魔術が扱える者もより強力な階級を覚える前に再受講したりするらしい。
まずは体で魔素を感じる事から授業は始まった。
魔素とは普通に暮らしている中にも存在する空気みたいなものであり、それを感じるか感じないかだけの違いなのだと教諭は言う。
魔素を感じる為に意図的に魔素を濃くした場所と薄くした場所とを交互に行ったり来たりする。
その違いに少しでも気付ければ魔素を感じる事が出来ている証拠となる。
あとはどの程度の濃度の違いがあるかを感じ取ったり魔素の流れを視認する訓練を続ける。最初の授業は実地訓練に近かった。
魔素の濃い場所と薄い場所を往復すること数十回。金獅子にも少し差がわかってきた。意識してみると濃い場所での呼吸の方が少し苦しい。これは体内に魔素を取り込んでいるかららしい。
魔族でも無い限り、体内に入れた魔素を自力で魔力変換させる事は出来ないとの事で、人体に影響はないが、大気中の空気の割合が少なくなる為に呼吸し辛さに繋がると教諭が言っていた。
1度意識してみると次からは明確に違いが分かるようになってきた。
まさに体で覚えさせる授業だ。
そしてさらに往復すること数十回。
次第に魔素の流れが視認出来るようになってきた。
もちろん魔素の濃い場所だけだが、明らかに大気中に漂う揺らぎのようなものが見え始めた。
これが魔素の薄い場所でも見てるようになれば第1関門突破らしい。
この日は1日中の魔素の濃淡を感じる事に費やした金獅子はヘトヘトになりながら宿屋に戻った。
夕飯も軽く摂った後は泥のように眠った。
翌日も翌々日も金獅子は魔素を掴む授業に明け暮れた。
そこでようやく魔素を感じ取る事が出来るようになった。
普通は座学等を交えながら1ヶ月程度かけて段々慣れていくものらしいので、金獅子のやり方は特殊だとの事だ。
おかげでこの3日間は大爆睡だった。
肝心の魔石魔術の研究者はまだ到着しない。
次の日からは実際に魔素を魔力に変換する魔術式を学んだ。
「魔素よ集まれ、集まれ魔素よ。水の力へとその姿を変えよ。」
魔素が薄いもしくは威力を上げたい時にはこの魔素を集める魔術式を使うと言う。
魔族領で魔術師達が『魔素よ燃えろ、燃えろよ魔素よ。我が目前の敵を火炎となりて打倒し給え!ファイアボール』といきなりファイアボールの魔術式を使っていた事を思い出し、教諭に問いかけてみたところ、いきなり魔法発動の魔術式が使えるのは魔族領など魔素の濃い場所だからだろうとの事だった。
ここで金獅子は実際に魔族領での魔術師達の魔術行使を見てきた者として一躍有名になった。
一緒に授業に出ていた学院生に実際の魔術はどうだったか、魔術師はどんな格好をしていたか、どんな杖を使っていたか、魔術の威力はどうだったか、などなどシツモンノ嵐に巻き込まれた。
だが実際に魔力変換の魔術式を試してみても魔力変換が行えない。
適性が低かったのだから仕方ないと金獅子は数をこなす事で補う。
他の座学などは見向きもしないで実地訓練のような授業ばかり受けている金獅子に教諭達も興味を持ったようで、あれこれと教えてくれるようになった。
やれ魔力変換の時の姿勢はこうだ、とか。魔力変換する時にはイメージが大切だ、とか。魔力変換するには気合いも必要になる、とか。きちんと魔素の流れを読み取って適切な魔素量がある場所で行え、とか。まぁ色々と教えられたが、どれを試しても金獅子には魔力変換が出来なかった。
そして翌日、同じように魔力変換の特訓をしていた金獅子の耳に魔石魔術の研究者がマジックシティに到着したとの情報が飛び込んできた。
今日はもう遅いので、明日から魔石魔術の実地調査が行われるらしい。
魔石魔術を使用可能なレベルを判断するのが目的な為、様々な魔術師レベルの人材が選出されていく。
今日も魔力変換の特訓を続けていた金獅子へと教諭が言う。
「明日からは魔石魔術の実地調査に参加して下さい。貴方のような魔素は視認出来るようになったけど魔力変換が出来ない人でも魔石魔術が使えるものなのかを試験したいそうです。」
魔素を感じ取れるが魔力変換は出来ない状態のレベルの人材として見事に金獅子が選出されたのだった。
翌日には魔石魔術の研究者に会える。
金獅子はこの日も泥のように眠りについたのであった。




